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第98話 ギルド内会議
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「――というわけで、マテンローからHNMと戦うためのギルド同盟の誘いを受けたんだけど、どう思う?」
外に会話が漏れる心配のない個室の中、俺はマテンローとの話をすべて正直に話した。みんながどんな反応をするのか、つい緊張してしまう。
そんな中、最初に口を開いたのはクマサンだった。
「俺はHNMと戦えるのなら戦ってみたい」
クマサンの低く渋い声が、静かな部屋に響く。ギルドメンバー全員とリアルでも会って以降も、ゲーム内のクマサンは獣人クマサンのロールプレイを変えていない。強い敵との戦いを望むその答えも、重戦士であるクマサンには相応しいと感じられる。
しかし、一方でその言葉に反対する声もすぐに上がった。
「私はHNMがギルドのメイン目的になるなら反対ですね」
そう言ったのはミコトさんだった。彼女がこんなにはっきりと自分の意見を言うのは少し意外だったが、その真剣な表情に、彼女の中でしっかりと考えがまとまっていることがわかる。
「ミコトさんはHNMに興味ない感じ?」
「興味がないわけではありません。でも、それを中心にするのはアナザーワールド・オンラインの楽しみ方としては違うかなと思うんです。実際、HNMギルドメンバーの知り合いもいますし、ギルドに誘われたこともありましたけど……彼らって、HNMと戦うためにゲームをやっているような感じで、私が求める楽しさとは少し違うと思うんです」
なんというか、HNMギルドメンバーと関わりがあるだけでなく、勧誘も受けていたなんて、さすがミコトさんだと思わず感心してしまう。今さらながらに、設立時から彼女がこのギルドにいてくれることが奇跡に思えてくる。
そしてまた、ミコトさんの考えもわからないではない。
HNMギルドの連中は、HNMのリポップの抽選時間に合わせて、6時間ごとに自然と集まるという。それも、時間や曜日を問わずに、だ。もはやそれは生活そのものをHNMに捧げていると言っても過言ではない。俺もアナザーワールド・オンライン自体は、生活の一部と言えるが、ゲームの中の一要素であるHNMにそこまでかけるのは、さすがにどうかと思う。
実際、俺も今後ギルドをHNM中心に移行しようとまでは思っていない。とはいえ、その折り合いをどうつけるのかは難しい問題だろう。今もクマサンとミコトさんとで、HNMへの思いの違いが見てとれる。この問題は、一筋縄ではいきそうにない。
俺は最後の一人、メイへと顔を向けた。
「メイはどう思う?」
「んー、そうだな。私もHNMには興味はある。HNMからドロップするレア素材は、鍛冶師として喉から手が出るほどほしいものだ。でも、市場に出る素材は限られているし、そのすべてが手に入るわけじゃない。自分で狩れれば、それらを手に入れることができる。そういう意味では、HNMと戦えるのは願ってもないことだろう。……だけど、私は鍛冶師だ。クマサンやミコトと違って、素の能力だけではHNM戦ではただの足手まといでしかない」
メイの言うことはもっともだった。
俺は非戦闘職の料理人でありながら、特定の敵に対しては最優のアタッカーになりうるが、メイはそうではない。だけど、俺は知っている。インフェルノ戦において、俺とクマサンとミコトさんの不足する部分を補い、陰で最も重要な働きをしていたのが誰だったかということを。
俺は熱い視線でメイを見つめた。
「だけど、メイはただの鍛冶師じゃないだろ? あのインフェルノ戦、メイがいなかったら俺達はきっと勝てていなかった」
「まぁ、あの時みたいに大量のアイテムを使いまくれば、アタッカー兼ヒーラー兼サポーターとしては立ち回れる。でも、そんなの毎回できるわけじゃない。あれを繰り返していたら、さすがの私でも破産する」
メイは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。その言葉の裏には、戦いたい気持ちと現実的な制約との葛藤が見て取れる。
「もっとも、記念に一回くらい戦ってみようって言うのなら、全然構わないし、むしろやってみたいくらいだけどな」
「そうか……」
俺はメイの言葉を噛みしめながら、改めて考え込む。
メイのスタンスは、クマサンやミコトさんともまた異なる。戦力としての現実を冷静に見つめた上での発言だ。
自分の中に芽生えていた期待――みんながHNM戦の話に喜んで乗ってきてくれるという、甘い幻想が砕け散った音が聞こえるようだった。
それぞれがギルドやゲームに抱く想いや楽しみ方が違う以上、この問題は単純には解決しない。
「ふぅ」
俺は大きく息を吐いた。
……俺のエゴを優先するわけにはいかないな。
それが正直な思いだった。
ギルドマスターであることを前面に出して説得すれば、「蒼天の牙」とのギルド同盟を推し進めることもできなくはない。だけど、それはきっとギルドの中に禍根を残す。下手をすれば将来的なギルド崩壊すら招きかねない。
