上 下
13 / 47

第13話 阿仁盟子戦決着?

しおりを挟む
「……このクラブ・パワー、並じゃないぞ。ただのアニメ同好会ではないと思っていたが、ここまでとは!?」

 彼方の中での盟子の評価がまたアップした。しかし、今彼にできるのは、その盟子と品緒とのクラブの誇りを賭けた壮絶な戦いを見守ることのみ。なにしろ、片や敵、片や鬱陶しい奴という、どちらにも味方したくない状況なのだから。

「消し炭におなり! 鳳凰乱舞!!」

 解放される盟子のクラブ・パワー!
 そして、彼女の周りに生まれる数十にも及ぶ火の鳥!
 それらが一斉に品緒に向かって飛び立った!!

 しかし、その圧倒的な編隊飛行を前にしても品緒の表情は変わらない。

「甘いですよ。マジック部必殺、水芸!」

 品緒の五指からいきなり放水が始まった。いや、指からだけでなく、頭と言わず足と言わずどこもかしこからも。
 そして、それらの水が襲いかかってくる火の鳥のことごとくを消し去っていく。

「な、何ですって……」

「部長、水芸ってマジックなんですか?」
「さあ? しかし、水の通る管も水道もないところから常識を無視して放水するあたり、さすが品緒だ。訳がわからん」

 彼方ととろりんはさっきから傍観者を決め込んでいる。

「まだまだこんなものじゃなですよ。マジック部必殺、火炎放射!」

 前に突き出した品緒の右手から炎が伸び、盟子を焼かんとする。

「部長、火炎放射ってマジックなんですか?」
「さあ? しかし、火を出す装置もないのに常識を無視して火を放つうえ、自分自身は火傷一つしないあたり、さすが品緒だ。訳がわからん」

「セーラー火星のこのあたしが、火に攻められるなんて……」

 常識を越えた品緒の攻撃に動揺する盟子。
 その彼女の耳に、いきなり繰り広げられた大道芸に引き付けられて、少し離れた所から様子を見ていた関係のない生徒達の声が飛び込んできた。

「なんかこいつら凄いことやってるな。学園祭の練習か?」
「いくらうちの学校でもこんなことはせんだろ。第一まだ学園祭には早すぎる。テレビの撮影じゃないのか?」
「だけどさ、あの女の格好見てみろよ。あれって『セーラー月』のキャラクターじゃないのか?」

 ピクッ。盟子の柳眉が少し動いた。

「ああいうのをコスプレって言うんだぜ。アニメオタクが喜んでやってるらしいぞ」

 ピクピクッ。

「マジ? きっついなぁ、それ。あそこまで行ったら駄目だろ」

 ピクピクピクッ。

「あいつ、きっと本物のオタクだぜ」

「……そうよ」

 盟子が壊れた。

「どうせあたしはアニメおたくよ! ドラマよりバラエティーよりアニメが好きよ! 高校生にもなってアニメキャラに憧れて、アニメキャラに恋をしてるわよ! あなた達にしてみれば、幼稚で現実と非現実との区別もつかない人間なんでしょうね! そうやって、みんなあたし達を変な目で見るのよ! いつも、いつも! 同人誌描けば変な趣味と言われ、コスプレすれば変態扱い。そのくせ露出度の高いコスプレにはスケベ心で我先にと群がってくる! あんた達なんて、あんた達なんて……」

 誰もそこまでは言ってないのに勝手に喚き散らした盟子は、両手で肩を抱えながら全身を小刻みに震わせる。
 盟子について喋っていた生徒達は、目を点にしている。

「あんた達なんて、みんな燃えておしまい! ヘルファイヤー!!」

 見境のなくなった盟子のクラブパワーが地獄の業火へと姿を変えて、周囲に吹き荒れた。それはまさに蔑みに対する行き場のない盟子の想いの現れ。偏見に対する反抗の象徴。渦巻く炎の熱さから、彼女の怒りの深さがうかがい知れる。
 その炎は、対峙していた彼方や品緒や、盟子のことを悪く言った生徒達だけでなく、ただ傍観していただけのとろりんにまで見境なく襲いかかって行く。

 品緒は水芸でそれを防げるし、彼方も惑星をうまく使えばなんとでもなる。しかし、何の技も持たないとろりんには、この荒れ狂う炎を防ぐ術(すべ)などありはしない。

「ひっ!」

 さすがのとろりんも、生き物のように動きながら自分の方に迫ってくる炎を前にして、恐怖にひきつった顔を浮かべてその場に硬直する。──だが、とろりんに届く前に、その炎は横合いから現れたバリアによって侵攻を止められた。

