異能者の惑星

夢咲香織

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第4章 帰還

第40話 爆弾

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 アスターは自宅に戻ると、ミゲルに男の話をした。ミゲルは黙ってコーヒーを飲みながら聞いていたが、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
「そうか……。政府はそんな事を企んでいたか。それで、どうするつもりだ?」
「うん。ブランカ達と工場に行って、薬の設計図の入ったデータチップを破壊しようと思うんだ。ついでに、薬の生産ラインも爆破しようと思う」
ミゲルは飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「爆破って、それでその後どうするつもりだ? すぐ足が付くぞ」
「それは……」
アスターは上を見上げた。正直、後の事は考えて居なかったのだ。ミゲルはコーヒーを一口飲むと、意を決したように言った。
「よし、後の事は俺に任せておけ。それで何時やるんだ?」
「爆薬の準備とかあるから、次の休日にやろうと思う」
「分かった」
 
 翌日、アスターは街へ出かけた。ザンを探しに行ったのだ。いつもの裏通りにザンは居た。相変わらず汚れたTシャツにボロいカーゴパンツ姿だ。
「ザン! 聞きたいことがあるんだ」
「おや、あんたかい。何だね?」
「工場のラインを破壊できるような爆弾はどうすれば手に入るか分かるか?」
ザンは目を丸く見開くと、声を潜めて言った。
「何だい。物騒だね」
「頼む。どうしても要るんだ」
「そういう物なら、闇市で軍の横流し品が手に入るよ」
「有り難う。どこへ行けば良いんだ?」
「ちょっと待った。サウス・ブロンクスにあるがね。ヤバい地域なんで、俺が行ってきてやる。金を貰えりゃな」
アスターは黙ってザンに金を渡した。
「よし。こんだけありゃ十分だぜ」
「来週の週末までに欲しいんだ。余った金はあんたにやるよ」
「分かったよ。明日また来な。しかし、アレだね。あんたもクーデターでも起こすのかい?」
ザンはヒヒヒと笑うと金をポケットへじ込む。
「いや、俺は……」
「まあ良いさ。野暮な詮索は無しにしとくぜ」
「有り難う。頼むよ」
「おう、明日な」
 
 明くる日、アスターは授業を上の空で聞いていた。教師の話が耳を上滑りしていく。深く考えずにザンに金を渡したが、本当に爆弾を準備してくれるだろうか? ザンは金に困ったホームレスである。あのまま金を持ち逃げしても不思議ではない。
「いや……信じるさ」
アスターは口の中で小さく呟いた。
 
 夕方、アスターはザンに会いに行った。何時もの路地にザンは居た。背後に大きな紙袋が二つ並んでいる。
「買ってきてやったぜ」
「有り難う。金は足りたか?」
「ああ。ほら、釣りだよ」
そう言うとザンはポケットから金を取り出した。
「いや、残りは取っておいてくれ」
「良いのか?」
「良いんだ。礼だよ」
「そうか……。なあ、余計なお世話かも知らんが、あんた、死ぬつもりじゃあるまいな?」
「大丈夫さ。そんなつもりじゃないよ」
「それを聞いて安心したぜ。あんたらは中々良い奴等だからな。長生きして欲しいよ」
「……有り難う。じゃあな」
やっぱりザンは良い奴だ。犯罪を行おうとしている者に協力するなど、世間一般の価値観からすれば悪い奴だが、アスター達にとっては恩人である。
 
 マンションへ着くと、アスターは紙袋を開けてみた。プラスチック爆弾が二つずつ入っている。タイマーをセットして起爆するタイプだ。これで工場の生産ラインを破壊するのだ。
 
「プラスチック爆弾か」
ミゲルがやって来て爆弾を手に取った。
「うん。闇市で手に入れたのさ」
「こんな物騒な物も売ってるんだな。やはりやるのか?」
「うん。だって、そうでもしなけりゃ異能者に未来は無いだろ? このままじゃ、ジワジワ抹殺されていくんだ」
「そうだな……。リタやブランカ達には話してあるのか?」
「うん。四人で相談したさ」
「そうか」
 
 夜、ベッドの中でアスターは中々寝付けなかった。こんな事なら地球へは来るんじゃなかった。あのままタラゴンに居れば、地球の問題も、政府の醜さも知らずに済んだのに。
「でも、ザンに会えたしな」
ナナミやマリンや他の皆にも……。俺が異能者だと知れたら、皆はどう思うだろうか? やはり、政府と同じ様に拒絶するだろうか? どのみち、バレればもう学校へは行けないだろう。そう思うと、今までどうという事は無いと思っていた学校生活が、堪らなく貴重な物に思えてくるから不思議だ。犯罪者になる為に地球へ来た訳では無かったのだが、だがこれはやらなくては。異能者だというだけでこの世界から抹殺しようとするなど、認めるわけにはいかない――。
 
 ふとアスターの脳裏にタラゴンの月が浮かんだ。大きな満月。月が後押ししてくれている様に感じた。
「そうさ、吹っ飛ばしちまえ!」
アスターはそう叫ぶと、拳を握りしめた。後の事は考えるな。父さんが何とかしてくれる。俺達は薬の生産を止める事だけ考えれば良いんだ。アスターはタオルケットを頭まで被ると、眠りに付いた。
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