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番外編
王太子の視察 後編
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「二人とも、すまなんだ」
客間のソファに身を沈めたウィリアムが、疲れた顔で詫びを口にした。
向かいのソファに並んで腰掛けたリディアとニールは、苦笑を浮かべてそれを受ける。
「王太子殿下のせいではございませんでしょう」
「そうよ。ウィル兄様」
「いや。視察の副使として名乗りを上げたのはドイル子爵だが、決定したのは私だからな。責はある」
俯きどんよりと落ち込む兄の姿に、リディアはこっそりとため息を吐いた。
風格が出てきたと思ったが、相変わらず根は真面目で繊細な性格のようだ。
(悪い方ではないのだけれど、王としては少々頼りないのよね。ニールの前でも素を見せるのは、妹婿ということでもう身内感覚なのかしら?)
暗雲が頭上に見えるほど沈んでいるウィリアムを見て、ニールが『どうしましょう』と視線を寄越してきた。
リディアは『任せておきなさい』と小さく手を上げる。
この状態から復帰させるのに、魔法の言葉があるのだ。
「ウィル兄様。ジェシカ義姉様やシャロン、サイラスはお元気?」
リディアが尋ねた途端、ウィリアムはぱぁと輝くような笑みを浮かべて顔を上げた。
「うむ。ジェシカもシャロンもサイラスもすこぶる元気だ。三人ともグレイスに会いたがっていた。私だけ会えてずるいと随分文句を言われたが。土産はジェシカたちが選んだ物もあるのだ。後で持って行かせよう」
愛妻と愛娘、愛息子の話題となるとこの兄は生き生きし出すから、機嫌を損ねた時の奥の手として、公然の秘密になっている。
元来慎重な性格な為、機嫌が良くなり過ぎても国益を損なうことはしないので、周りも強く注意することはない。
お手軽な手段だった。
「ありがとう。お帰りの際は三人へのお土産も渡すから、しっかり届けてね」
「もちろんだとも」
すっかり復活したウィリアムは、「そうだ」とつぶやいてニールに目を移す。
「公の場以外での会話は王太子と辺境伯としてではなく、義兄と義弟として話したいのだが、良いだろうか? 出来れば義兄上と呼んでもらえると嬉しい」
突然のお願いに、ニールが目を瞬かせる。
釘を刺されたばかりなので、妹をかっさらって行った敵と思われていると考えていたのだろう。
ニールにしては珍しく、戸惑ったような曖昧な笑みを浮かべている。
「はぁ。恐れ多いことで……」
「……駄目だろうか」
ウィリアムがしょんぼりと肩を落とす。
そこに王太子の威厳は欠片もない。
困惑したニールが、リディアに視線で助けを求めてくる。
リディアは少し考えて、首を傾げた。
「ウィル兄様は、年下の義弟が出来て喜んでらっしゃるの?」
「うむ。実の弟は可愛げない上に無口で、上二人の妹が嫁いだ義弟は二人とも私より年上なのだよ。可愛い妹はグレイスやニコラ、ミッシェルがいるが、可愛い弟も欲しかった」
三十路を過ぎた妻子持ちが力説する言葉ではない、とリディアは冷静に判断したが、態度には出さなかった。
さりげなく姉と妹が一人ずつ可愛い妹から除外されていたが、それも指摘しなかった。
姉のリディア=ヴァネッサは気性が激しく、妹のリディア=エミリアは騎士の真似事をするくらい元気が良過ぎる。
長子のウィリアムは彼女たちに散々振り回されたり尻拭いをしたり、大変な目に遭っていた。
だからといって嫌っている様子はないから、家族としては愛しているが、可愛いと思うのとは違うということだろう。
「ひ……グレイス様」
「……そうね。ニールが良ければ呼んで差し上げて」
リディアはにこやかな笑みを浮かべて言った。
よく可愛がってくれた兄を喜ばせたい思いと、打算もある。
ニールが王太子に可愛がられれば、大きな後ろ盾を得ることになるだろう。
ドイルのような無礼者も減るはずだ。
リディアに後押しされたニールは、困ったようにウィリアムを見て再度問いかけた。
「本当に呼んでよろしいんですか?」
「あぁ。ぜひ呼んで欲しい」
きっぱりとウィリアムが言う。
期待に満ちた目で見つめられたニールは、一呼吸置き、何故かはにかみながら口を開いた。
「では。これからよろしくお願い致します。義兄上」
「うむ。困ったことがあれば気兼ねなく頼るがいい。ニールはもう私の弟なのだからね」
「そんなことおっしゃってよろしいんですか? 俺……私が義兄上とお話するのは婚礼前に少しご挨拶したくらいで、ほぼ初めてのようなものですが……」
「なに」と、ウィリアムがにこやかに笑う。
「領主としての働きぶりは報告を受けているし、我が妹の人を見る目は確かだからな。グレイスが君に信を置いているのは見ていれば分かる。グレイスは心優しく度量が広いが、優しさを履き違えて愚者を増長させるような真似はせぬよ」
「まぁ、ウィル兄様。買いかぶり過ぎよ」
リディアは苦笑を浮かべ、謙遜して見せる。
良い子として振る舞っていたリディアに対する家族の信頼は厚い。
気ままに振る舞えない鬱屈はあれど、その信頼は嬉しいものだ。
そんなリディアにウィリアムは笑って首を横に振った。
「そんなことはない。なぁ、ニール」
「はい。グレイス様はしっかりした方ですから。よき領主でなければ愛想を尽かされてしまいます」
「兄妹の中で一番高貴なる者の義務を心得ているのはグレイスだからな」
褒められ慣れているリディアだが、ニールの前で言われるのはどうにも面映ゆい。
家族にも見せたことのない性悪の本性を知っているのはニールだけなのだ。
息を吸うようにかぶってきた淑女の面を再度意識し直したリディアはこほんと咳払いし、にこやかに他の話題へと移行させることにした。
「わたくしのことはもうよろしいでしょう。それより王都の話を聞きたいわ」
「ではウィル兄様。また晩餐の席でね」
「それまでゆっくりとお休みください。義兄上」
「あぁ。君たちと話せて楽しかったよ。ではまた後で」
にこやかに手を振るウィリアムに一礼して客間を辞したリディアとニールは、部屋から十分に離れた所まで進み、同時に息を吐いた。
ニールのため息はリディアのそれより余程重い。
心臓に毛が生えていそうな男でも苦手なことがあるのかと思いながらニールを見やる。
「兄様の相手は疲れたかしら?」
「そんなことはありません。いろいろと話を聞けて興味深かったですし。そうではなくて……その……俺は兄という生き物に偏見を持っていたようです」
予想外の返答にリディアは目を瞬かせた。
「どういうこと?」
「いえ……実兄たちと比べたら大違いだと思ってしまって。義兄上のように普通に下の子を可愛がってくれる兄もいるんですね」
何やら遠い目をするニールは、乾いた笑みを浮かべている。
リディアは少し首を傾げて尋ねた。
