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第85話 5度目の戦い
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白の聖王国軍と青の王国軍による5度目の戦いの日を迎えた。
聖王国軍は、聖騎士団の中に聖王レリアナを据えた。聖騎士団の指揮自体は騎士団長のレイナルドが行うため、レリアナはあくまで象徴としての存在になるが、その存在価値はこれまでの戦いとはまるで違っていた。
前回の戦いで黄金の輝きを纏って戦を勝利に導いた聖王レリアナ、彼女がいるだけで聖王国兵は以前の敗戦続きの時の悲壮感漂う姿が嘘のように、意気軒昂たる様子を見せている。
それを敵陣の青の導士ルブルックは、苦虫を嚙み潰したような顔で見ていた。
「やはりレリアナを前面に出してきたか。前回のあの力がまぐれか何かなら、奥に引っ込めておくはず。ここまで前に出してくるということは、やはりレリアナは聖王の力に目覚めたと考えるしかないか」
「でも、それもあなたの想定通りなんでしょ?」
「まぁな」
隣のサーラの言葉にルブルックはうなずく。
レリアナがこれまでのように奥に引っ込んでいるなら、ルブルックは機を見てまた海王波斬撃を使うつもりだった。だが、こういう陣形を組まれてしまっては、一度しか撃てない海王波斬撃を簡単に使うわけにはいかない。再び前回のようにたいした効果を生み出せなければ、この戦いまた敗北することになる。
とはいえ、聖王国軍がレリアナを前に出してくるのは、ルブルックも想定済みだった。
レオンハルトやサイラスにもこうなった場合の方策についてはすでに提言してある。
「こうしてレリアナ自身が前線に出てくるのなら、こちらにとってチャンスでもある。聖王を討つ機会が生まれるのだからな。サイラス殿には、青の3騎士を当ててでもレリアナを堕とすよう進言してある」
「では、私達もそれに加勢して、レリアナを狙いにいく?」
やる気に満ちた顔を向けてくるサーラに対し、ルブルックは首を横に振った。
「いや。レリアナはサイラス殿に任せる。俺達の第一目標はキッドだ。奴の竜王破斬撃を止めねばならん」
青の王国にとっての優先順位の一位は、間違いなく聖王レリアナだ。しかし、今のルブルックにとっての優先順位は、キッドの方が上だった。同じ魔導士、同じ軍師、だがそういった肩書以上の運命ともいうべきものをルブルックは感じていた。そして、ここで邂逅を果たしたことも偶然ではなく、運命なのだと。
「白の聖王国と紺の王国との間に接触があったことは掴んでいたが、紺の王国の軍師がこの戦場に出てくるとは思わなかった。しかし、ここで奴と会えたのは僥倖かもしれん」
「僥倖? 運がいいというの? 私には想定外の不運としか思えないけど?」
サーラの不服そうに首をかしげる。
「俺にはわかる。奴はいずれ大きな障害となる。奴を守る味方がほとんどいないこの戦場は、倒す絶好の機会だ。ここで潰せるのなら、これを幸運と言わずに何と言う?」
「でも、ルイセという護衛がいたわよ。あれは手強いわよ」
「ああ、わかっている。俺の推測が正しければ、ルイセはあの暗殺者シャドウウィンドだ」
「――――!? シャドウウィンド!? 本当なの!?」
ルブルックの言葉にサーラは目を見開く。実際に見たことはなくても、さすがにサーラも伝説の暗殺者のことは知っていた。
「あくまで推測のレベルだ。とはいえ、本当にシャドウウィンドだとしたら、奴が得意としているの夜の戦い。昼間ならその暗殺術も十分には発揮できまい。サーラはなんとかルイセをキッドから切り離して、抑えてくれ。お前が抑えていてくれれば、キッドは一対一で俺が倒す」
魔導士相手の一対一なら絶対に負けない。ルブルックはそう確信していた。
自信と過信の違いは、結果が伴うかどうか。サーラは今のルブルックからは自信しか感じない。サーラは、頼もしげな視線をルブルックへと向ける。
「抑えておくだけでいいの?」
「ん? ああ、それで十分だが?」
