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最終話 新入部員

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 今夜行う予定の天体観測会の準備をしていた彼方が手を止め、とろりんの方に顔を向けた。

「おーい、とろりん。天体望遠鏡ってどこに置いたっけ?」

『えー、来年度の部費についてですが』

 とろりんは、見ていた星座の早見表から目を離し、彼方の方を見やる。

「部費なら金庫の中ですよ~」

「そうか金庫の中か……ってうちの小さな金庫に天体望遠鏡は入らんだろ!?」

「えっ、天体望遠鏡ですか~? それなら倉庫の方じゃないんですか~」

「そのはずなんだけど、見つからなかったんだよ」

 彼方は首をひねる。

「机や椅子を運び込む前は~、確かにあったんですけどね~」

 彼方と同じようにとろりんも首をひねる。

『生徒会室の修復に伴う費用を公平に負担するため、全クラブ一定割合ずつ差し引かせてもらいます』

「あ、そ~いえば~、部屋を空けるために理科準備室に運んだんでした~」

『えー! そんなの酷いぞ!』

「なにも~そんな言い方しなくてもいいじゃないですか~。私が理科準備室に運んじゃいけなかったんですか~?」

「えっ? 俺は何も言ってないぞ。理科準備室に運んでくれたんだろ? ありがとうくらいは言わせてもらうけど……」

 急にとろりんに非難されて、彼方は戸惑う。

『生徒会室の爆発事件はうちのクラブには関係ないことじゃないか』

「関係ないなんてあんまりです~! 私だって天文部の一員なんですよ~!」

「も、もちろんだよ。とろりんは立派な天文部員だ。けど、一体何で突然そんなことを言い出すんだよ」

『うちのクラブだって関係ないぞ! だいたいうちなんてむしろ被害者じゃないか!』

「どうして部長が被害者なんです~!」

「えっ、俺が被害者? 確かに迷惑は色々被ってきたけど、どの話だ? 加害者はどいつなんだ?」

『静かにしてください! これはすでに決定したことなのです!』

「何がどう決定したって言うんですか~!」

「へっ? 今晩の天体観測会ならだいぶ前から決まっているじゃないか」

『そんなの天文部に全部の責任取らせればいいじゃないか』

「部長は~、私にどんな責任を取れって~言うんですか!」

「……うるさい! さっきからお前ら邪魔だよ! お前らのせいでまともにクラブ活動できないじゃないか!」

 天文部の部室の中央に机と椅子を並べ、この空間の大部分を占拠している生徒会と各クラブの代表。その面々に向け、その横のほとんどないスペースで細々と天体観測の準備をとろりんと行っていた彼方がついにキレて、怒鳴り声を上げた。

「だって、仕方ないでしょ。彼方君が生徒会室潰しちゃったんだから」

 生徒会長──秋月あきづき麗奈れいな──に笑顔でそう言われても、彼方は納得できない。

「だからってどうしてうちの部室なんだよ!」

「それは責任を取るためでしょう」

 いくつも並んだ椅子の一つに腰掛けている品緒(しなお)が当然とばかりに言ってくる。

「品緒、責任の一旦はお前にだってあるのに、どうしてそうやって予算会議にのうのうと出ていられるんだよ!」

「あ、そういえば彼方君の席がありませんね。どうして参加せずに、そんな部屋の隅なんかで機材をいじくってるんです?」

「生徒会室の修復工事代にあてるために、来年度の部費はなしにされたんだよ!」

「あ、そうだったんですか。それは、ご愁傷様です」

「……それは笑いながら言うセリフか?」

 彼方は思わず近くに転がっていた、夜店で三百円で買った隕石(九割九分偽物)を品緒に投げ付けた。

「ごめんね、彼方君。ホントは私に責任の大部分があるんだけど……私も天文部に入っちゃったもんだから」

 麗奈は両手を合わせて拝むようなポーズを取りつつ、ウインクしてみせる。可愛い。めそれは実に可愛い仕草だった。

「はぁー。しょうがないよなぁ」

「ホント、ゴメンね。こんな予算会議なんてすぐ終わらせるからもうちょっと我慢しててね」

「こんな予算会議とはどういうことですか! 仮にも生徒会長なんですよ!」

「だって、天文部の部費はどっちみちないんだし、……それに今日の夜の天体観測会がとーっても楽しみなんだもん」

 書記のそんな抗議に対しても、今の麗奈はそう答えて、肩をすくめ舌を出してみせた。含むところがない、そんな素直な発言と、キュートな仕草に、皆は一様に笑顔になる。

「ふーっ。来年は部費なしか。結構きついよな。……でも、ま、いいか。学校が元に戻り、大好きな星が好きに見られて、そしてその横に麗奈の笑顔があるのなら」

 彼方は手を休めて、会議を進める麗奈の笑顔を見つめた。

「……星か。もしかしたら、俺は空の星よりも輝いている、俺にとっての星を見つけたのかもしれないな」

〈終〉
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