「確か、三人いるのだったわね。お前の兄は」
「はい。三人とも粗野というか粗暴というか、可愛がり方も荒っぽいんですよね。迷惑も散々かけられましたし」
別に嫌いではないんですけどとつぶやくニールが、可愛げのない次兄について語っていた長兄に重なって見えた。
(……変な所で似ているわね。兄と夫の気が合うのは、喜ぶべきなのでしょうけれども。生まれも育ちもまったく違うというのにおかしなこと)
もう一度反対方向にリディアは首を傾げる。
「ではウィル兄様が嫌というわけではないのね?」
「はい。ご気性が良い方ですけど、お顔は姫様に似てらっしゃいますよね。それに思慮深い方ですし。嫌う要素がありません」
「……わたくしも兄様も顔は母上似なのよ」
ニールの言い方は引っかかるものの、自身の気性が良いとは思っていないリディアはさらりと流した。
兄を褒められて気分も良かった。
ウィリアムは世継ぎとして優秀で、大局を見通す目だけではなく、様々な事柄に対して深い知識と見解を持っている。
少々頼りなく、家族に夢を持ち過ぎているきらいはあるが、自慢の兄なのである。
「姫様はご家族がお好きなのですね」
「お前の所も概ね仲が良いでしょう」
「えぇ。まぁ、親父とはそりが合わないんですけど……。嫌いという程でもないです」
苦虫を噛み潰したような顔で言うニールがおかしく、リディアはふっと笑った。
「……子が生まれて落ち着いたら、絵姿を描かせましょう。父上たちに送るついでに、お前の家族に送る分も描かせたら良いわ」
王都までは馬車で六日ほどかかる。
ニールは年に一度の貴族院招集の為に王都へ行っているが、リディアはちょうど妊娠が発覚した為についていかなかった。
子が生まれても、しばらくは無理だろう。
ならば絵姿だけでも送りたい。
兄に会って、柄にもなく里心が付いたようだ。
リディアの提案にニールは喜びつつも困ったように眉を下げた。
「嬉しいですけど、あまり大きい物は無理ですよ。実家はこの館や王宮よりだいぶ狭いので」
王侯貴族が描かせる絵姿は、一抱えもあるほど立派な額縁に納めた大きな物が主流だ。
辺境伯の館にも代々の領主一家の絵姿が飾られている一間があるが、等身大の絵姿も少なくなかった。
「お前の家に送る物の大きさは画家と相談するといいわ」
「そうします。あと、手の平大の姫様と子供の絵姿も欲しいです。それがあれば仕事中もずっと側に置いておけるじゃないですか」
あまりに嬉しげに言われると、恥ずかしいことをするなと怒るかどうかも迷うようになってしまった。
順調にニールに毒されている気がする。
いや、両親や兄姉たちの夫婦関係を見るに、これが今の時代の普通なのだろうか。
結婚三十年以上経ってもうっとうしい程の熱々ぶりを披露する今世の両親を思い出したリディアは、微妙に顔を歪ませ、釘を刺すに止めることにした。
「……カールトンの恨みを買わないよう、ほどほどになさい」
ニールが心得顔でうなずく。
「カールトンは単身赴任中ですからね。見せつけるなと怒らせないように気をつけないと……」
そこで言葉を切ったニールは、ふと思いついたように瞬いた。
「あぁでも、そろそろこちらの治安もよくなってきましたし、妻子を呼び寄せたらどうかと勧めてみたらいいですね。道中の護衛は俺持ちで。宰相閣下に付けてもらった筆頭補佐官ですけど、出来ればずっと居て欲しいんです」
リディアもその考えには賛成だった。
カールトンは有能な補佐官だ。
ぜひ辺境伯領に留めておきたい。
「恩を売っておくのは良い考えね。宰相への根回しはわたくしの伝も使いましょう」
「はい。ぜひお願いします……ん」
「どうしたの、ニール」
客間のある階からリディアたちの私室のある階へとつながる階段付近まで来たところだった。
何かに気づいた様子で、ニールが足を止める。
その顔に浮かぶ表情は険しい。
リディアもニールがにらむ方に意識を集中し耳をすませるが、よく分からない。
「……言い争うような声が聞こえます。こちらに向かって来ているようです。離れましょう」
「分かったわ」
リディアには何も聞こえないが、ニールはこういう冗談は言わない。
今はニールも剣を佩いていないのだ。
主人として争いを納める必要はあるが、まずは身の安全確保を優先しなければならない。
王太子が狙われるのは更にまずい。
とにかく他の信頼出来る者を見つけて状況を把握しなければ。
「……が……だ!」
「で……せん……くださ……」
その場から遠ざかる途中、リディアの耳にも争う声が届き始めた。
どうやら、早足でこちらに向かって来ているらしい。
「……この声、さっきも聞いたわね」
リディアはうんざりした表情を隠さずつぶやいた。
ニールも実に嫌そうな顔をしている。
「はい。もう一人は従僕ですよ」
「何と言っているか聞こえて?」
リディアにはよく聞き取れないが、ニールなら話の内容まで分かるのではないだろうか。
「……目的は姫様のようです」
底冷えするような冷気を漂わせながら、ニールが言う。
「そう」
リディアは目を細め、足を止めた。
「姫様!」
「ニール。お前はあれ相手に素手で勝てるかしら?」
「愚問です。あれが隠し武器を持っていたとして、遅れをとることはありませんし、指一本足りとも姫様に触れさせません。ですが、万が一ということもあります。姫様とお腹の子を危険にさらすことは出来ません」
厳しい表情で見下ろしてくるニールに、リディアは艶やかに笑ってみせた。
「ならばこそ、早めにトドメを刺しておきましょう。うっとうしい害虫はさっさと駆除しておかねばね」
「しかし」
「お前がわたくしを守るのでしょう?」
重ねて問うと、ニールは「はぁ」と大きなため息を吐いた。
「普段は領主としての自覚を持て、弁えろとおっしゃるのに」
そう言いつつ、ニールは獰猛に笑った。
害虫を駆除したいのは、ニールも同じだったのだろう。
ただ形式として、口にしただけだ。
リディアはふふと笑い、嘯く。
「客人のお痛を諫めるのは主人の役目でしょう」
「違いありません」
言い争う声はすぐ側まで近づいてきていた。
ニールはリディアを守るように、一歩進み出る。
「旦那様! 奥方様!」
先に気づいたのは、従僕だった。
リディアたちの姿を認め、悲壮な顔で声を上げる。
ニールは従僕を安心させるように、余裕のある笑みを浮かべた。
「客人の相手ご苦労様。あとは俺たちが話を聞くよ。君はフレッドに報告を」
家令の元へ行くよう指示を受けた従僕は、ちらりとリディアの顔を見て言い淀む。
「しかし……」
「大丈夫だよ。俺が居る」
ニールの強さは使用人たちもよく分かっている。
にっと笑ったニールに、従僕はこくりとうなずいた。
「ご指示に従います。失礼します」
一礼して去っていく従僕を見送ることなく、リディアは意図して浮かべた困り顔でその男を見る。
先ほどから、じろじろと無遠慮な視線を感じて気持ち悪くて仕方がない。