「別に倒してしまってもいいんでしょ?」
そう言って笑みを浮かべるサーラを、ルブルックは誰よりも心強く感じた。
ルブルックはサーラから尊敬の念を向けられた覚えがない。だが、それがいい。憧れを向けられるのも、また取り入るように媚びへつらわれるのも、ルブルックにとっては気持ちの良いものではない。
第一王子のセオドル派、第二王子のレオルハルト派、どちらの派閥もルブルックを取り込もうと、ルブルックにすりよろうとする人間を何人も近づけてきた。そういった人間に辟易していたルブルックにとって、サーラという人間はとても心地よかった。
まるで対等の立場であるかのように接してくるサーラに対し、ルブルックはいつの間にかその腕だけでなく、人間性にも信頼を置いていた。
「それは心強い。では、俺がキッドを倒しておくうちに、サーラにはルイセの始末を頼んでおくことにするか」
「……あなた、さっきの私の言葉を冗談だと思ってるでしょ?」
サーラから白い目を向けられても、ルブルックは不快ではなかった。むしろ嬉しくなってくる。
「いやいや、俺は真剣だ」
「顔が笑ってるわよ。まぁいいわ。結果で示すからよく見ておきなさい」
どうやらサーラは少々お怒りのご様子だった。
ルブルックは自分の信頼はなかなか伝わらないものだと思いはしたが、サーラとの関係はこれでよいとも感じていた。
◆ ◆ ◆ ◆
そして、両軍の戦いが始まった。
レリアナを中心とした聖騎士団が先陣を切って攻め上がり、青の王国軍はそれに対抗するため、正面から重装歩兵を中心とした主力をぶつける。ルブルックの進言通り、青の3騎士と呼ばれる精鋭騎士まで投入し、レリアナの首を狙い行くつもりだった。
聖騎士団と真正面からぶつかるのは、青の王国軍にとってもリスクの高い行為であったが、レリアナをここで潰せねば青の王国軍の未来は暗い。被害を度外視してでも、青の王国軍はレリアナを堕としにかかっていた。
その戦場で、ルブルックはもう一人の標的であるキッドを探す。
「レリアナについている可能性も考えたがいないようだ。こちらの重装歩兵隊を狙ってくるかとも思ったが、それもなかったか……」
聖騎士団に相対する青の王国軍の重装歩兵隊に、キッドが竜王破斬撃を狙ってくることをルブルックは想定していた。ルブルックと違い、キッドは竜王破斬撃を防がれる心配する必要がない。そのキッドが、ここで重装歩兵隊を潰せば、聖王国は一気に有利になるはずだった。
ルブルックはそれをわかっていながら、キッドに竜王破斬撃を撃たせるつもりだった。重装歩兵隊が潰されても、代わりに動ける部隊を用意するよう、サイラスには進言してある。それでいくらかはもちこたえられるだろうが、サイラスの指揮では勝てはしないだろうとも予測している。
だが、その代わりに魔力を使い果たしたキッドを討つのが容易になる。その後でルブルックが援護に回れば、レリアナを討つことも可能だろう。そうすれば、挽回の可能はある。万一、今回の戦いに敗れたとしても、レリアナとキッド抜きの聖王国相手なら、次戦以降青の王国軍が間違いなく勝利する。
ルブルックはそう考えていた。
しかし、ルブルックの予想に反して、キッドはそう動いてこなかった。
「……キッドはどこで何を狙っているのだ?」
ルブルックにはキッドの考えがわからなくなる。
「ルブルック! キッドとルイセを見つけた!」
隣でキッドの探索をしていたサーラが、両軍主力がぶつかる戦場の中心から離れたところを指差した。
ルブルックも慌ててそちらに目を向けるが、騎馬が2騎見えはしても、とても人物を判別できるような状態ではない。
「……よくわかるな」
「あなたの目がよくないのよ」
ルブルックも決して目が悪いわけではない。ただ、サーラの目が異常によいだけだった。
ルブルックにはこの距離ではとてもその二人がキッド達かどうかはわからないが、彼はサーラの目を疑いはしない。
「サーラ、行くぞ。狙い通り、ここでキッドとルイセを討つ!」
「了解した」
