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第12話 阿仁盟子のクラブパワー

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「ちょっと、呆れるのはいいけど、あたしを放っておかないでよ! 馬鹿な会話を聞かされて、あたしの方がもっと呆れてるんだから」

 二つのクラブを潰して栄華を極める自分の姿を描いていた盟子だったが、自分が蚊帳の外に置かれていることにふと気づき、彼方に向かって唾を飛ばした。

「すまん、すまん。あいつの相手してるくらいだったら、あんたの相手してる方がよっぽどマシだ。あいつは無視して続きをやろうぜ」

 彼方は気を取り直して、盟子だけを視界に入れることにした。

「さすが彼方君。親友を危険な目に遭わすわけにはいかないというんですね。ううっ、泣かせるじゃないですか」

 グーにした左手の中に右手の指を入れ、何もなかったその左手の中から白いハンカチを取り出す品緒。そのハンカチで目頭を押さえるが、目元に光るものなど見えやしない。

「ですが、安心して下さい。この大手品緒、彼方君のために傷つくのなら本望です。いえ、たとえ命を失ったとしても後悔はしません!」

 今度は、それまで手にしていたハンカチを右手の一振りで一瞬にして消し去り、両手に握り拳を作り訴えかける。

「いいお友達ですね~」
「全然よくない!」

 本気で感動した様子で言ってくるとろりんに対して、間髪れずに彼方の反論が飛ぶ。

「どうでもいいけど、さっきからペチャクチャとうるさい男ね。まずはあなたから始末してあげるわ!」

 さっきはややこしいポーズをしながら作りだしたのに、盟子は今度は何の動作もなく、いとも簡単に火の鳥を手元に作り出した。そんなことができるのなら最初からそうすればいいのにとは思うが、そこはコスプレイヤーの信念というか何というか……。

「これでも食らって寝てなさい。火の鳥!」

 盟子の手元から炎で形作られた鳥が、品緒目掛けて飛びかかる。
 その火の鳥に対して、品緒は突然のことに驚いているのか、かわす素振りさえ見せずにつっ立ったまま。その間にも火の鳥はすでに回避不可能な距離にまで迫って来ていた。

 盟子は完全に仕留めたと思った。

 彼方は、これで腐れ縁を断ち切ることができればいいなと期待薄な気持ちで見守った。

 とろりんは次に起こる惨劇におののき、両手で顔を覆った。

 火の鳥はなおを接近する。あと十センチ、五、四、三、二、一、そして当た──うぬ!?

「何っ? 消えた?」

 いきなりの予想外の事態に目を剥く盟子。

 その前の瞬間まで確かに品緒はそこにいた。火の鳥の飛行速度、人間の認識・反応・行動速度、そして間合い。それらをすべて考慮に入れて計算すると、どう考えても当たるはず。なのに、その激突の瞬間に品緒は忽然と姿を消し、今も消えたまま。

「あたしは夢を見ているの!?」
「いえいえ、現実ですよ」

 声は後ろからした。慌てて振り向く三人。すると、さっきまで品緒がいた場所と盟子を挟んで正反対の位置──簡単に言えば盟子の後ろ──に品緒が何食わぬ顔で立っていた。

「な、なんであなたがそこにいるのよ!?」
「何故って? それはマジック部必殺『瞬間移動』のマジックを使ったからですよ」

 声を少し裏返らせて問う盟子に、品緒は「何故そんな質問をするのかわからない」とでも言いたげな表情を浮かべながら答える。

「もっとも、マジックとは言っても魔法ではなく、種も仕掛けもある手品の方ですけどね」
「種も仕掛けもあるって、何もないこの校庭のどこにそんなものがあるっていうのよ!?」

 盟子は声を嗄らせて怒鳴るが、品緒は立てた人差し指をチッチッチと横に振る。

「手品は種を明かさないからこそ価値があるんですよ」
「何訳のわからないこと言ってるのよ! あなた、ホントに人間なの!?」

 盟子は何がなんだかわからなくなってきて、その綺麗な黒髪を掻き毟る。

「な、こいつと喋ってると疲れるだろ?」

 彼方が横から同情するような目を向けるが、今の盟子には彼方の声は届いてはいない。

「こうなったら意地でも息の根を止めてあげるわ!」

 盟子のクラブパワーが上昇していくのが、そばにいる彼方には肌で感じられた。まるで冬場に金属を触った時に静電気でパチッとくるような感覚が、全身を襲ってくる。
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