上 下
45 / 45
第2章 恐怖の残渣

第45話 能力値カンストで異世界転生したので…

しおりを挟む
 ほわん ほわん
 私とメアリーは光に包まれる。
 その光がすーっと消えると、そこは自宅のリビングだった。

「帰って…きたの?」
「帰って…きたよ!」
 お互い顔を見合わせてにっこりほほ笑む。
 ほっとしたらどっと疲れが押し寄せてきた。今日一日、何もやらずにボーっと過ごしたい…ところだけれど!
「よし、町長さんに挨拶に行きますか!」
 と体に鞭を打って町長さんの家に向かった。きっと心配していると思うから。

「フリーダ町長さん!ユメとメアリー、ただいま帰りました!」
 元気よく町長の家を訪ねると、ライアンとフリーダ町長が玄関まで迎えに来てくれた。
「よく無事で…無事に帰ってきてくれたね…。」
 豪儀ごうぎで快活な町長だけれど、今は目にうっすらと涙を浮かべている。
 積もる話が多すぎて、その日は夜御飯まで町長の家でお世話になった。
「そうかい、アヴァロンに行ってきたのかい。」
「はい。いろいろとありましたけれど、きちんとお墓参りもしてきました。」
「なるほどねぇ。メアリーの顔が別人のように明るくなっているもんねぇ。メアリー、パパとママに挨拶してきたんだね?」
「うん、きちんとお別れの挨拶をしてきたよ。」
「そうかい、そうかい。」

 フリーダは温かいまなざしでメアリーを見つめる。
 フリーダの言う挨拶は墓参り的なニュアンスで、メアリーはパパとママの霊体への挨拶というニュアンスだと思うのだけれど…いや、言わないよ?そんな無粋なこと。

 それからの日々は穏やかな日常そのもので、ようやくのんびり過ごすことができました…と言いたいところですが、色々とありまして。ええ…。
 夏にはオルデンブルク伯爵一家が避暑に来られて、いやそれ自体は良いのですが、観光客が増えるのにあわせてけが人も増えて仕事は大忙しだし、よくわからないけれど町の近くの大きな湖が干上がりかけるし、冬には大規模な雪崩が発生して町が呑み込まれそうになるし…。
 まぁそこは私の能力値最大カンストで乗り切ったんですけれど。

 翌年の春、ミューレンの町はまるでお祭りでもするかのような賑やかさに包まれた。
 今日はメアリーの誕生日。そう、娘が成人になる日、なのです!
「メアリーちゃん、可愛いわよ!」
 ご近所の奥様達から、まるで着せ替え人形のようにドレスを着せられ、ほんのりお化粧を施されたメアリーは、恥ずかしさに顔を真っ赤にしている。でも、メアリーはちゃんとお礼が言える子。
「皆さん、ありがとうございます!」
 とびっきりの笑顔でメアリーが応えた。

 ここ、ミューレンでは町を挙げて成人の誕生日を祝うという風習がある。
 娯楽の少ない田舎あるあるだ。
 主賓の成人者を囲んで、町の大人たちみんな飲めや歌えや踊れやの大騒ぎ。
 前世でも務めていた会社では何かと理由をつけて飲み会があって…あれは正直言うと参加するのが嫌だったなぁ。
 でも、この町のお祭りは楽しい。理由をつけて飲むところは同じだけれど、心がすごく通ってて暖かいから…かな?

 実は、この誕生日のお祭りはもう一つ目的があって…異性の人へのお披露目みたいなところ。これも田舎あるあると言いますか…。
 しかしメアリーに彼氏ができるかもですか!?…これは親としても気になるところ。町の若い男性たちが数人ソワソワしながらメアリーを見ているのを私は見逃さなかったよ?
 でも、ごめんね。もうすぐこの町とはお別れなんだ。

 私は昨晩、メアリーから相談を受けていた。
「ねぇ、ユメ。お願いがあるんだけど。」
「うん。なぁに?」
「私ももう成人するし、今のように診療所の雑用係じゃなくて、できればちゃんとしたお医者さんになりたいの。ユメは回復系魔法が使えないから、そっち系統の魔法を使えるようになったら、役に立てるかなって。」
 う、うん、そうだね。どストレートに突っ込まれたので少し狼狽うろたえたけれど、確かに私は回復系が使えない。能力値最大カンストのため、回復量が多すぎて、魔法をかけた人の許容量を超える回復量になってしまい、相手を殺してしまうのだ…。
「メアリーは魔法使いになりたい、ということね?」
「うん。」
「でも、私は正しく魔法を勉強してこなかったから、私じゃ何の参考にもならないわよ?」
 実際、適当に呪文を唱えても、私の魔法は発動してしまうのだ。

「王立魔法学院に入る?メアリーは魔法の才能があるから余裕で入学試験に合格すると思うけど?」
「ううん…できれば…」

 なるほどね、確かにあそこ以上に「医者になるための魔法使いの勉強場所」としてうってつけの場所はないわ。
「いいよ、ママがお願いしておきましょう!」
「ありがとう!」

