「部活は何やってるの?」「それって宣戦布告ですか?」

グミ食べたい

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第21話 対将棋部

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「別に他意はない。言葉そのままの意味だ」
「……所詮は負け惜しみということか」
「そう思いたくば思え。俺は俺で心置きなく戦わせてもらう」

 クラブパワーを高める彼方を中心に宇宙が広がっていく。星星のきらめく宇宙は碁盤全体に広がり、彼方達のいる場所は宇宙の上にマス目が描かれているような状態になった。

「将棋フィールドと天文フィールドが融合した状態といったところか」
「品緒を取ったのはいいが、せっかくの成香なりきょうをこんなとこに置いておいては、取ってくださいと言っているようなものだぞ。──天文部必殺、地球百烈拳!」

 彼方の言葉により、いずこからか飛来してきた地球が、金色になったはいいが無防備な姿勢で突っ立っている香車に向かって行く。

 ボコボコボココ

 香車は一方的に殴られると、ポンという乾いた音と少しばかりの煙を発して元の駒に戻り、彼方の手元まで飛んで行った。
 だが、自分の駒を取られても、波佐見は悔しさを微塵も見せずに、まだ余裕の表情をかましている。

「確かに香車は失った。だが、私はその代わりに大手君を得ている。香車ごときと交換なら、万々歳だ」
「品緒が去り、代わりに神速の突撃ができる香車が手に入った。……こんな嬉しいことがほかにあるか」

 彼方の方も、抑えようとしても自然と沸いてくる笑みで品緒に対抗する。

っ、強がりを言う。しかし、これからの私の攻撃を受けて、いつまでその調子でいられるのかな。何しろ、お前達はさっき自分で指摘したにもかかわらず、香車の餌食となる並びのままなんだからな」

 その言葉にも、彼方は慌てず騒がず淡々と言う。

「何を言っているんだ。よく見ろ」
「……? 何をだ?」
「俺は香車を取りはしたが、俺自身は一歩たりとも動いてはいないぞ」

 確かに彼方の言う通り、地球百烈拳を使って香車を撃破したものの、それを放った彼方自身は元のマス(5八)にいるままである。

「俺達は誰も動いていないし、もちろん何か駒を打ったわけでもない。つまり、こちらの手はまだ終了していないということだ」
「ひ、卑怯な!」

 彼方は波佐見の言葉など聞く耳持たない。

「とまぁ、そういうわけで、俺達の行動を取らせてもらうぞ」

 彼方は右斜め前のマス(4七)に移動した。5七では香車打ち、4八(6八)では角打ち、4九(6九)では飛車打ちで、やっぱりどちらかがやられてしまうことになるので、動く場所としては、斜め前以外には考えられない。

「そうか。そういうことをするのか。……わかった。ならば、こちらにだって考えがある」

 波佐見は懐に手を突っ込み、そこにある駒を全部掴む。そして、懐から一気に引き抜き、握った駒をすべて放り投げた。

「将棋部秘奥義、駒並べ!」

 宙を舞ういくつもの駒──正確に数えたなら王と香車一枚ずつを除く十八枚の駒が確認できただろう。
 それらの駒は自分の意思があるかのように、空中で各々の目指す場所へと散っていき、自分の初期の配置場所に落ちていった。そして、自分の落ちた所で白い煙を上げつつ、鎧をまとった人間の姿へと実体化していく。
 二人ずついる金と銀の鎧を纏った武将達が波佐見を中心にして立ち、その両側に額に「桂」の文字を持ち馬に跨がった武将が位置する。さらにその外、つまり一の列の両端には香車がくるはずだが、そのうちの一人はすでに使ってしまったため、片側(九一)にだけいる。また、二の列においては、2二に「角」の文字を持つ屈強な武将、8二に「飛」の文字を持つ、角以上に屈強な武将が仁王立ちしている。そして、三の列には、横一列に並んだ九人の「歩」の文字を持つ足軽風の武将が、攻め入らんと武器を構えて睨みをきかせている。

