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第66話 デートイベント?
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予想順位11位と、エルシーの実力と知名度が確実に上がってきたことを確認した俺は、翌日から小音楽劇場でのライブを積極的に行い始めた。
エルシーは小音楽劇場なら一人で埋められるようになっており、ライブを行えば収支としてはプラスが出る。そのこともあり、練習を音楽学校でのものに切り替えた。
序盤は雌伏していたが、しっかりと実力を高めてきたエルシーなら、ここからでも十分に挽回できるはずだ。俺はそう信じている。
とはいえ、可能ならエルシーの活動をブーストできる何かが欲しいのも確か。
その「何か」として、俺が期待しているのは14日目のイベントだった。
前回の「メロディア大音楽劇場使用チケット」以上の何かを得ることができれば、イングリッドにだって追いつけるはずだ。
そして、その14日目を迎えた。
「さぁ、ルーレット、来やがれ! 今度こそ凄いのを引き当ててやる!」
俺は拳を固く握りしめ、心の中で気合を高めていた。
しかし、いつまで経ってもイベントルーレット開始のメッセージが現れる気配がない。
俺が握りこぶしを作ったまま佇んでいると、エルシーが照れた様子を見せながらゆっくりと近づいてきた。
「ショウさん……今日は、ちょっと練習をお休みにして、公園でデートでもしませんか?」
「――――!?」
突然のデートのお誘いに、頭が真っ白になる。
女の子にデートに誘われた経験なんて、これまで一度もなかった。
こんな時、どんな顔をして、どう返していいのかわからず、ただ固まってしまう。
くっ! 恋愛ゲームならこういう時は選択肢が出てくるのだが、これは違う。ゲームの世界とはいえ、行動はすべて自分の判断に決めなければならない。
まさか、インフェルノ戦よりも困難な事態にこんなところで遭遇するとは……。
「私とデートは……いやですか?」
エルシーが不安げな瞳を上目遣いでこちらへ向けてきた。その視線を受け、断れる男がこの世の中に何人いるのだろうか?
「いや、全然。むしろ、光栄だよ」
思わず飛び出した俺の言葉に、エルシーは満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズを取った。そんな可愛い仕草をされたら、俺はもう完全にノックアウトだ。
「やったぁ! それじゃあ、公園まで行きましょ!」
彼女はスキップするように軽快な足取りで歩き出した。その姿があまりにも楽しそうで、俺も自然と彼女の後を追った。スキップこそ真似しないが、どこか足取りが軽くなっている自分に気づいてしまう。
……もしかして、14日目のイベントって、選んだ女の子とのデートイベントだったりするのだろうか?
期待していた「何か」とは全く違うものだが……これはこれでアリだと思う。
公園までやってきた俺達は、二人並んでゆっくりと歩き始めた。
風は心地よく、木々の葉が静かに揺れている。
普段はこの公園では、クマサンのところのウェンディが子供達に物語を聞かせたり、歌ったりしているのを見かけるが、今日はその姿はなかった。クマサンにエルシーとのデート現場を目撃されずに済むと、心の中でほっとする。
「こうやって音楽とは関係なく、ショウさんと公園歩くなんて、初めてですね」
エルシーが隣でそう言って微笑む。柔らかな笑顔に、俺は一瞬心を奪われる。
なにこれ? 急にゲームが変わった? 俺がやっていたのは恋愛シミュレーションだったのだろうか?
不思議だ。何度も見てきたこの公園が、今はまるで初めてみる場所のように美しく映っている。これってイベント用に演出効果が加わっているのか?
……いや、違う。明らかに俺の心の中で、世界の見え方が変わっているんだ。可愛い女の子と一緒にいると、こんなふうに風景が違って見えるものなのか。
「ベンチにでも座りませんか?」
「そうだね」
同意しながら内心では焦っている。
女の子と二人っきりでベンチに座った場合、どんな話をすれば良いものだろうか?