ルブルックとサーラの二人は、戦場から離れるように動くキッドとルイセへと馬を向けた。
聖王国軍は、聖騎士団の中に聖王レリアナを据えた。聖騎士団の指揮自体は騎士団長のレイナルドが行うため、レリアナはあくまで象徴としての存在になるが、その存在価値はこれまでの戦いとはまるで違っていた。
前回の戦いで黄金の輝きを纏って戦を勝利に導いた聖王レリアナ、彼女がいるだけで聖王国兵は以前の敗戦続きの時の悲壮感漂う姿が嘘のように、意気軒昂たる様子を見せている。
それを敵陣の青の導士ルブルックは、苦虫を嚙み潰したような顔で見ていた。
「やはりレリアナを前面に出してきたか。前回のあの力がまぐれか何かなら、奥に引っ込めておくはず。ここまで前に出してくるということは、やはりレリアナは聖王の力に目覚めたと考えるしかないか」
「でも、それもあなたの想定通りなんでしょ?」
「まぁな」
隣のサーラの言葉にルブルックはうなずく。
レリアナがこれまでのように奥に引っ込んでいるなら、ルブルックは機を見てまた海王波斬撃を使うつもりだった。だが、こういう陣形を組まれてしまっては、一度しか撃てない海王波斬撃を簡単に使うわけにはいかない。再び前回のようにたいした効果を生み出せなければ、この戦いまた敗北することになる。
とはいえ、聖王国軍がレリアナを前に出してくるのは、ルブルックも想定済みだった。
レオンハルトやサイラスにもこうなった場合の方策についてはすでに提言してある。
「こうしてレリアナ自身が前線に出てくるのなら、こちらにとってチャンスでもある。聖王を討つ機会が生まれるのだからな。サイラス殿には、青の3騎士を当ててでもレリアナを堕とすよう進言してある」
「では、私達もそれに加勢して、レリアナを狙いにいく?」
やる気に満ちた顔を向けてくるサーラに対し、ルブルックは首を横に振った。
「いや。レリアナはサイラス殿に任せる。俺達の第一目標はキッドだ。奴の竜王破斬撃を止めねばならん」
青の王国にとっての優先順位の一位は、間違いなく聖王レリアナだ。しかし、今のルブルックにとっての優先順位は、キッドの方が上だった。同じ魔導士、同じ軍師、だがそういった肩書以上の運命ともいうべきものをルブルックは感じていた。そして、ここで邂逅を果たしたことも偶然ではなく、運命なのだと。
「白の聖王国と紺の王国との間に接触があったことは掴んでいたが、紺の王国の軍師がこの戦場に出てくるとは思わなかった。しかし、ここで奴と会えたのは僥倖かもしれん」
「僥倖? 運がいいというの? 私には想定外の不運としか思えないけど?」
サーラの不服そうに首をかしげる。
「俺にはわかる。奴はいずれ大きな障害となる。奴を守る味方がほとんどいないこの戦場は、倒す絶好の機会だ。ここで潰せるのなら、これを幸運と言わずに何と言う?」
「でも、ルイセという護衛がいたわよ。あれは手強いわよ」
「ああ、わかっている。俺の推測が正しければ、ルイセはあの暗殺者シャドウウィンドだ」
「――――!? シャドウウィンド!? 本当なの!?」
ルブルックの言葉にサーラは目を見開く。実際に見たことはなくても、さすがにサーラも伝説の暗殺者のことは知っていた。
「あくまで推測のレベルだ。とはいえ、本当にシャドウウィンドだとしたら、奴が得意としているの夜の戦い。昼間ならその暗殺術も十分には発揮できまい。サーラはなんとかルイセをキッドから切り離して、抑えてくれ。お前が抑えていてくれれば、キッドは一対一で俺が倒す」
魔導士相手の一対一なら絶対に負けない。ルブルックはそう確信していた。
自信と過信の違いは、結果が伴うかどうか。サーラは今のルブルックからは自信しか感じない。サーラは、頼もしげな視線をルブルックへと向ける。
「抑えておくだけでいいの?」
「ん? ああ、それで十分だが?」
「別に倒してしまってもいいんでしょ?」
そう言って笑みを浮かべるサーラを、ルブルックは誰よりも心強く感じた。
ルブルックはサーラから尊敬の念を向けられた覚えがない。だが、それがいい。憧れを向けられるのも、また取り入るように媚びへつらわれるのも、ルブルックにとっては気持ちの良いものではない。