 ようするに、

   一 二 三 四 五 六 七 八 九                                                
 1│ │ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 2│桂│角│歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 3│銀│ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 4│金│ │歩│ │ │ │波│ │ │                                               
 5│波│ │歩│ │ │ │ │ │と│                                               
 6│金│ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 7│銀│ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 8│桂│飛│歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 9│香│ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               

という状態だ。

「卑怯だぞ! 一度にそんなにたくさんの駒を打つなんて!」
「私は一度しか手を振っていない。つまり、これは一手なのだよ。たとえ、その手にいくつの駒を握っていたとしてもな!」

 自分の右手を前に突き出して、満面の笑みを浮かべる波佐見。

「汚ねーぞ!」
「そうだよ~! ずるいよ~!」

 とろりんまで両手に握り拳を作って彼方の援護をする。

「最初に汚い手を使ってきたのはそっちだろうが!」
「ちっ、こうなりゃ、敵がどれだけいようとやってやる! それでこそ、主人公ってもんだ。行けっ、青く輝く母なる星よ!」

 彼方の回りを飛んでいた地球が、同じ列にいる歩兵ふひょうに向かって飛んで行く。

 ──だが、歩兵は飛んできたその地球を、携えた剣をバット代わりにして打ち返した。

「なっ……。たかが歩兵ごときに天文部の技が返されるとは」
歩歩歩ふふふ。歩兵といえども、正面きってな戦いならば、王将や金将と能力は変わらん。ま、これが将棋部と天文部との底力の差ということだな。さぁ、今度はこっちの攻撃だぞ」

 波佐見が命令を出し、駒を進ませていく。
 彼方は次の手番で、再び遠距離攻撃を仕掛けるが先程の同じ様に無様に返された。
 そうこうしているうちに数手が進み──

「4二飛車! 私の得意の四間飛車の恐怖をとくと味わうがいい!」

 一人盛り上がる波佐見だが──

「……俺らは三人しかいないのに、何故そんなちまちました定石通りの攻めをしてくる?」
「う、うるさい! 基本は何事にも大切なんだぞ!」

 そして、さらに数手が経ち──

っ。これで美濃囲いが完成だ。この守り、崩せるものなら崩してみるがいい!」

 金二枚と銀一枚、さらに桂馬と香車に守られながら、波佐見が胸を張る。

「……こっちは香車を入れてもたったの三人なのに、そんな囲いを作る意味はあるのか?」
「きっと~応用力がないんですね~」

 とろりんにまで言われる始末。

「王の守りを固めるのは将棋の基本。素人のお前達にそんなことを言われたくはない!」
「そんなにムキになるなよ。俺達は思ったことを言っただけだろうが」

 その後も、波佐見は無駄と思われるが、定石通りの手で次第に彼方達との間合いをつめていく。それに対して彼方達は、効かない技や、無駄な移動で手を浪費していく。
 そしてまた数手後。

「そろそろ逃げ場所もなくなってきたな。おとなしく降伏するか?」
「けっ、誰がするか!」

 強がる彼方だが、起死回生の策があるわけではない。彼方達に馬鹿にされはしたが、石橋を叩いて渡る的な四間飛車による定石通りの攻めは、容易につけいるスキを見つけられるようなものではなかった。

   一 二 三 四 五 六 七 八 九                                                
 1│ │ │歩│ │ │ │ │彼│と│                                               
 2│桂│ │ │歩│ │ │ │ │ │                                               
 3│ │ │角│歩│ │ │ │ │ │                                               
 4│ │飛│銀│歩│ │ │ │ │ │                                               
 5│ │ │歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 6│金│ │金│歩│ │ │ │ │ │                                               
 7│ │銀│歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 8│桂│波│歩│ │ │ │ │ │ │                                               
 9│香│ │ │歩│ │ │ │ │ │                                               

 今やこんな状況。そもそも、使えるのが三人だけでどうにかできるはずがないのだ。

「あら、随分と苦戦しているようね。たかが将棋部相手に」

 いきなりかけられた、横合いからの聞き覚えのある声。その声に、彼方ととろりんはすぐに反応する。

「その声は!」
「あ~っ、盟子さん! お久しぶりです~」

 もはや普通の制服姿でいる方が珍しい盟子が、あまりにも嬉しげなとろりんの笑顔に、少し照れながら、そこに立っていた。
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