相手はリアルの女の子ではないのに、戸惑ってしまう。
女の子と二人で話した経験なんてない――と思いかけて、俺はクマサンと二人で隣り合って座って喋ったあの日の夜のことを思い出した。
そういえば、リアルのクマサン――熊野彩さんと一緒だった時は、その可愛さにドギマギしてはいたものの、何を話したらいいかわからないなんて思ったことはなかったっけ。そんなこと考えるまでもなく、二人とも言葉が出てきたような気がする……。
ゲームよりリアルの方がちゃんとできてるってどういうことなんだよ。
そう考えたら、無性におかしくなって笑いそうになる。
「ショウさん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。それより、ベンチだよね」
そう言って周りを見渡しベンチを探そうとして、俺達の前に人影が立ち塞がっていることに気づく。
「予想順位でこの私に負けてるのに、随分と余裕のようね」
そこには、眉を吊り上げ、鋭い視線を俺達に向けているキャサリンが、仁王立ちしていた。
エルシーもその姿を認めたようで、びっくりしたように口を開く。
「キャサリン!? どうしてこんなところに!?」
「どうしてって、あなたを見かけて気になって――じゃなくて、そんなのどうでもいいでしょ! 今のあなたにこんなところで遊んでいる余裕はあるのかしら?」
「遊んでなんていないわ! これはちょっとした息抜きよ! 英気を養うのも大事なことなの!」
「そういうことは、やるべきことをやりきった人が言うことよ! 今のあなたを見て、亡くなったお母様はどう思うのかしら!?」
「――――!? お母さんのことを言うなんて……ひどい!」
エルシーは息を呑み、怒りに震えた声を絞り出した。だが、キャサリンの言葉が胸に突き刺さったのか、彼女は背を向け、そのまま走り去ってしまった。あまりにも突然の展開で、俺は割り込む余地すらなかった。
デートイベントだと思っていたのに、エルシーを慰めるイベントだったのか?
さっきまでの楽しい雰囲気なんてすっかり吹き飛んでしまった。
俺はエルシーを追いかける前に、恨みがましい目をキャサリンの方に向けた。
レスバトルに勝利してさぞ得意げな顔をしているのだろうと思って彼女の顔を見てみれば――まるで迷子の女の子のように泣きそうな表情をしていた。
え? どうして? そんな感情が湧いてくる。
このまますぐにエルシーを追いかけるのが当然の選択だろう。だが、キャサリンのことも気になる。
実際には見えないが、俺の前には、
エルシーを追いかける
キャサリンに声をかける
そんな二つの選択肢が浮かび上がっているかのようだった。
エルシーは小音楽劇場なら一人で埋められるようになっており、ライブを行えば収支としてはプラスが出る。そのこともあり、練習を音楽学校でのものに切り替えた。
序盤は雌伏していたが、しっかりと実力を高めてきたエルシーなら、ここからでも十分に挽回できるはずだ。俺はそう信じている。
とはいえ、可能ならエルシーの活動をブーストできる何かが欲しいのも確か。
その「何か」として、俺が期待しているのは14日目のイベントだった。
前回の「メロディア大音楽劇場使用チケット」以上の何かを得ることができれば、イングリッドにだって追いつけるはずだ。
そして、その14日目を迎えた。
「さぁ、ルーレット、来やがれ! 今度こそ凄いのを引き当ててやる!」
俺は拳を固く握りしめ、心の中で気合を高めていた。
しかし、いつまで経ってもイベントルーレット開始のメッセージが現れる気配がない。
俺が握りこぶしを作ったまま佇んでいると、エルシーが照れた様子を見せながらゆっくりと近づいてきた。
「ショウさん……今日は、ちょっと練習をお休みにして、公園でデートでもしませんか?」
「――――!?」
突然のデートのお誘いに、頭が真っ白になる。
女の子にデートに誘われた経験なんて、これまで一度もなかった。
こんな時、どんな顔をして、どう返していいのかわからず、ただ固まってしまう。
くっ! 恋愛ゲームならこういう時は選択肢が出てくるのだが、これは違う。ゲームの世界とはいえ、行動はすべて自分の判断に決めなければならない。
まさか、インフェルノ戦よりも困難な事態にこんなところで遭遇するとは……。
「私とデートは……いやですか?」
エルシーが不安げな瞳を上目遣いでこちらへ向けてきた。その視線を受け、断れる男がこの世の中に何人いるのだろうか?