しかし、リディアは黙って待った。
この男はニールのことを侮っている。
おそらく、他にもニールのことを侮っている輩は居るだろう。
つけ込まれる要素は排除しておくに限る。
ニールもそれは分かっているようだ。
穏やかな笑みとは裏腹に、冷ややかな濃い茶の瞳を男に向け尋ねた。
「ドイル子爵、どうなさいました。子爵がいらした方は私たちの居室がある一角ですが?」
「いや、先ほどはゆっくりお話出来なかったので、ぜひともリディア=グレイス様にお会いしたくてね。従僕に取り次ぎを願ったのだが聞き入れてもらえなかったのでお邪魔したんですよ。しかし、こうしてお会い出来て良かった」
咎められたドイルは悪びれることなく、ニタリと笑って答えた。
問いかけたニールにではなく、リディアにねっとりとした視線を向けたままで、だ。
ニールの纏う空気が、一段と冷たくなる。
「晩餐までお待ち頂ければ話す機会もありましたものを。私的な場所にもヅカヅカと入られるとは、ドイル子爵は礼儀をご存じないとみえる」
「ほぉ。バンフィールド辺境伯も貴族の礼儀をご存じなんですな」
ドイルが醜悪な顔で嘲笑った。
ピリピリした殺気混じりのニールに対してここまで言えるとは、余程気配に鈍感なのだろう。
心底ニールを、平民騎士上がりの辺境伯を見下げているのだと分かった。
平民を大事にする風潮は、賢妃リディアが百年ほど前から広げたものだ。
それは王族を始め、高位貴族から徐々に浸透していったという。
反面、下位貴族の中には未だ平民を粗末に扱う者がいるのだそうだ。
ドイル子爵もその一人なのだろう。
(……尊き血と卑しい血。それを区別する考えはわたくしも持っているわ。でも……)
扇で口元を隠し、リディアは目を伏せる。
それをどう解釈したのか、ドイルはリディアの全身を舐め回すように視姦してくる。
ニールから、隠し切れない殺気が吹き出した。
「グレイス様をいやらしい目で見るな!」
「はっ。これだから卑しき出の者は困る。この程度で取り乱すとは。所詮は平民上がりだな。身の程を弁えろ」
ドイルはニールの態度を鼻で笑い、リディアに問いかける。
「この男は貴女を満足させられておりますかな? 高貴で美しい花に土くれの器は合わぬでしょう」
「貴様!」
「ニール、落ち着きなさい」
リディアは激高するニールの肩に手を添えて言った。
「しかし!」
不満を言いかけたニールはリディアを見下ろし、言葉を飲み込む。
リディアは薄らと微笑んでいた。
余所行きの優しげな笑みではなく、他者を下すことを躊躇わない強者の笑みだった。
それを向けられたニールの喉元がごくりと動く。
ニールが落ち着いたことを見て取ったリディアは、肩に置いた手をそのままにドイルへと顔を向け、言い放った。
「なんの功績もない子爵風情が優美な花器気取りとは、笑わせてくれるわね」
「グ、グレイス様!?」
心優しいと信じきっていた姫君の暴言に、ドイルが戸惑いの声を上げる。
リディアは不愉快げに顔をしかめた。
「その名で呼ぶのではないわ。下郎が」
リディアが『グレイス』と呼ぶのを許したのは家族だけだ。
ただでさえ悪かった機嫌が更に降下する。
大凡の貴族の情報は頭に入れている。
特に視察一行に加わった者たちの情報は、改めて情報収集していた。
だから、ドイルについても情報としては知っていたのだ。
これほどまで報告以上にいけ好かない男だとは、今日まで知らなかったが。
リディアは冷笑を浮かべて言う。
「子爵の位にあぐらをかき、領地経営もままならず国に納める税を先代より大幅に減らし、戦も仮病を使ってまで逃げた上にこの暴挙とは、呆れて言葉もないわ。挽回の機会をと視察団に立候補したと思い、副史に任命した兄様の温情をも裏切るなど畜生にも劣る恩知らずでしょう。そんなお前がニールを笑う資格は皆無。いくら由緒あるものでもヒビ割れた花器など塵でしかないわ。きちんと水を蓄える役割を果たせる土くれの器の方が幾分も上等というもの。お前の方こそ身の程を弁えなさい」
怒濤の罵りにドイルは顔色をどんどん失い、ある一点を越えた所で一転して憤怒の表情となった。
「こ、この阿婆擦れが! 黙って聞いておれば好き放題に言いやがって!」
「あら。すべて本当のことでしょう。それに、高貴な者はこの程度のことで取り乱したりしないのではなくて? お里が知れるわね」
傲慢とあごを上げて、リディアは小馬鹿にするように嘲笑った。
挑発とはこうするのだという見本のようだ。
まんまと挑発に乗せられたドイルは、真っ赤な顔でリディアに殴りかかろうとする。
しかし、そのような暴挙をニールが許すはずもない。
「がはっ」
ニールの足のつま先が、ドイルの鳩尾にめりこんだ。
下町育ちのニールは、剣を持たない喧嘩の仕方もよく知っている。
甘やかされて育った子爵の拳を避け、蹴りを叩き込むことなど造作もない。
ニールは泡を吹いてひっくり返ったドイルの肩を踏みつけ、表情の抜け落ちた顔で見下ろした。
「姫様。害虫をしとめてもよろしいですか?」
「構わない、と言いたい所だけれど時間切れよ、ニール」
バタバタと複数人の足音が近づいてくるのが聞こえた。
先ほどの従僕が応援を呼んで来たのだろう。
ニールは忌々しげに舌打ちし、ドイルの肩から足を下ろす。
下ろす前にしっかりと体重をかけて踏みつけていたので、相当鬱憤が溜まっているようだ。
「グレイス! 大丈夫か!」
「ウィル兄様!」
客間に居るはずの兄の声を聞き、リディアはさっと不安げに瞳を潤ませ、怯えていたふりをする。
「義兄上、どうしてこちらに?」
ニールが驚き問いかける。
ウィリアムは厳しい顔で答えた。
「廊下が騒がしいので出てみれば、ドイル子爵がグレイスたちに絡んでいると聞いて駆けつけたのだ。どうしてそこにドイル子爵が倒れているか聞いても良いか?」
「はい。ドイル子爵はグレイス様に卑猥な言葉を投げかけ、自分が満足させてやるとグレイス様に襲いかかった為、私が排除しました」
ニールが都合の悪いところを省略した報告をする。
それを聞いたウィリアムは、痛ましげな視線をリディアに向けた。
「グレイス。大丈夫か?」
リディアは弱々しげに微笑み、うなずいた。
「えぇ。ニールが守ってくれたから」
「そうか。二人とも重ね重ねすまぬ。ドイルはしかるべき処分を下すが、貴族を裁くには御前会議が必要だ。私が責任を持って連れて行くから、視察が終わるまで牢に放り込んでおけ。身重の婦人を襲うなど、男の風上にもおけぬわ。あぁ、貴族だと気を使わず縄でつないで良い」
王太子の命を聞き、従僕たちがニールを仰ぎ見る。
ニールはそれにうなずいた。
「殿下のおっしゃる通りにしておいて。詰め所の牢で良いけど、見張りは複数人置くように牢番に伝えてくれる?」
「はい。旦那様」
気絶しているドイルを縛り上げた従僕たちは、数人で丸太を運ぶように担いで連れて行った。
