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第27話 これぞ本物!? 勇者ハーケン・クロイツァー

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 そこへパトラがバスケット片手に乱入してきた。

「ご主人様ぁ! ぼくの作ったサンドイッチも食べてください!」

 ああ、あれね、朝、台所で一生懸命造ってた毒物。
 とうとう俺を殺りに来やがったかぁ!
 おねえさんのサンドイッチが黄金色に輝いているとすれば、パトラのサンドイッチは茶色に淀んでいる。

「おい、阿子ぉ~、佳子ぉ~!」

 俺は二頭の牝牛の名を呼んだ。
 いずれも大食漢の大柄な牛で、その食欲は胃袋が八つもあるんじゃないかと思えるほどだ。
 
「ほら、パトラが作ったサンドイッチだ。さあ、食え! 食ってみろ!」

 二頭の牝牛はムシャムシャとサンドイッチを頬張った。
 まあ、命に別状はねえようだ。
 俺は安全を確認すると、他の牝牛たちに声をかけた。

「さあ、みんな、パトラがサンドイッチ作ってくれたから、遠慮なく食え!」

 群がり来る牝牛たち。
 パトラのサンドイッチはあっという間に数多あまたの胃袋に消化された。

「よかったな、パトラ。おまえのサンドイッチ、大好評だぞ。牝牛ちゃんたちに」
「あっ、あっ、ぼくの作ったサンドイッチ……」

 ああ、しょうがねえ。あいつ、涙目になってやがる。
 まあ、いいんじゃね? 俺とおねえさんの仲を邪魔しようとした罰だ。

「わぁ~~~~! ぼくの作ったサンドイッチぃ~~~~~!」

 あ~、とうとう泣き出しやがった。
 うぜえなぁ、せっかくおねえさんとデートを楽しんでいる最中なのに……。
 チッ、ムードぶち壊しだぜ。まったく。

 究極のランチ、おねえさんのサンドイッチに手を伸ばそうとしたら、いきなりバスケットの蓋を閉められた。

 おねえさんが怖い顔して、俺を睨んでる。

「おい、おまえ、自分が何したかわかってんのか!」
「えっ、俺、何かしました?」
「ほう、おめえ、空っとぼける気か? さすがはニート王だ! いいんだぜ、ならあたしの作った昼飯はお預けだ!」

 おねえさん、怒ってバスケットを引っ込めちゃったよ。
 俺の究極のランチがあああああ~~~~~!

「パトラ、そんなやつ放っといて、昼飯、二人だけで食べようぜ!」
「おっ、おねえさまあ~!」

 パトラのやつ、おねえさんに泣き付いてやんの。
 面白くねえから、そこら辺でもぶらついてくるか。

 空きっ腹抱えて、仕方ねえから牛乳をチビチビやりながら、牝牛さんの間を縫って散策していたのだが、おや? 桜子がいねえぞ!

 桜の花弁のような黒ぶちのある牛で、無邪気で、素直で、俺の言うことよく聞く牝牛ちゃんで、特にお気に入りの一頭だったんだが。
 出発前に二足歩行の調教したから、もしや、その足でどこかへお出かけになったとか。

「お~い、桜子。どこ行った!」

 すると彼方から、モォ~! と絹を裂く牝牛の悲鳴が!
 慌てて声のした方向へ駆け付けてみると、おおっ! なんてこった! 桜子ちゃんが……、人食いガマガエルに喰われてやがる。
 ガマガエルのやつ、冬眠から目覚めやがったんだ!

 体長五メートルはありそうな巨大なガマガエルが、桜子ちゃんの上半身を丸呑みにしていたのだ。
 両足を必死にバタつかせているので、まだ、息がある!
 桜子ちゃん、死ぬんじゃねえぞ!

 俺は右手にエネルギーを集中させると、必殺技、炎の紋章ファイヤーエンブレムを発動(心の中で)させた。右手が灼熱の炎に包まれる(ように俺には見えた)。
 
 よっしゃあああああ! 行くぜえええええ~~~~~~!

 俺は草原を亜光速で駆け抜けると、やつの土手っ腹に炎の紋章を叩き付けた。……はずなのだが、俺のニート級素人パンチでは、やつになんの痛痒つうようも与えはしなかった。
 そんなことをやってる最中にも、桜子ちゃんの下半身は徐々に、ガマガエルに飲み込まれてゆく。

 ああっ、桜子ちゃんが飲み込まれてゆく。

 俺は持てる限りの力を込めて、やつの腹に拳と蹴りを叩き付けた。
 何発も、何十発も。拳から血が滲み出るくらいに。

 グエッ!

 ガマガエルのやつが、俺の執念のパンチに音を上げて、とうとう桜子ちゃんを吐き出した!
 唾液塗れで泣きじゃくる桜子ちゃんを引きずろうとして、今度は俺がやつに頭から喰われた。

「なんだ! この野郎! 放せ!」

 やつの舌が、俺の顔をネチョネチョなぶる。
 少しづつ、身体が咽喉の奥に飲み込まれてゆく。

 息が、息が苦しい。

 人生を諦めかけた、そのとき、

 突然、ガマガエルが俺を咥えたままド~ンと前のめりに倒れた。
 
 いったい何が起こったんだ?

 這う這うの体で、ガマガエルの口から這い出すと、ぼんやりとした視線の先に、男の……、長身の男の背中が見えた。

 その男は白いマントを風になびかせながら、茫然と佇むおねえさんとパトラの方へ向かってゆく。
 血糊の付いた長剣を、血振ちぶりして鞘に納めながら。
 
 ふと振り向けば、ガマガエルは腹の辺りから真っ二つに両断されていた。

 男がおねえさんの前で立ち止まった。

「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
「えっ? ええっ……」

 突然のことに、おねえさんも戸惑ったようだ。
 でもその台詞、本来は俺に向かって言うべきだよね?
 助けられたにも拘わらず、俺は少しばかりムカついてしまった。

「それはよかった。あなたのような美しい方が傷付くのを、黙って見過ごすわけにはいきませんので」

 あいつ、いきなりおねえさんの手を取ると、その甲に接吻キスなんかしやがった!
 なんてキザなやつなんだ!
 死ね! アホ! バカ! クソ! マヌケ!

 俺は腹ん中で罵詈雑言を吐き続けた。

「あなたのような美しい方とは再び相まみえんことを。できうれば一流ホテルの酒場バーなどで」

 言いざま、やつはヒュッと指笛を吹いた。

 な、なんだ、あれ!? ユニコーン?

 森の向こうから、角を持った白馬が忽然と姿を現した。
 男は手綱を取って軽やかに騎乗すると、その切れ長の黒い瞳に再びおねえさんを映した。
 
「わたしの名はハーケン・クロイツァー。以後、お見知りおきを」

 その名を聞いたとき、一瞬、おねえさんの顔が強張ったように見えた。
 男は目礼すると、手綱をしごいて、風で騒めく草原の中を走り去った。
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