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春のごちそう
美咲のために 2話
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土鍋ご飯も簡単だ。夏は三十分、冬は一時間吸水させたお米を土鍋に入れ、水を注いで中火で沸騰するまで待つ。焦げ付きが気になる人は、沸騰したあとにしゃもじで底から剥がすようにかき混ぜるとよい。土鍋の蓋をし、弱火にしてから約十五分のタイマーをかける。
十五分後、火を止めて十分ほど蒸らし、蓋を開けてしゃもじでご飯を十字に切り、素早くほぐせば完成だ。
「……この土鍋を見ると、炊き込みご飯が食べたくなるわね」
子どもたちが自立してから、夫である勇と二人暮らしになり、炊き込みご飯を作るときはこの土鍋を使うようになった。二合のお米を使い炊き上げたご飯は、とても美味しくて……でも、食べる量が少なくなった恵子たちには量が多く、余ったご飯はおにぎりにして冷凍していたことを思い出して、ふふっと笑う。
「まぁ、今は勇さんもいないし、滅多に使わなくなっちゃったわねぇ」
頬に手を添えて眉を下げる。自分一人だけの食事は、作り甲斐をあまり感じない。
とはいえ、元気に過ごすためには食事が必要不可欠なわけで……だからこそ、こうしてたまに誰かと一緒に食事ができるというのが、恵子には嬉しかった。
最後に天ぷらを揚げる。山菜を味わうのに、一番よい調理法。
「お酒にも合うしね」
ぽつりと言葉をこぼして、天ぷら用の鍋を取り出して油をたっぷりと入れる。もしも余ったら、美咲に持っていってもらおうと考えながら、天ぷらを揚げた。衣は薄くするのがコツだ。
ふきのとうやタラの芽、しどけなどの山菜は天ぷらにすると食べやすい。しどけは茹でておひたしにするのも良い。軽いえぐ味があるがしどけはそれが旨味なので、春の山菜として地元でも人気がある。
「――こんなもの、かねぇ?」
大量の天ぷらを見て、恵子は悩むようにつぶやく。美咲の食べる量はどのくらいだったか、と思い出そうとすると、ピンポーンというチャイムの音が聞こえた。
「はいはーい」
パタパタと足音を立てて、玄関に向かう。玄関の扉を開けると、美咲がビニール袋を手にして立っていた。恵子を見るとぱっと笑顔を見せる。
「お呼ばれしたようで!」
「ふふ、いらっしゃい。ちょうど天ぷらができたところなのよ」
「わぁ、楽しみ!」
美咲のことは幼い頃から知っている。彼女が高校を卒業し、上京すると聞いたときには寂しくなったものだと恵子はしみじみと考えた。
彼女を家に招き入れ、納豆汁を温め直してからテーブルの上に作ったものを次々と乗せていく。
「手伝うよ?」
「美咲ちゃんは仕事帰りでしょ? こういうときくらい、おばあちゃんに甘えなさいな」
美咲は一瞬目を丸くして、それから「じゃあ、お言葉に甘えて」と椅子に座る。
シングルマザーとしてがんばっている彼女を、そっと応援するくらいは許されるだろう。そう考えて、恵子は料理を並べていった。
十五分後、火を止めて十分ほど蒸らし、蓋を開けてしゃもじでご飯を十字に切り、素早くほぐせば完成だ。
「……この土鍋を見ると、炊き込みご飯が食べたくなるわね」
子どもたちが自立してから、夫である勇と二人暮らしになり、炊き込みご飯を作るときはこの土鍋を使うようになった。二合のお米を使い炊き上げたご飯は、とても美味しくて……でも、食べる量が少なくなった恵子たちには量が多く、余ったご飯はおにぎりにして冷凍していたことを思い出して、ふふっと笑う。
「まぁ、今は勇さんもいないし、滅多に使わなくなっちゃったわねぇ」
頬に手を添えて眉を下げる。自分一人だけの食事は、作り甲斐をあまり感じない。
とはいえ、元気に過ごすためには食事が必要不可欠なわけで……だからこそ、こうしてたまに誰かと一緒に食事ができるというのが、恵子には嬉しかった。
最後に天ぷらを揚げる。山菜を味わうのに、一番よい調理法。
「お酒にも合うしね」
ぽつりと言葉をこぼして、天ぷら用の鍋を取り出して油をたっぷりと入れる。もしも余ったら、美咲に持っていってもらおうと考えながら、天ぷらを揚げた。衣は薄くするのがコツだ。
ふきのとうやタラの芽、しどけなどの山菜は天ぷらにすると食べやすい。しどけは茹でておひたしにするのも良い。軽いえぐ味があるがしどけはそれが旨味なので、春の山菜として地元でも人気がある。
「――こんなもの、かねぇ?」
大量の天ぷらを見て、恵子は悩むようにつぶやく。美咲の食べる量はどのくらいだったか、と思い出そうとすると、ピンポーンというチャイムの音が聞こえた。
「はいはーい」
パタパタと足音を立てて、玄関に向かう。玄関の扉を開けると、美咲がビニール袋を手にして立っていた。恵子を見るとぱっと笑顔を見せる。
「お呼ばれしたようで!」
「ふふ、いらっしゃい。ちょうど天ぷらができたところなのよ」
「わぁ、楽しみ!」
美咲のことは幼い頃から知っている。彼女が高校を卒業し、上京すると聞いたときには寂しくなったものだと恵子はしみじみと考えた。
彼女を家に招き入れ、納豆汁を温め直してからテーブルの上に作ったものを次々と乗せていく。
「手伝うよ?」
「美咲ちゃんは仕事帰りでしょ? こういうときくらい、おばあちゃんに甘えなさいな」
美咲は一瞬目を丸くして、それから「じゃあ、お言葉に甘えて」と椅子に座る。
シングルマザーとしてがんばっている彼女を、そっと応援するくらいは許されるだろう。そう考えて、恵子は料理を並べていった。
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