女主人に狼藉を働こうとした相手だ。
ぞんざいな扱いになるのも無理はない。
「グレイス。今日の所はゆっくりと休んで気を落ち着かせると良い。私のことを気にすることはない」
「そういうわけにもいかないわ、兄様。歓迎の晩餐会があるのに……」
折角準備したということもあるが、館の女主人として初日の晩餐を欠席するなど出来るはずもない。
困り顔のままリディアが言うと、ニールとウィリアムの二人は顔を見合わせ、同時に大きなため息を吐いた。
「グレイス様、俺がしっかりと主人役を務めます。お願いですからゆっくり休んでください。念のため、医者の診察も受けてくださいね」
「そうだぞ、グレイス。他の随員も出る正式な晩餐会はやはり気疲れするだろう。腹の子にこれ以上負担をかけてはいけない」
「けど」
「グレイス様が身重だということは皆知っています。大事をとって休んでいると説明しますから、欠席したからと悪評が立つことはないでしょう」
「私からも事情を説明しよう。それで悪評を流すような者がいれば私が許さぬ」
相手がニールだけなら『馬鹿なことを言わないでちょうだい』と突っぱねるところだが、ウィリアムからも釘を刺されては強行するのは難しい。
リディアは眉を下げ、内心は渋々とうなずいた。
「分かったわ。ニール、頼むわね。ウィル兄様、ありがとう」
リディアが折れたことに、男二人は露骨なまでにほっとした顔をする。
「強情な所がある子だから、ニールもよく見ていてやってくれ」
「もちろんです、義兄上」
真剣な顔でニールの肩に手をおいて言うウィリアム。
ニールもまた真剣な顔でうなずいている。
夫と兄は妙に連帯を強めたらしい。
(よく見ていてやれなど、幼子ではないのだから……。言う兄様も兄様だけれど、うなずくニールもニールだわ)
リディアは腑に落ちないものを感じてむっと口を曲げた。
「ん」
身体に伝わる振動を感じ、リディアは薄らと目を開けた。
部屋の中は暗い。どうやら夜もすっかり更けたようだ。
「起こしてしまいましたか? すみません」
そう言いながらニールが寝台の掛布の中に入り込み、横たわったままのリディアを後ろから抱きしめる。
「晩餐会は?」
「無事終わりましたよ」
リディアに頬ずりしながら、ニールが答える。
「そう。良かったわ」
リディアはそっと息を吐いた。
医師の診察を受けた後に軽い食事をして、寝台に横になったのだ。
どうやらそのまま寝てしまっていたらしい。
「具合はどうですか? 医者はなんて?」
「大丈夫よ。何もないわ」
さらりと答えたところ、ニールが大げさなため息を吐いた。
「嘘つかないでください。医者から聞きましたよ。お腹が張っていたって」
「……報告を受けていたのなら聞かなくとも良いでしょう。それに横になったら良くなったわ。一時的なものよ」
「リディア様の口から聞きたかったんです。一時的なものでもなんでも。心配するのは当然じゃないですか。……俺のせいですし」
リディアの身体に回された腕の力が、ぎゅっと強くなる。
痛くないが、身動きはとれない。
後ろから抱きつかれている為に顔は見えないが、何となく情けない表情をしていそうだ。
(慰めてやる義理は…………あったわね)
元平民だろうが情けなかろうが、リディアの夫で腹の子の父なのである。
面倒だと思わなくはないが、お互い様だと思える程度には絆されているのだ。
本当に随分と寛容になったものだと思う。
ただし、優しい言葉をかけるのもリディアらしくはないだろう。
あら、と首を傾げて言ってやる。
「わたくしはお前と結婚しない方が良かったのかしら?」
「まさか! リディア様は俺の奥さんです! 他の男になんて渡しません! そんな男が居たら始末します! リディア様は俺のなんです! リディア様が生むのは俺の子だけなんです!」
腕だけではなく足まで絡めて、ニールはリディアにすがりつく。
良くない想像をしたのか、若干涙声になっていた。
態度はなさけないが、この男なら相手が高位貴族だろうが他国の王族だろうが本当に殺るだろう。
もし高位の男が相手であれば、ニールも咎めなしでは済むまい。
子供を父なし子にするわけにはいかない。
誤解もさせないように気をつけておくべきだろうか。
(それにしても、仕方のない男だこと)
リディアは小さく笑い、身をよじった。
正面から向き合い、抜き出した手をニールの頬に添える。
「そう思うのなら堂々としてなさい。わたくしの夫はお前なのだから。……夫を侮辱されて妻が怒るのは、当たり前のことなのでしょう?」
「リディア様!」
感極まったらしいニールの唇が、リディアのそれに重なった。
ニールは噛みつくような口づけの合間合間に、「大好き」だの「愛しています」だの「幸せ過ぎて死にそうです」だの、熱に浮かされたように囁いてくる。
リディアは息継ぎするだけで精一杯で罵倒の言葉も出てこないが、ニールはそれでも嬉しそうだ。
やっと口から離れたニールが、こつんと額を合わせてきた。
間近からのぞき込んでくるニールの濃い茶の瞳に熱がはらんでいるのが、絞った灯りだけでも分かる。
「……しないわよ」
寝間着越しに当たる硬く熱いモノの存在から意識をそらし、リディアは言った。
ニールは慌てて腰を離し、わたわたと手を振った。
「わっ、分かってます! 医者にも今日は駄目だって三回くらい念を押されましたし!」
「…………視察が終わるまでは駄目という約束は覚えているわね?」
「視察はあと四日もあるじゃないですか。ふ、雰囲気に流されて明日くらい……」
「ニール」
半眼で睨めつけると、ニールは目に見えてしょんぼりした様子で肩を落とした。
「ううう。このままじゃ寝られないので、ヌいてきます……」
背中を丸めたまま、ニールが寝台を出ていく。
その姿を可愛いと思ってしまうのは、やはり自身の性格が良くないからだろうか。
(でも、そうね。ウィル兄様には悪いけれども、ほんの少しだけ、早くお帰りにならないかと思ってしまったわ。……ニールには絶対に言わないけれど)
先ほどまで感じていた温もりが離れてしまったことを少々寂しく思いながら、リディアは「さっさと戻って来ないと寝られないではないの」とつぶやいた。
客間のソファに身を沈めたウィリアムが、疲れた顔で詫びを口にした。
向かいのソファに並んで腰掛けたリディアとニールは、苦笑を浮かべてそれを受ける。
「王太子殿下のせいではございませんでしょう」
「そうよ。ウィル兄様」
「いや。視察の副使として名乗りを上げたのはドイル子爵だが、決定したのは私だからな。責はある」
俯きどんよりと落ち込む兄の姿に、リディアはこっそりとため息を吐いた。
風格が出てきたと思ったが、相変わらず根は真面目で繊細な性格のようだ。
(悪い方ではないのだけれど、王としては少々頼りないのよね。ニールの前でも素を見せるのは、妹婿ということでもう身内感覚なのかしら?)
