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第2章 惑星タラゴン
第25話 迎え
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子供達は異能力を発揮しながら育っていった。アスターは十八歳に、リタとアマラとブランカは十六歳になっていた。今日も四人は狩りとデブリ拾いに草原へ出ていた。ミゲルはもう四人の事を余り心配していなかった。四人とももう大人だし、何より異能力によって、既にミゲル達よりタラゴンに適応していたからだ。
「ただいま」
アスターがミゲルに声をかけた。肩にはインパラを担いでいる。リタは銀色の箱を持っていた。
「お帰りなさい。リタ、その箱は何?」
ハルカが訊ねる。
「透視してみたら薬箱だったわ。蓋が歪んでいて開かないから、レーザーで焼き切って使って」
リタは薬箱をハルカに差し出した。
「これはドクターにあげた方が良いわね」
「ドクターは医務室?」
「ええ」
「渡してくるわ」
リタは医務室へ入るとマムルに箱を見せた。
「ドクター、薬箱を見つけたわ。蓋が開かないから、レーザーで焼き切って使って下さい」
「おや、有り難う。今日の収穫はこれかい?」
「ええ。それと、アスター達がインパラを捕まえたわ」
「ホホ。大収穫じゃないか。ところで、そろそろ石鹸が切れるんだが、作ってくれるかね?」
「ええ、良いわ」
リタは食堂へ戻ると、アマラに声をかけた。
「ドクターがまた石鹸を作ってくれって」
「分かったわ」
リタは倉庫に貯めてあった木草灰を取ってくると、鍋に水を張って中へ入れ、かき混ぜた。しばらく置いて不純物を沈殿させる。アマラは油を用意した。リタは灰汁の上澄みをフライパンに入れてホットプレートにかける。煮たったところで、油を入れて撹拌した。段々とクリーム状の物が出来上がる。木型にクリームを入れて冷ました。冷めて固まれば石鹸の出来上がりである。
「石鹸作りって楽しいわよね」
リタが型を並べながらアマラに笑いかけた。
「ええ。私も好きだわ」
そう言ってアマラも笑った。
アスターとブランカはインパラを解体して、肉を冷蔵庫へしまいに来た。
「お、また石鹸作りか?」
ブランカは肉をしまうとリタに話しかけた。
「ええ。ドクターに頼まれたのよ」
「ねえ、アスター、また地球のホログラムを見ない?」
リタがワクワクしながら言う。
「そうだな。ブランカ達はどうする?」
「もちろん見るさ。な、アマラ?」
「ええ。都市が見たいわ」
四人はヴァーチャルルームへ入ると、ニューヨークの映像をセットした。ソファーに腰掛けると、大都会の喧騒の只中に放り出される。周囲には超高層ビルが立ち並び、ビルの谷間をハイウェイチューブが縫うように走っていた。街行く人々はお洒落に着飾り、皆早足で何処かへ向かっている。タラゴンとの余りの落差に四人はのけ反った。
「これが地球なのね」
リタは溜め息をついた。
「父さんの言っていた文明世界ってやつだな」
アスターが驚きの目で周囲を見回す。人工物だらけの巨大都市は、アスター達にとってはまるで別世界のおとぎ話の様である。
「こんな所で暮らすって、どんな感じなんだろうな?」
ブランカがアマラに話しかけた。アマラは頬を両手で挟むと
「そりゃあ、素敵なんじゃない?」
と呟いた。
「でも、何だか色々と大変そうだよな。大体こんな所で食料とかどうしているんだろう? 動物は居ないし、畑も無いし」
アスターが首を傾げる。
「父さんによると、田舎っていう食料を生産する農地と、生産工場っていうのがあって、そこで食料を作って都市に運んでいるらしいよ」
ブランカが説明した。
「なら、何も都市になんか住まずに初めから田舎とやらに住んでいれば済むことじゃないか?」
「だけど、地球人ていうのは昔から文明社会を造るために努力してきたんだって」
「何のために?」
リタが質問する。
「より快適で便利な生活をするためらしい」
「ふーん」
アマラがそう言った時である。ポラリス号全体が大きく震えた。
「何かしら?」
リタが立ち上がった。
「お前たち、ここにいたのか? 宇宙船が来たんだ。操舵室へ来てくれ」
タイガがドアを開けて呼びに来た。
四人は操舵室へ入ると、窓から外を見た。大きな銀色の流線型をした宇宙船がポラリス号の目の前に着陸したところだった。
「通信が入ったんだ。『ポラリス号のSOSをキャッチしたから、迎えに行く』とな」
ミゲルは宇宙船を指差して言った。
「まさか今頃迎えが来るとはな」
タイガが大して嬉しくも無さそうに肩をすくめる。もうタラゴン生活も長い。このままここに骨を埋める気で居たのに。
宇宙船から二人、人が出てきてポラリス号へやって来た。二人はグレーの制服に身を包み、一人はサングラスをかけた男だった。もう一人は女性だ。
「君たちがSOSの発信源かね?」
男はサングラスを外しながら訊ねた。
「そうです。自分はこの船の船長です。我々は二十二年前、中央政府の命により、人類が生存可能な星を調査するべく、ここタラゴンまで来たのです。宇宙海賊の攻撃でエンジンをやられて、離脱出来なくなったのです」