「いや、全然。むしろ、光栄だよ」
思わず飛び出した俺の言葉に、エルシーは満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズを取った。そんな可愛い仕草をされたら、俺はもう完全にノックアウトだ。
「やったぁ! それじゃあ、公園まで行きましょ!」
彼女はスキップするように軽快な足取りで歩き出した。その姿があまりにも楽しそうで、俺も自然と彼女の後を追った。スキップこそ真似しないが、どこか足取りが軽くなっている自分に気づいてしまう。
……もしかして、14日目のイベントって、選んだ女の子とのデートイベントだったりするのだろうか?
期待していた「何か」とは全く違うものだが……これはこれでアリだと思う。
公園までやってきた俺達は、二人並んでゆっくりと歩き始めた。
風は心地よく、木々の葉が静かに揺れている。
普段はこの公園では、クマサンのところのウェンディが子供達に物語を聞かせたり、歌ったりしているのを見かけるが、今日はその姿はなかった。クマサンにエルシーとのデート現場を目撃されずに済むと、心の中でほっとする。
「こうやって音楽とは関係なく、ショウさんと公園歩くなんて、初めてですね」
エルシーが隣でそう言って微笑む。柔らかな笑顔に、俺は一瞬心を奪われる。
なにこれ? 急にゲームが変わった? 俺がやっていたのは恋愛シミュレーションだったのだろうか?
不思議だ。何度も見てきたこの公園が、今はまるで初めてみる場所のように美しく映っている。これってイベント用に演出効果が加わっているのか?
……いや、違う。明らかに俺の心の中で、世界の見え方が変わっているんだ。可愛い女の子と一緒にいると、こんなふうに風景が違って見えるものなのか。
「ベンチにでも座りませんか?」
「そうだね」
同意しながら内心では焦っている。
女の子と二人っきりでベンチに座った場合、どんな話をすれば良いものだろうか?
相手はリアルの女の子ではないのに、戸惑ってしまう。
女の子と二人で話した経験なんてない――と思いかけて、俺はクマサンと二人で隣り合って座って喋ったあの日の夜のことを思い出した。
そういえば、リアルのクマサン――熊野彩さんと一緒だった時は、その可愛さにドギマギしてはいたものの、何を話したらいいかわからないなんて思ったことはなかったっけ。そんなこと考えるまでもなく、二人とも言葉が出てきたような気がする……。
ゲームよりリアルの方がちゃんとできてるってどういうことなんだよ。
そう考えたら、無性におかしくなって笑いそうになる。
「ショウさん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。それより、ベンチだよね」
そう言って周りを見渡しベンチを探そうとして、俺達の前に人影が立ち塞がっていることに気づく。
「予想順位でこの私に負けてるのに、随分と余裕のようね」
そこには、眉を吊り上げ、鋭い視線を俺達に向けているキャサリンが、仁王立ちしていた。
エルシーもその姿を認めたようで、びっくりしたように口を開く。
「キャサリン!? どうしてこんなところに!?」
「どうしてって、あなたを見かけて気になって――じゃなくて、そんなのどうでもいいでしょ! 今のあなたにこんなところで遊んでいる余裕はあるのかしら?」
「遊んでなんていないわ! これはちょっとした息抜きよ! 英気を養うのも大事なことなの!」
「そういうことは、やるべきことをやりきった人が言うことよ! 今のあなたを見て、亡くなったお母様はどう思うのかしら!?」
「――――!? お母さんのことを言うなんて……ひどい!」
エルシーは息を呑み、怒りに震えた声を絞り出した。だが、キャサリンの言葉が胸に突き刺さったのか、彼女は背を向け、そのまま走り去ってしまった。あまりにも突然の展開で、俺は割り込む余地すらなかった。
デートイベントだと思っていたのに、エルシーを慰めるイベントだったのか?
さっきまでの楽しい雰囲気なんてすっかり吹き飛んでしまった。
俺はエルシーを追いかける前に、恨みがましい目をキャサリンの方に向けた。
レスバトルに勝利してさぞ得意げな顔をしているのだろうと思って彼女の顔を見てみれば――まるで迷子の女の子のように泣きそうな表情をしていた。
え? どうして? そんな感情が湧いてくる。
このまますぐにエルシーを追いかけるのが当然の選択だろう。だが、キャサリンのことも気になる。
実際には見えないが、俺の前には、
エルシーを追いかける
キャサリンに声をかける
そんな二つの選択肢が浮かび上がっているかのようだった。
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