暗雲が頭上に見えるほど沈んでいるウィリアムを見て、ニールが『どうしましょう』と視線を寄越してきた。
リディアは『任せておきなさい』と小さく手を上げる。
この状態から復帰させるのに、魔法の言葉があるのだ。
「ウィル兄様。ジェシカ義姉様やシャロン、サイラスはお元気?」
リディアが尋ねた途端、ウィリアムはぱぁと輝くような笑みを浮かべて顔を上げた。
「うむ。ジェシカもシャロンもサイラスもすこぶる元気だ。三人ともグレイスに会いたがっていた。私だけ会えてずるいと随分文句を言われたが。土産はジェシカたちが選んだ物もあるのだ。後で持って行かせよう」
愛妻と愛娘、愛息子の話題となるとこの兄は生き生きし出すから、機嫌を損ねた時の奥の手として、公然の秘密になっている。
元来慎重な性格な為、機嫌が良くなり過ぎても国益を損なうことはしないので、周りも強く注意することはない。
お手軽な手段だった。
「ありがとう。お帰りの際は三人へのお土産も渡すから、しっかり届けてね」
「もちろんだとも」
すっかり復活したウィリアムは、「そうだ」とつぶやいてニールに目を移す。
「公の場以外での会話は王太子と辺境伯としてではなく、義兄と義弟として話したいのだが、良いだろうか? 出来れば義兄上と呼んでもらえると嬉しい」
突然のお願いに、ニールが目を瞬かせる。
釘を刺されたばかりなので、妹をかっさらって行った敵と思われていると考えていたのだろう。
ニールにしては珍しく、戸惑ったような曖昧な笑みを浮かべている。
「はぁ。恐れ多いことで……」
「……駄目だろうか」
ウィリアムがしょんぼりと肩を落とす。
そこに王太子の威厳は欠片もない。
困惑したニールが、リディアに視線で助けを求めてくる。
リディアは少し考えて、首を傾げた。
「ウィル兄様は、年下の義弟が出来て喜んでらっしゃるの?」
「うむ。実の弟は可愛げない上に無口で、上二人の妹が嫁いだ義弟は二人とも私より年上なのだよ。可愛い妹はグレイスやニコラ、ミッシェルがいるが、可愛い弟も欲しかった」
三十路を過ぎた妻子持ちが力説する言葉ではない、とリディアは冷静に判断したが、態度には出さなかった。
さりげなく姉と妹が一人ずつ可愛い妹から除外されていたが、それも指摘しなかった。
姉のリディア=ヴァネッサは気性が激しく、妹のリディア=エミリアは騎士の真似事をするくらい元気が良過ぎる。
長子のウィリアムは彼女たちに散々振り回されたり尻拭いをしたり、大変な目に遭っていた。
だからといって嫌っている様子はないから、家族としては愛しているが、可愛いと思うのとは違うということだろう。
「ひ……グレイス様」
「……そうね。ニールが良ければ呼んで差し上げて」
リディアはにこやかな笑みを浮かべて言った。
よく可愛がってくれた兄を喜ばせたい思いと、打算もある。
ニールが王太子に可愛がられれば、大きな後ろ盾を得ることになるだろう。
ドイルのような無礼者も減るはずだ。
リディアに後押しされたニールは、困ったようにウィリアムを見て再度問いかけた。
「本当に呼んでよろしいんですか?」
「あぁ。ぜひ呼んで欲しい」
きっぱりとウィリアムが言う。
期待に満ちた目で見つめられたニールは、一呼吸置き、何故かはにかみながら口を開いた。
「では。これからよろしくお願い致します。義兄上」
「うむ。困ったことがあれば気兼ねなく頼るがいい。ニールはもう私の弟なのだからね」
「そんなことおっしゃってよろしいんですか? 俺……私が義兄上とお話するのは婚礼前に少しご挨拶したくらいで、ほぼ初めてのようなものですが……」
「なに」と、ウィリアムがにこやかに笑う。
「領主としての働きぶりは報告を受けているし、我が妹の人を見る目は確かだからな。グレイスが君に信を置いているのは見ていれば分かる。グレイスは心優しく度量が広いが、優しさを履き違えて愚者を増長させるような真似はせぬよ」
「まぁ、ウィル兄様。買いかぶり過ぎよ」
リディアは苦笑を浮かべ、謙遜して見せる。
良い子として振る舞っていたリディアに対する家族の信頼は厚い。
気ままに振る舞えない鬱屈はあれど、その信頼は嬉しいものだ。
そんなリディアにウィリアムは笑って首を横に振った。
「そんなことはない。なぁ、ニール」
「はい。グレイス様はしっかりした方ですから。よき領主でなければ愛想を尽かされてしまいます」
「兄妹の中で一番高貴なる者の義務を心得ているのはグレイスだからな」
褒められ慣れているリディアだが、ニールの前で言われるのはどうにも面映ゆい。
家族にも見せたことのない性悪の本性を知っているのはニールだけなのだ。
息を吸うようにかぶってきた淑女の面を再度意識し直したリディアはこほんと咳払いし、にこやかに他の話題へと移行させることにした。
「わたくしのことはもうよろしいでしょう。それより王都の話を聞きたいわ」
「ではウィル兄様。また晩餐の席でね」
「それまでゆっくりとお休みください。義兄上」
「あぁ。君たちと話せて楽しかったよ。ではまた後で」
にこやかに手を振るウィリアムに一礼して客間を辞したリディアとニールは、部屋から十分に離れた所まで進み、同時に息を吐いた。
ニールのため息はリディアのそれより余程重い。
心臓に毛が生えていそうな男でも苦手なことがあるのかと思いながらニールを見やる。
「兄様の相手は疲れたかしら?」
「そんなことはありません。いろいろと話を聞けて興味深かったですし。そうではなくて……その……俺は兄という生き物に偏見を持っていたようです」
予想外の返答にリディアは目を瞬かせた。
「どういうこと?」
「いえ……実兄たちと比べたら大違いだと思ってしまって。義兄上のように普通に下の子を可愛がってくれる兄もいるんですね」
何やら遠い目をするニールは、乾いた笑みを浮かべている。
リディアは少し首を傾げて尋ねた。
「確か、三人いるのだったわね。お前の兄は」
「はい。三人とも粗野というか粗暴というか、可愛がり方も荒っぽいんですよね。迷惑も散々かけられましたし」
別に嫌いではないんですけどとつぶやくニールが、可愛げのない次兄について語っていた長兄に重なって見えた。
(……変な所で似ているわね。兄と夫の気が合うのは、喜ぶべきなのでしょうけれども。生まれも育ちもまったく違うというのにおかしなこと)
もう一度反対方向にリディアは首を傾げる。
「ではウィル兄様が嫌というわけではないのね?」