 それにしても驚いた。
 一人前の医者になるまでという期間限定とはいえ、メアリーが私と離れて暮らすことを選んだのだ。これまでのメアリーはどんなことがあっても私と離れるのは嫌!それがたとえ危ない所だったとしても!とかたくなに離れることを拒んできたというのに。
 これが成長ということなのだろうか。嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもある。子供を産んで育てた経験はないのだけれど、私はしみじみと「こうやって子供って自立していくんだなぁ」と思った。

「はい、メアリー。これは私からの誕生日プレゼント。」
 そう言って私は大きめの袋を渡す。
 ガサゴソ…中身を取り出したメアリーは「うわぁ!」と感嘆の声を上げた。
 プレゼントの中身は服とマント。
 そう、かつて私が夜天の装備一式を先生から貰ったように、私もメアリーに魔女の装備一式をあげたのだ。
 メアリーの秋桜コスモス色の髪にあうように、杏色と若芽色を基調とした服とマント。
 実はメアリーが魔女になることを希望した時のために、こっそり用意してたんだけれど、本当に渡す日が来ちゃうなんて…。
「ねぇ、ユメ。これって名前とかついてるの?」
「そうねぇ…。春のイメージなんだけれど…春…春らしくて温かい…そう、木漏れ日のマントってどうかしら?ということは、これは木漏れ日の帽子ね。」
 袋に入りきらなかった帽子を衣装棚から取り出し、メアリーにかぶせる。
「素敵な名前ね!ちょっと着替えてみる!」
 言うが早いか、メアリーは服を次々と脱いで木漏れ日の装備一式を身に纏った。
「とってもよく似合ってるわ!」
 ほんと可愛い。いや、親バカとかそういうのじゃなくて、本当にかわいい。
「あれ?ユメ、なんだか不思議な感じがするんだけど…?」
「うん。実はね、木漏れ日の装備は一式身に纏うと物理・魔法攻撃の完全耐性、雨・風を防いで、炎や雷からも身を守ってくれて、暑さ・寒さを感じなくて、水に溺れることもないの。」
「す…すっごいね。」
 私の最大カンスト魔法を何度も見ているはずのメアリーをドン引きさせてしまった。
 付与魔法の経験は無い私だけれど、そこはもう能力値最大カンストですから。なんとかなっちゃったんですよ。
 で、調子に乗りすぎて、超高性能防御付与になっちゃったけれど…おそらく世界最強の装備になったけれど…うん、まぁいいよね?

 3日後の良く晴れた日。爽やかな風と春の花たちの香りがかすかに漂っている。
「メアリー、準備はいい?」
「うん。」
「じゃぁ、行きましょうか。転移!オルデンブルク伯爵邸!」

 そう、メアリーが魔法を学ぶにあたって、希望したのはアレクサンドラ先生。
 お姉さんのロザリアさんいわく「アレクサンドラ先生は弟子をとらない主義」らしいのだけれど、なぜだか私は弟子にとってもらえた。あれ?もしかして、一番弟子だったりして?
 ともあれ、その弟子からのお願い。アレクサンドラ先生も無下に断れず「しょうがないわねぇ。最近忙しいから早々に実地研修してもらうけど、それでいいのなら。」との返事だった。
 実地研修はむしろメアリーにとっては願ったり叶ったりだろう。

「まぁ、何かあったら魔法で呼んでちょうだい?すぐに駆け付けるから。」
「うん、大丈夫。もぅ、過保護なんだから…。」
 おやおや?アレクサンドラ先生の前では甘えてこないのかしら?大人になっちゃって…。
「それではアレクサンドラ先生、よろしくお願いします。」
「お別れの挨拶は済んだ?じゃぁ、早速なんだけれど、午後から病院に一緒に来てね。どこかの誰かさんが紹介状をいっぱい書くもんだから、こちとら大忙しなのよ!」
「あ、あはは…。お願いします!」
 そう、どこかの誰かさんは私だ。

「じゃあ、またね。転移!」
 ミューレンのマイホーム、最初住み始めた頃は一人で、その頃は広いなんて思わなかったけれど、メアリーがいないと広く感じちゃう。
 なんだかんだで子離れできてないのかな、私。

 でも、今度こそのんびりとした日々を過ごすんだ。
 大冒険なんていらない。このミューレンの町で静かに、そう静かに暮らして行こう。

『ユメさん!聞こえますか!?』
 不意に脳内に声が響く。
 アレクサンドラ先生?いや、この声はロザリアさんだ。
 脳の声に意識を集中する。
『ロザリアさん、どうしました?』
『お願い!ユメさんにしか頼めない事なの。詳しくは王宮で話すから、今すぐ来られるかしら?』
『わ、わかりました。』

 うっわー…ぜったい厄介事だよ、これ。
 私のこういう時の勘は当たるの。トイフェルさんの頼みとかだったら絶対に嫌だけれど、ロザリアさんのお願いだったら行くしかないよね…不本意だけれど!
 んもう。

 ――能力値最大カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

神に愛された子

鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。 家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。 常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった! 平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――! 感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

処理中です...