ギルドマスターとして、時には強引さも必要だろう。だが、ここはそういう場面じゃない。そのくらいのことは俺にだってわかる。
「ありがとう。みんなの考えはよくわかったよ」
全員の顔を見渡し、素直な気持ちでそう告げる。
マテンローには悪いが、この話は一旦なかったことにしてもらおう。時が経ち、みんなの考えが変われば、またマテンローと組む機会も出てくるかもしれない。もちろん、その時にはすでに彼はHNMギルドを確立し、他のギルドの協力なんて必要としなくなっているかもしれないが、それならそれで運命だと諦めるまでだ。
――そう俺が思いを固めた時だった。
【マテンローがボイスチャットを申し込んでいます。許可しますか?】
【はい/いいえ】
絶妙なタイミングでそんなシステムメッセージが表示された。
俺達の会話をどこかで聞いていたんじゃないだろうな? そんなことを考えて辺りを見回したが、怪しいものはない。当たり前だが、システム的にこの部屋での会話は盗聴不可能だ。
「すまない、みんな。ちょっとマテンローからボイスチャットの申請がきたんだが、対応しても構わないか?」
三人とも嫌な顔一つせず了承してくれたので、俺は「はい」を選択する。
マテンローには、また会ったときに断ればいいと思っていたが、直接話せるのなら、これはちょうどよい機会かもしれない。
だが、申請を許可した瞬間、俺が何か話すより早く、マテンローの慌ただしい声が、俺の耳に飛び込んできた。
『ショウ、お前のギルドメンバーと連絡は取れるか!?』
「ああ、今、全員目の前にいるけど……」
彼の声があまりにも切羽詰まっていたので、俺はその質問の理由を尋ねるより先に思わず返答していた。
『だったら、すぐにギルメンと一緒に来てくれ! HNM「キング・ダモクレス」が出たんだ!』
「――――!!」
マテンローの言葉に俺は一瞬言葉を失う。
『うちのギルドメンバーにも連絡を入れているが、すぐに来られる人数には限界がある! このままだとほかのHNMギルドに先を越されてしまうんだ! キング・ダモクレスと戦う機会なんて、これを逃したらもうこないかもしれない! 頼んだぞ!』
一方的に言い切ると、マテンローはそのままボイスチャットを終了してしまった。
「――おい!」
慌てて呼びかけたが、すでに通信は途絶えている。
ギルド同盟の話を断ろうと思っていたところなのに、いきなりHNM戦だなんて……。
俺は困惑したまま目の前の三人の顔を見渡す。俺の声はみんなにも聞こえていただろうが、マテンローからのボイスチャットは、システム的にみんなには聞こえていない。それでも、俺の態度から何かが起こっていると察した様子で、俺の方を見つめている。
さて、この状況、どうしたものか……。
外に会話が漏れる心配のない個室の中、俺はマテンローとの話をすべて正直に話した。みんながどんな反応をするのか、つい緊張してしまう。
そんな中、最初に口を開いたのはクマサンだった。
「俺はHNMと戦えるのなら戦ってみたい」
クマサンの低く渋い声が、静かな部屋に響く。ギルドメンバー全員とリアルでも会って以降も、ゲーム内のクマサンは獣人クマサンのロールプレイを変えていない。強い敵との戦いを望むその答えも、重戦士であるクマサンには相応しいと感じられる。
しかし、一方でその言葉に反対する声もすぐに上がった。
「私はHNMがギルドのメイン目的になるなら反対ですね」
そう言ったのはミコトさんだった。彼女がこんなにはっきりと自分の意見を言うのは少し意外だったが、その真剣な表情に、彼女の中でしっかりと考えがまとまっていることがわかる。
「ミコトさんはHNMに興味ない感じ?」
「興味がないわけではありません。でも、それを中心にするのはアナザーワールド・オンラインの楽しみ方としては違うかなと思うんです。実際、HNMギルドメンバーの知り合いもいますし、ギルドに誘われたこともありましたけど……彼らって、HNMと戦うためにゲームをやっているような感じで、私が求める楽しさとは少し違うと思うんです」
なんというか、HNMギルドメンバーと関わりがあるだけでなく、勧誘も受けていたなんて、さすがミコトさんだと思わず感心してしまう。今さらながらに、設立時から彼女がこのギルドにいてくれることが奇跡に思えてくる。
そしてまた、ミコトさんの考えもわからないではない。
HNMギルドの連中は、HNMのリポップの抽選時間に合わせて、6時間ごとに自然と集まるという。それも、時間や曜日を問わずに、だ。もはやそれは生活そのものをHNMに捧げていると言っても過言ではない。俺もアナザーワールド・オンライン自体は、生活の一部と言えるが、ゲームの中の一要素であるHNMにそこまでかけるのは、さすがにどうかと思う。
実際、俺も今後ギルドをHNM中心に移行しようとまでは思っていない。とはいえ、その折り合いをどうつけるのかは難しい問題だろう。今もクマサンとミコトさんとで、HNMへの思いの違いが見てとれる。この問題は、一筋縄ではいきそうにない。
俺は最後の一人、メイへと顔を向けた。
「メイはどう思う?」