「はい。ご気性が良い方ですけど、お顔は姫様に似てらっしゃいますよね。それに思慮深い方ですし。嫌う要素がありません」
「……わたくしも兄様も顔は母上似なのよ」
ニールの言い方は引っかかるものの、自身の気性が良いとは思っていないリディアはさらりと流した。
兄を褒められて気分も良かった。
ウィリアムは世継ぎとして優秀で、大局を見通す目だけではなく、様々な事柄に対して深い知識と見解を持っている。
少々頼りなく、家族に夢を持ち過ぎているきらいはあるが、自慢の兄なのである。
「姫様はご家族がお好きなのですね」
「お前の所も概ね仲が良いでしょう」
「えぇ。まぁ、親父とはそりが合わないんですけど……。嫌いという程でもないです」
苦虫を噛み潰したような顔で言うニールがおかしく、リディアはふっと笑った。
「……子が生まれて落ち着いたら、絵姿を描かせましょう。父上たちに送るついでに、お前の家族に送る分も描かせたら良いわ」
王都までは馬車で六日ほどかかる。
ニールは年に一度の貴族院招集の為に王都へ行っているが、リディアはちょうど妊娠が発覚した為についていかなかった。
子が生まれても、しばらくは無理だろう。
ならば絵姿だけでも送りたい。
兄に会って、柄にもなく里心が付いたようだ。
リディアの提案にニールは喜びつつも困ったように眉を下げた。
「嬉しいですけど、あまり大きい物は無理ですよ。実家はこの館や王宮よりだいぶ狭いので」
王侯貴族が描かせる絵姿は、一抱えもあるほど立派な額縁に納めた大きな物が主流だ。
辺境伯の館にも代々の領主一家の絵姿が飾られている一間があるが、等身大の絵姿も少なくなかった。
「お前の家に送る物の大きさは画家と相談するといいわ」
「そうします。あと、手の平大の姫様と子供の絵姿も欲しいです。それがあれば仕事中もずっと側に置いておけるじゃないですか」
あまりに嬉しげに言われると、恥ずかしいことをするなと怒るかどうかも迷うようになってしまった。
順調にニールに毒されている気がする。
いや、両親や兄姉たちの夫婦関係を見るに、これが今の時代の普通なのだろうか。
結婚三十年以上経ってもうっとうしい程の熱々ぶりを披露する今世の両親を思い出したリディアは、微妙に顔を歪ませ、釘を刺すに止めることにした。
「……カールトンの恨みを買わないよう、ほどほどになさい」
ニールが心得顔でうなずく。
「カールトンは単身赴任中ですからね。見せつけるなと怒らせないように気をつけないと……」
そこで言葉を切ったニールは、ふと思いついたように瞬いた。
「あぁでも、そろそろこちらの治安もよくなってきましたし、妻子を呼び寄せたらどうかと勧めてみたらいいですね。道中の護衛は俺持ちで。宰相閣下に付けてもらった筆頭補佐官ですけど、出来ればずっと居て欲しいんです」
リディアもその考えには賛成だった。
カールトンは有能な補佐官だ。
ぜひ辺境伯領に留めておきたい。
「恩を売っておくのは良い考えね。宰相への根回しはわたくしの伝も使いましょう」
「はい。ぜひお願いします……ん」
「どうしたの、ニール」
客間のある階からリディアたちの私室のある階へとつながる階段付近まで来たところだった。
何かに気づいた様子で、ニールが足を止める。
その顔に浮かぶ表情は険しい。
リディアもニールがにらむ方に意識を集中し耳をすませるが、よく分からない。
「……言い争うような声が聞こえます。こちらに向かって来ているようです。離れましょう」
「分かったわ」
リディアには何も聞こえないが、ニールはこういう冗談は言わない。
今はニールも剣を佩いていないのだ。
主人として争いを納める必要はあるが、まずは身の安全確保を優先しなければならない。
王太子が狙われるのは更にまずい。
とにかく他の信頼出来る者を見つけて状況を把握しなければ。
「……が……だ!」
「で……せん……くださ……」
その場から遠ざかる途中、リディアの耳にも争う声が届き始めた。
どうやら、早足でこちらに向かって来ているらしい。
「……この声、さっきも聞いたわね」
リディアはうんざりした表情を隠さずつぶやいた。
ニールも実に嫌そうな顔をしている。
「はい。もう一人は従僕ですよ」
「何と言っているか聞こえて?」
リディアにはよく聞き取れないが、ニールなら話の内容まで分かるのではないだろうか。
「……目的は姫様のようです」
底冷えするような冷気を漂わせながら、ニールが言う。
「そう」
リディアは目を細め、足を止めた。
「姫様!」
「ニール。お前はあれ相手に素手で勝てるかしら?」
「愚問です。あれが隠し武器を持っていたとして、遅れをとることはありませんし、指一本足りとも姫様に触れさせません。ですが、万が一ということもあります。姫様とお腹の子を危険にさらすことは出来ません」
厳しい表情で見下ろしてくるニールに、リディアは艶やかに笑ってみせた。
「ならばこそ、早めにトドメを刺しておきましょう。うっとうしい害虫はさっさと駆除しておかねばね」
「しかし」
「お前がわたくしを守るのでしょう?」
重ねて問うと、ニールは「はぁ」と大きなため息を吐いた。
「普段は領主としての自覚を持て、弁えろとおっしゃるのに」
そう言いつつ、ニールは獰猛に笑った。
害虫を駆除したいのは、ニールも同じだったのだろう。
ただ形式として、口にしただけだ。
リディアはふふと笑い、嘯く。
「客人のお痛を諫めるのは主人の役目でしょう」
「違いありません」
言い争う声はすぐ側まで近づいてきていた。
ニールはリディアを守るように、一歩進み出る。
「旦那様! 奥方様!」
先に気づいたのは、従僕だった。
リディアたちの姿を認め、悲壮な顔で声を上げる。
ニールは従僕を安心させるように、余裕のある笑みを浮かべた。
「客人の相手ご苦労様。あとは俺たちが話を聞くよ。君はフレッドに報告を」
家令の元へ行くよう指示を受けた従僕は、ちらりとリディアの顔を見て言い淀む。
「しかし……」
「大丈夫だよ。俺が居る」
ニールの強さは使用人たちもよく分かっている。
にっと笑ったニールに、従僕はこくりとうなずいた。
「ご指示に従います。失礼します」
一礼して去っていく従僕を見送ることなく、リディアは意図して浮かべた困り顔でその男を見る。
先ほどから、じろじろと無遠慮な視線を感じて気持ち悪くて仕方がない。
しかし、リディアは黙って待った。
この男はニールのことを侮っている。
おそらく、他にもニールのことを侮っている輩は居るだろう。
つけ込まれる要素は排除しておくに限る。