第一王子のセオドル派、第二王子のレオルハルト派、どちらの派閥もルブルックを取り込もうと、ルブルックにすりよろうとする人間を何人も近づけてきた。そういった人間に辟易していたルブルックにとって、サーラという人間はとても心地よかった。
まるで対等の立場であるかのように接してくるサーラに対し、ルブルックはいつの間にかその腕だけでなく、人間性にも信頼を置いていた。
「それは心強い。では、俺がキッドを倒しておくうちに、サーラにはルイセの始末を頼んでおくことにするか」
「……あなた、さっきの私の言葉を冗談だと思ってるでしょ?」
サーラから白い目を向けられても、ルブルックは不快ではなかった。むしろ嬉しくなってくる。
「いやいや、俺は真剣だ」
「顔が笑ってるわよ。まぁいいわ。結果で示すからよく見ておきなさい」
どうやらサーラは少々お怒りのご様子だった。
ルブルックは自分の信頼はなかなか伝わらないものだと思いはしたが、サーラとの関係はこれでよいとも感じていた。
◆ ◆ ◆ ◆
そして、両軍の戦いが始まった。
レリアナを中心とした聖騎士団が先陣を切って攻め上がり、青の王国軍はそれに対抗するため、正面から重装歩兵を中心とした主力をぶつける。ルブルックの進言通り、青の3騎士と呼ばれる精鋭騎士まで投入し、レリアナの首を狙い行くつもりだった。
聖騎士団と真正面からぶつかるのは、青の王国軍にとってもリスクの高い行為であったが、レリアナをここで潰せねば青の王国軍の未来は暗い。被害を度外視してでも、青の王国軍はレリアナを堕としにかかっていた。
その戦場で、ルブルックはもう一人の標的であるキッドを探す。
「レリアナについている可能性も考えたがいないようだ。こちらの重装歩兵隊を狙ってくるかとも思ったが、それもなかったか……」
聖騎士団に相対する青の王国軍の重装歩兵隊に、キッドが竜王破斬撃を狙ってくることをルブルックは想定していた。ルブルックと違い、キッドは竜王破斬撃を防がれる心配する必要がない。そのキッドが、ここで重装歩兵隊を潰せば、聖王国は一気に有利になるはずだった。
ルブルックはそれをわかっていながら、キッドに竜王破斬撃を撃たせるつもりだった。重装歩兵隊が潰されても、代わりに動ける部隊を用意するよう、サイラスには進言してある。それでいくらかはもちこたえられるだろうが、サイラスの指揮では勝てはしないだろうとも予測している。
だが、その代わりに魔力を使い果たしたキッドを討つのが容易になる。その後でルブルックが援護に回れば、レリアナを討つことも可能だろう。そうすれば、挽回の可能はある。万一、今回の戦いに敗れたとしても、レリアナとキッド抜きの聖王国相手なら、次戦以降青の王国軍が間違いなく勝利する。
ルブルックはそう考えていた。
しかし、ルブルックの予想に反して、キッドはそう動いてこなかった。
「……キッドはどこで何を狙っているのだ?」
ルブルックにはキッドの考えがわからなくなる。
「ルブルック! キッドとルイセを見つけた!」
隣でキッドの探索をしていたサーラが、両軍主力がぶつかる戦場の中心から離れたところを指差した。
ルブルックも慌ててそちらに目を向けるが、騎馬が2騎見えはしても、とても人物を判別できるような状態ではない。
「……よくわかるな」
「あなたの目がよくないのよ」
ルブルックも決して目が悪いわけではない。ただ、サーラの目が異常によいだけだった。
ルブルックにはこの距離ではとてもその二人がキッド達かどうかはわからないが、彼はサーラの目を疑いはしない。
「サーラ、行くぞ。狙い通り、ここでキッドとルイセを討つ!」
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ルブルックとサーラの二人は、戦場から離れるように動くキッドとルイセへと馬を向けた。
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