「その計画は私達も知っていますわ」
女性が頷いた。
「なら、どうして今まで……二十二年もたってから迎えに来たんです? ええと……」
アリッサが噛みつくように言った。
「ハモレよ。こちらはキャプテンのロック中佐よ」
「ただいま」
アスターがミゲルに声をかけた。肩にはインパラを担いでいる。リタは銀色の箱を持っていた。
「お帰りなさい。リタ、その箱は何?」
ハルカが訊ねる。
「透視してみたら薬箱だったわ。蓋が歪んでいて開かないから、レーザーで焼き切って使って」
リタは薬箱をハルカに差し出した。
「これはドクターにあげた方が良いわね」
「ドクターは医務室?」
「ええ」
「渡してくるわ」
リタは医務室へ入るとマムルに箱を見せた。
「ドクター、薬箱を見つけたわ。蓋が開かないから、レーザーで焼き切って使って下さい」
「おや、有り難う。今日の収穫はこれかい?」
「ええ。それと、アスター達がインパラを捕まえたわ」
「ホホ。大収穫じゃないか。ところで、そろそろ石鹸が切れるんだが、作ってくれるかね?」
「ええ、良いわ」
リタは食堂へ戻ると、アマラに声をかけた。
「ドクターがまた石鹸を作ってくれって」
「分かったわ」
リタは倉庫に貯めてあった木草灰を取ってくると、鍋に水を張って中へ入れ、かき混ぜた。しばらく置いて不純物を沈殿させる。アマラは油を用意した。リタは灰汁の上澄みをフライパンに入れてホットプレートにかける。煮たったところで、油を入れて撹拌した。段々とクリーム状の物が出来上がる。木型にクリームを入れて冷ました。冷めて固まれば石鹸の出来上がりである。
「石鹸作りって楽しいわよね」
リタが型を並べながらアマラに笑いかけた。
「ええ。私も好きだわ」
そう言ってアマラも笑った。
アスターとブランカはインパラを解体して、肉を冷蔵庫へしまいに来た。
「お、また石鹸作りか?」
ブランカは肉をしまうとリタに話しかけた。
「ええ。ドクターに頼まれたのよ」
「ねえ、アスター、また地球のホログラムを見ない?」
リタがワクワクしながら言う。
「そうだな。ブランカ達はどうする?」
「もちろん見るさ。な、アマラ?」
「ええ。都市が見たいわ」
四人はヴァーチャルルームへ入ると、ニューヨークの映像をセットした。ソファーに腰掛けると、大都会の喧騒の只中に放り出される。周囲には超高層ビルが立ち並び、ビルの谷間をハイウェイチューブが縫うように走っていた。街行く人々はお洒落に着飾り、皆早足で何処かへ向かっている。タラゴンとの余りの落差に四人はのけ反った。
「これが地球なのね」
リタは溜め息をついた。
「父さんの言っていた文明世界ってやつだな」
アスターが驚きの目で周囲を見回す。人工物だらけの巨大都市は、アスター達にとってはまるで別世界のおとぎ話の様である。
「こんな所で暮らすって、どんな感じなんだろうな?」
ブランカがアマラに話しかけた。アマラは頬を両手で挟むと
「そりゃあ、素敵なんじゃない?」
と呟いた。
「でも、何だか色々と大変そうだよな。大体こんな所で食料とかどうしているんだろう? 動物は居ないし、畑も無いし」
アスターが首を傾げる。
「父さんによると、田舎っていう食料を生産する農地と、生産工場っていうのがあって、そこで食料を作って都市に運んでいるらしいよ」
ブランカが説明した。
「なら、何も都市になんか住まずに初めから田舎とやらに住んでいれば済むことじゃないか?」
「だけど、地球人ていうのは昔から文明社会を造るために努力してきたんだって」
「何のために?」
リタが質問する。
「より快適で便利な生活をするためらしい」
「ふーん」
アマラがそう言った時である。ポラリス号全体が大きく震えた。
「何かしら?」
リタが立ち上がった。
「お前たち、ここにいたのか? 宇宙船が来たんだ。操舵室へ来てくれ」
タイガがドアを開けて呼びに来た。
四人は操舵室へ入ると、窓から外を見た。大きな銀色の流線型をした宇宙船がポラリス号の目の前に着陸したところだった。
「通信が入ったんだ。『ポラリス号のSOSをキャッチしたから、迎えに行く』とな」
ミゲルは宇宙船を指差して言った。
「まさか今頃迎えが来るとはな」
タイガが大して嬉しくも無さそうに肩をすくめる。もうタラゴン生活も長い。このままここに骨を埋める気で居たのに。
宇宙船から二人、人が出てきてポラリス号へやって来た。二人はグレーの制服に身を包み、一人はサングラスをかけた男だった。もう一人は女性だ。
「君たちがSOSの発信源かね?」
男はサングラスを外しながら訊ねた。
「そうです。自分はこの船の船長です。我々は二十二年前、中央政府の命により、人類が生存可能な星を調査するべく、ここタラゴンまで来たのです。宇宙海賊の攻撃でエンジンをやられて、離脱出来なくなったのです」
「その計画は私達も知っていますわ」
女性が頷いた。
「なら、どうして今まで……二十二年もたってから迎えに来たんです? ええと……」
アリッサが噛みつくように言った。
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