ニールもそれは分かっているようだ。
穏やかな笑みとは裏腹に、冷ややかな濃い茶の瞳を男に向け尋ねた。
「ドイル子爵、どうなさいました。子爵がいらした方は私たちの居室がある一角ですが?」
「いや、先ほどはゆっくりお話出来なかったので、ぜひともリディア=グレイス様にお会いしたくてね。従僕に取り次ぎを願ったのだが聞き入れてもらえなかったのでお邪魔したんですよ。しかし、こうしてお会い出来て良かった」
咎められたドイルは悪びれることなく、ニタリと笑って答えた。
問いかけたニールにではなく、リディアにねっとりとした視線を向けたままで、だ。
ニールの纏う空気が、一段と冷たくなる。
「晩餐までお待ち頂ければ話す機会もありましたものを。私的な場所にもヅカヅカと入られるとは、ドイル子爵は礼儀をご存じないとみえる」
「ほぉ。バンフィールド辺境伯も貴族の礼儀をご存じなんですな」
ドイルが醜悪な顔で嘲笑った。
ピリピリした殺気混じりのニールに対してここまで言えるとは、余程気配に鈍感なのだろう。
心底ニールを、平民騎士上がりの辺境伯を見下げているのだと分かった。
平民を大事にする風潮は、賢妃リディアが百年ほど前から広げたものだ。
それは王族を始め、高位貴族から徐々に浸透していったという。
反面、下位貴族の中には未だ平民を粗末に扱う者がいるのだそうだ。
ドイル子爵もその一人なのだろう。
(……尊き血と卑しい血。それを区別する考えはわたくしも持っているわ。でも……)
扇で口元を隠し、リディアは目を伏せる。
それをどう解釈したのか、ドイルはリディアの全身を舐め回すように視姦してくる。
ニールから、隠し切れない殺気が吹き出した。
「グレイス様をいやらしい目で見るな!」
「はっ。これだから卑しき出の者は困る。この程度で取り乱すとは。所詮は平民上がりだな。身の程を弁えろ」
ドイルはニールの態度を鼻で笑い、リディアに問いかける。
「この男は貴女を満足させられておりますかな? 高貴で美しい花に土くれの器は合わぬでしょう」
「貴様!」
「ニール、落ち着きなさい」
リディアは激高するニールの肩に手を添えて言った。
「しかし!」
不満を言いかけたニールはリディアを見下ろし、言葉を飲み込む。
リディアは薄らと微笑んでいた。
余所行きの優しげな笑みではなく、他者を下すことを躊躇わない強者の笑みだった。
それを向けられたニールの喉元がごくりと動く。
ニールが落ち着いたことを見て取ったリディアは、肩に置いた手をそのままにドイルへと顔を向け、言い放った。
「なんの功績もない子爵風情が優美な花器気取りとは、笑わせてくれるわね」
「グ、グレイス様!?」
心優しいと信じきっていた姫君の暴言に、ドイルが戸惑いの声を上げる。
リディアは不愉快げに顔をしかめた。
「その名で呼ぶのではないわ。下郎が」
リディアが『グレイス』と呼ぶのを許したのは家族だけだ。
ただでさえ悪かった機嫌が更に降下する。
大凡の貴族の情報は頭に入れている。
特に視察一行に加わった者たちの情報は、改めて情報収集していた。
だから、ドイルについても情報としては知っていたのだ。
これほどまで報告以上にいけ好かない男だとは、今日まで知らなかったが。
リディアは冷笑を浮かべて言う。
「子爵の位にあぐらをかき、領地経営もままならず国に納める税を先代より大幅に減らし、戦も仮病を使ってまで逃げた上にこの暴挙とは、呆れて言葉もないわ。挽回の機会をと視察団に立候補したと思い、副史に任命した兄様の温情をも裏切るなど畜生にも劣る恩知らずでしょう。そんなお前がニールを笑う資格は皆無。いくら由緒あるものでもヒビ割れた花器など塵でしかないわ。きちんと水を蓄える役割を果たせる土くれの器の方が幾分も上等というもの。お前の方こそ身の程を弁えなさい」
怒濤の罵りにドイルは顔色をどんどん失い、ある一点を越えた所で一転して憤怒の表情となった。
「こ、この阿婆擦れが! 黙って聞いておれば好き放題に言いやがって!」
「あら。すべて本当のことでしょう。それに、高貴な者はこの程度のことで取り乱したりしないのではなくて? お里が知れるわね」
傲慢とあごを上げて、リディアは小馬鹿にするように嘲笑った。
挑発とはこうするのだという見本のようだ。
まんまと挑発に乗せられたドイルは、真っ赤な顔でリディアに殴りかかろうとする。
しかし、そのような暴挙をニールが許すはずもない。
「がはっ」
ニールの足のつま先が、ドイルの鳩尾にめりこんだ。
下町育ちのニールは、剣を持たない喧嘩の仕方もよく知っている。
甘やかされて育った子爵の拳を避け、蹴りを叩き込むことなど造作もない。
ニールは泡を吹いてひっくり返ったドイルの肩を踏みつけ、表情の抜け落ちた顔で見下ろした。
「姫様。害虫をしとめてもよろしいですか?」
「構わない、と言いたい所だけれど時間切れよ、ニール」
バタバタと複数人の足音が近づいてくるのが聞こえた。
先ほどの従僕が応援を呼んで来たのだろう。
ニールは忌々しげに舌打ちし、ドイルの肩から足を下ろす。
下ろす前にしっかりと体重をかけて踏みつけていたので、相当鬱憤が溜まっているようだ。
「グレイス! 大丈夫か!」
「ウィル兄様!」
客間に居るはずの兄の声を聞き、リディアはさっと不安げに瞳を潤ませ、怯えていたふりをする。
「義兄上、どうしてこちらに?」
ニールが驚き問いかける。
ウィリアムは厳しい顔で答えた。
「廊下が騒がしいので出てみれば、ドイル子爵がグレイスたちに絡んでいると聞いて駆けつけたのだ。どうしてそこにドイル子爵が倒れているか聞いても良いか?」
「はい。ドイル子爵はグレイス様に卑猥な言葉を投げかけ、自分が満足させてやるとグレイス様に襲いかかった為、私が排除しました」
ニールが都合の悪いところを省略した報告をする。
それを聞いたウィリアムは、痛ましげな視線をリディアに向けた。
「グレイス。大丈夫か?」
リディアは弱々しげに微笑み、うなずいた。
「えぇ。ニールが守ってくれたから」
「そうか。二人とも重ね重ねすまぬ。ドイルはしかるべき処分を下すが、貴族を裁くには御前会議が必要だ。私が責任を持って連れて行くから、視察が終わるまで牢に放り込んでおけ。身重の婦人を襲うなど、男の風上にもおけぬわ。あぁ、貴族だと気を使わず縄でつないで良い」
王太子の命を聞き、従僕たちがニールを仰ぎ見る。
ニールはそれにうなずいた。
「殿下のおっしゃる通りにしておいて。詰め所の牢で良いけど、見張りは複数人置くように牢番に伝えてくれる?」