「んー、そうだな。私もHNMには興味はある。HNMからドロップするレア素材は、鍛冶師として喉から手が出るほどほしいものだ。でも、市場に出る素材は限られているし、そのすべてが手に入るわけじゃない。自分で狩れれば、それらを手に入れることができる。そういう意味では、HNMと戦えるのは願ってもないことだろう。……だけど、私は鍛冶師だ。クマサンやミコトと違って、素の能力だけではHNM戦ではただの足手まといでしかない」
メイの言うことはもっともだった。
俺は非戦闘職の料理人でありながら、特定の敵に対しては最優のアタッカーになりうるが、メイはそうではない。だけど、俺は知っている。インフェルノ戦において、俺とクマサンとミコトさんの不足する部分を補い、陰で最も重要な働きをしていたのが誰だったかということを。
俺は熱い視線でメイを見つめた。
「だけど、メイはただの鍛冶師じゃないだろ? あのインフェルノ戦、メイがいなかったら俺達はきっと勝てていなかった」
「まぁ、あの時みたいに大量のアイテムを使いまくれば、アタッカー兼ヒーラー兼サポーターとしては立ち回れる。でも、そんなの毎回できるわけじゃない。あれを繰り返していたら、さすがの私でも破産する」
メイは肩をすくめて苦笑いを浮かべた。その言葉の裏には、戦いたい気持ちと現実的な制約との葛藤が見て取れる。
「もっとも、記念に一回くらい戦ってみようって言うのなら、全然構わないし、むしろやってみたいくらいだけどな」
「そうか……」
俺はメイの言葉を噛みしめながら、改めて考え込む。
メイのスタンスは、クマサンやミコトさんともまた異なる。戦力としての現実を冷静に見つめた上での発言だ。
自分の中に芽生えていた期待――みんながHNM戦の話に喜んで乗ってきてくれるという、甘い幻想が砕け散った音が聞こえるようだった。
それぞれがギルドやゲームに抱く想いや楽しみ方が違う以上、この問題は単純には解決しない。
「ふぅ」
俺は大きく息を吐いた。
……俺のエゴを優先するわけにはいかないな。
それが正直な思いだった。
ギルドマスターであることを前面に出して説得すれば、「蒼天の牙」とのギルド同盟を推し進めることもできなくはない。だけど、それはきっとギルドの中に禍根を残す。下手をすれば将来的なギルド崩壊すら招きかねない。
ギルドマスターとして、時には強引さも必要だろう。だが、ここはそういう場面じゃない。そのくらいのことは俺にだってわかる。
「ありがとう。みんなの考えはよくわかったよ」
全員の顔を見渡し、素直な気持ちでそう告げる。
マテンローには悪いが、この話は一旦なかったことにしてもらおう。時が経ち、みんなの考えが変われば、またマテンローと組む機会も出てくるかもしれない。もちろん、その時にはすでに彼はHNMギルドを確立し、他のギルドの協力なんて必要としなくなっているかもしれないが、それならそれで運命だと諦めるまでだ。
――そう俺が思いを固めた時だった。
【マテンローがボイスチャットを申し込んでいます。許可しますか?】
【はい/いいえ】
絶妙なタイミングでそんなシステムメッセージが表示された。
俺達の会話をどこかで聞いていたんじゃないだろうな? そんなことを考えて辺りを見回したが、怪しいものはない。当たり前だが、システム的にこの部屋での会話は盗聴不可能だ。
「すまない、みんな。ちょっとマテンローからボイスチャットの申請がきたんだが、対応しても構わないか?」
三人とも嫌な顔一つせず了承してくれたので、俺は「はい」を選択する。
マテンローには、また会ったときに断ればいいと思っていたが、直接話せるのなら、これはちょうどよい機会かもしれない。
だが、申請を許可した瞬間、俺が何か話すより早く、マテンローの慌ただしい声が、俺の耳に飛び込んできた。
『ショウ、お前のギルドメンバーと連絡は取れるか!?』
「ああ、今、全員目の前にいるけど……」
彼の声があまりにも切羽詰まっていたので、俺はその質問の理由を尋ねるより先に思わず返答していた。
『だったら、すぐにギルメンと一緒に来てくれ! HNM「キング・ダモクレス」が出たんだ!』
「――――!!」
マテンローの言葉に俺は一瞬言葉を失う。
『うちのギルドメンバーにも連絡を入れているが、すぐに来られる人数には限界がある! このままだとほかのHNMギルドに先を越されてしまうんだ! キング・ダモクレスと戦う機会なんて、これを逃したらもうこないかもしれない! 頼んだぞ!』
一方的に言い切ると、マテンローはそのままボイスチャットを終了してしまった。
「――おい!」
慌てて呼びかけたが、すでに通信は途絶えている。
ギルド同盟の話を断ろうと思っていたところなのに、いきなりHNM戦だなんて……。
俺は困惑したまま目の前の三人の顔を見渡す。俺の声はみんなにも聞こえていただろうが、マテンローからのボイスチャットは、システム的にみんなには聞こえていない。それでも、俺の態度から何かが起こっていると察した様子で、俺の方を見つめている。
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