「切れた女は始末に負えんな」
「部長~」

 バリアに続いて、彼方もとろりんの盾となるように彼女の前に立つ。
 とろりんを守ったバリアは、水金地火の惑星が密着して棒状に一列に並んだものが、端の水星を中心として円を描くように高速回転してシールドと化したものだった。

「天文部必殺、地球型惑星大車輪。狙いも定めない無差別攻撃相手なら、これで十分だ」

 とろりんの安全は確保された。だが彼女と同じように何の能力もない一般の生徒は……口は災いの元ということで諦めてもらおう。

 しばし後──

 そして嵐は過ぎ去った。品緒はたいした被害もなくつっ立っている。とろりんも彼方のおかげで無傷。彼方も天文部の技を極めた男。服には所々焦げた跡があるものの負傷はしていない。盟子の悪口を言った生徒達は――こごではあえて触れまい。

 そして当の阿仁盟子はというと、急激かつ大量のクラブパワーの消費して、今や肩で息をしている状態。

「凄まじいクラブパワーだな。だが、負の感情を拠り所としていては、いつか自分自身の身を滅ぼすことになるぞ」
「うるさいわね! あなたなんには私の気持ちはわかりはしないのよ!」

 盟子はいまだ興奮気味だった。

「いや、そんなことはないぞ。天文にしろアニメにしろ、情熱を傾けているという点で俺達は同じだ。そして、命懸ける程に打ち込んでいる人間の姿が、普通の者には奇異として映り、偏見の目で見られるというのも同じだ」
「……空野彼方」
「お前の気持ち、俺にだってわかるぞ」
「…………」

 彼方を見つめる盟子の表情が何とも言えない複雑なものに変わつた──と思ったら、次の瞬間には、はっとした表情に猫の目のようにめまぐるしく変化する。

「わ、忘れてた!」
「ん? 何だ急に?」
「な、なんでもないわよ! ……そうね、今回は引き分けってことにしておいてあげるわ。でも、次に会った時こそあなた達の最期と思いなさい!」

 盟子はいきなり一人で戦いを完結させると、彼方達の返事も待たずに校門に向かって駆け出して行った──コスプレしたままの姿で。

「……なんだったんだ、あいつは?」

 全く事情が飲み込めない彼方達は、そんな盟子の後ろ姿を訳もわからずただ唖然としながら見送るだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

月夜の理科部

嶌田あき
青春
 優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。  そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。  理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。  競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。  5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。  皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。

ダンジョンが義務教育になった世界で《クラス替え》スキルで最強パーティ作って救世主になる

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  2256年近未来、突如として《ダンジョン災害》と呼ばれる事件が発生した。重力を無視する鉄道〈東京スカイライン〉の全30駅にダンジョンが生成されたのだ。このダンジョン災害により、鉄道の円内にいた200万人もの人々が時空の狭間に囚われてしまう。  主人公の咲守陸人(さきもりりくと)は、ダンジョンに囚われた家族を助けるために立ち上がる。ダンジョン災害から5年後、ダンジョン攻略がすっかり義務教育となった世界で、彼は史上最年少のスキルホルダーとなった。  ダンジョンに忍び込んでいた陸人は、ユニークモンスターを撃破し、《クラス替え》というチートスキルを取得したのだ。このクラス替えスキルというのは、仲間を増やしクラスに加入させると、その好感度の数値によって自分のステータスを強化できる、というものだった。まず、幼馴染にクラスに加入してもらうと、腕力がとんでもなく上昇し、サンドバックに穴を開けるほどであった。  凄まじいスキルではあるが問題もある。好感度を見られた仲間たちは、頬を染めモジモジしてしまうのだ。しかし、恋に疎い陸人は何故恥ずかしそうにしているのか理解できないのであった。  訓練を続け、高校1年生となった陸人と仲間たちは、ついに本格的なダンジョン攻略に乗り出す。2261年、東京スカイライン全30駅のうち、踏破されたダンジョンは、たったの1駅だけであった。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】 異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。 原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。 初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。 転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。 前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。 相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。 その原因は、相方の前世にあるような? 「ニンゲン」によって一度滅びた世界。 二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。 それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。 双子の勇者の転生者たちの物語です。 現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。 画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。 AI生成した画像も合成に使うことがあります。 編集ソフトは全てフォトショップ使用です。 得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。 2024.4.19 モチ編スタート 5.14 モチ編完結。 5.15 イオ編スタート。 5.31 イオ編完結。 8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始 8.21 前世編開始 9.14 前世編完結 9.15 イオ視点のエピソード開始 9.20 イオ視点のエピソード完結 9.21 翔が書いた物語開始

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...