「はい。旦那様」
気絶しているドイルを縛り上げた従僕たちは、数人で丸太を運ぶように担いで連れて行った。
女主人に狼藉を働こうとした相手だ。
ぞんざいな扱いになるのも無理はない。
「グレイス。今日の所はゆっくりと休んで気を落ち着かせると良い。私のことを気にすることはない」
「そういうわけにもいかないわ、兄様。歓迎の晩餐会があるのに……」
折角準備したということもあるが、館の女主人として初日の晩餐を欠席するなど出来るはずもない。
困り顔のままリディアが言うと、ニールとウィリアムの二人は顔を見合わせ、同時に大きなため息を吐いた。
「グレイス様、俺がしっかりと主人役を務めます。お願いですからゆっくり休んでください。念のため、医者の診察も受けてくださいね」
「そうだぞ、グレイス。他の随員も出る正式な晩餐会はやはり気疲れするだろう。腹の子にこれ以上負担をかけてはいけない」
「けど」
「グレイス様が身重だということは皆知っています。大事をとって休んでいると説明しますから、欠席したからと悪評が立つことはないでしょう」
「私からも事情を説明しよう。それで悪評を流すような者がいれば私が許さぬ」
相手がニールだけなら『馬鹿なことを言わないでちょうだい』と突っぱねるところだが、ウィリアムからも釘を刺されては強行するのは難しい。
リディアは眉を下げ、内心は渋々とうなずいた。
「分かったわ。ニール、頼むわね。ウィル兄様、ありがとう」
リディアが折れたことに、男二人は露骨なまでにほっとした顔をする。
「強情な所がある子だから、ニールもよく見ていてやってくれ」
「もちろんです、義兄上」
真剣な顔でニールの肩に手をおいて言うウィリアム。
ニールもまた真剣な顔でうなずいている。
夫と兄は妙に連帯を強めたらしい。
(よく見ていてやれなど、幼子ではないのだから……。言う兄様も兄様だけれど、うなずくニールもニールだわ)
リディアは腑に落ちないものを感じてむっと口を曲げた。
「ん」
身体に伝わる振動を感じ、リディアは薄らと目を開けた。
部屋の中は暗い。どうやら夜もすっかり更けたようだ。
「起こしてしまいましたか? すみません」
そう言いながらニールが寝台の掛布の中に入り込み、横たわったままのリディアを後ろから抱きしめる。
「晩餐会は?」
「無事終わりましたよ」
リディアに頬ずりしながら、ニールが答える。
「そう。良かったわ」
リディアはそっと息を吐いた。
医師の診察を受けた後に軽い食事をして、寝台に横になったのだ。
どうやらそのまま寝てしまっていたらしい。
「具合はどうですか? 医者はなんて?」
「大丈夫よ。何もないわ」
さらりと答えたところ、ニールが大げさなため息を吐いた。
「嘘つかないでください。医者から聞きましたよ。お腹が張っていたって」
「……報告を受けていたのなら聞かなくとも良いでしょう。それに横になったら良くなったわ。一時的なものよ」
「リディア様の口から聞きたかったんです。一時的なものでもなんでも。心配するのは当然じゃないですか。……俺のせいですし」
リディアの身体に回された腕の力が、ぎゅっと強くなる。
痛くないが、身動きはとれない。
後ろから抱きつかれている為に顔は見えないが、何となく情けない表情をしていそうだ。
(慰めてやる義理は…………あったわね)
元平民だろうが情けなかろうが、リディアの夫で腹の子の父なのである。
面倒だと思わなくはないが、お互い様だと思える程度には絆されているのだ。
本当に随分と寛容になったものだと思う。
ただし、優しい言葉をかけるのもリディアらしくはないだろう。
あら、と首を傾げて言ってやる。
「わたくしはお前と結婚しない方が良かったのかしら?」
「まさか! リディア様は俺の奥さんです! 他の男になんて渡しません! そんな男が居たら始末します! リディア様は俺のなんです! リディア様が生むのは俺の子だけなんです!」
腕だけではなく足まで絡めて、ニールはリディアにすがりつく。
良くない想像をしたのか、若干涙声になっていた。
態度はなさけないが、この男なら相手が高位貴族だろうが他国の王族だろうが本当に殺るだろう。
もし高位の男が相手であれば、ニールも咎めなしでは済むまい。
子供を父なし子にするわけにはいかない。
誤解もさせないように気をつけておくべきだろうか。
(それにしても、仕方のない男だこと)
リディアは小さく笑い、身をよじった。
正面から向き合い、抜き出した手をニールの頬に添える。
「そう思うのなら堂々としてなさい。わたくしの夫はお前なのだから。……夫を侮辱されて妻が怒るのは、当たり前のことなのでしょう?」
「リディア様!」
感極まったらしいニールの唇が、リディアのそれに重なった。
ニールは噛みつくような口づけの合間合間に、「大好き」だの「愛しています」だの「幸せ過ぎて死にそうです」だの、熱に浮かされたように囁いてくる。
リディアは息継ぎするだけで精一杯で罵倒の言葉も出てこないが、ニールはそれでも嬉しそうだ。
やっと口から離れたニールが、こつんと額を合わせてきた。
間近からのぞき込んでくるニールの濃い茶の瞳に熱がはらんでいるのが、絞った灯りだけでも分かる。
「……しないわよ」
寝間着越しに当たる硬く熱いモノの存在から意識をそらし、リディアは言った。
ニールは慌てて腰を離し、わたわたと手を振った。
「わっ、分かってます! 医者にも今日は駄目だって三回くらい念を押されましたし!」
「…………視察が終わるまでは駄目という約束は覚えているわね?」
「視察はあと四日もあるじゃないですか。ふ、雰囲気に流されて明日くらい……」
「ニール」
半眼で睨めつけると、ニールは目に見えてしょんぼりした様子で肩を落とした。
「ううう。このままじゃ寝られないので、ヌいてきます……」
背中を丸めたまま、ニールが寝台を出ていく。
その姿を可愛いと思ってしまうのは、やはり自身の性格が良くないからだろうか。
(でも、そうね。ウィル兄様には悪いけれども、ほんの少しだけ、早くお帰りにならないかと思ってしまったわ。……ニールには絶対に言わないけれど)
先ほどまで感じていた温もりが離れてしまったことを少々寂しく思いながら、リディアは「さっさと戻って来ないと寝られないではないの」とつぶやいた。
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