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第61話 予想順位発表
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その後も、俺はできるだけ資金を使わずに、エルシーの能力を地道に鍛えることに専念した。彼女が毎日黙々と練習を続ける姿を見守りつつ、俺自身もライバル達の動向を確認するため、街を巡るのを欠かさなかった。
メイは相変わらず、序盤から金を惜しみなく投入してイングリッドのPR活動に力を入れているようだ。いくら実力があっても知られていなかったら意味がないという考えなのだろうか? それは理解できるが、どうにも金を使いすぎな気がする。これでは早々に息切れするだろう。
一方で、ミコトさんは、カレンに音楽学校で練習させつつ、アルバイトもさせていた。食堂で元気よく働くカレンの姿を何度か見かけている。働きながら学校へ通うその様は、苦学生のようでちょっと応援したくなるが、カレンもまたエルシーのライバルだということを忘れてはいけない。
クマサンとウェンディの姿は、初日以降も幾度となく公園で見かけた。物語の朗読だけでなく、歌や楽器の演奏を披露していることもあった。だが、人は集まっているものの、大半が子供達であり、資金を使わないですむが、儲けにもならないだろう。クマサン達の善意や心優しさは尊敬するが、悲しいかなこの総選挙で有利に働くとは思えない。
そして、時は過ぎ、5日目の行動を終えた俺達は、六姉妹の屋敷の応接室へ集まり、吟遊詩人総選挙の予想順位が発表される瞬間を待っていた。このクエストでは、5日ごとに、吟遊詩人総選挙へ出場登録している女の子達の、現時点での人気順位が発表される。
「みんなに会うの、なんだか久しぶりに感じるな。実際にはそんなに経っていないはずなのに」
メイがソファに座りながら、どこか懐かしそうにほかの顔ぶれを見回していた。
「そうですね。でも、ショウさんとは街で何回も顔を合わせてますけどね」
「俺も、ショウが覗きに来てるのを何度も見た」
ミコトさんとクマサンが俺へと視線を向けてくる。どうやら、パートナーのもとを離れて情報収集に回っているのは俺だけのようだ。
「ほほう。ショウは私達の動きを探って回っているというわけか」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。ギルドマスターとして、みんなのことが心配になっただけだ」
メイの言葉に俺は肩をすくめてみせた。
事実はメイの言う通りなのだが、正直に答える必要もない。このやりとりも駆け引きの一つだ。堂々と認めては、今後警戒される恐れがある。
「そんなことより二人とも、そろそろ順位が出ますよ」
ミコトさんの言葉に、俺達は自然と姿勢を正した。
クエスト内の設定では、運営が独自調査した人気順位が、文書で渡されることになっているが、俺達にはわかりやすくシステムメッセージとして表示されることになっている。心の奥底に緊張が走り、息を呑む瞬間だ。
しばし緊張してその時を待っていると、メッセージウィンドウが開き、「5日目終了時点の吟遊詩人総選挙予想順位」という文字が表示された。
俺は生唾を飲んで、その続きを見守る。
総選挙への出場者は全部で20人。トップから発表されるのか、最下位から発表されるのか、初めてなのでそれすらわからず、なおさら緊張感が増す。
俺はこの5日間をほぼ練習にあててきた。評価基準がどうなっているのかわからないが、能力値を重視した順位付けなら、そこそこの順位に入っていてもいいはずだ。
『20位 エルシー』
その表示を見た瞬間、俺は頭が真っ白になり、思わずソファからずり落ちる。
はあぁぁぁぁ!?
最下位だって!?
まじかよ!?
序盤はプレイヤーがプロデュースする女の子達の順位が高くはならないだろうとは思っていたが、ここまでシビアなのか!?
俺の動揺をよそに、順位発表は続いていく。
『19位 カレン』
ずり落ちた姿勢のまま、俺はミコトさんを見上げた。彼女の表情は固く、驚愕と失望が入り混じったような険しい顔つきだ。
自室か学校か、方法は違えど、ミコトさんの方針は俺と似ていて、まずはとにかく能力を上げようというものだ。俺が20位なら彼女も似たところにいて不思議ではない。
だが、この結果は、自分達の行動が間違っていたと言われるようで、心に重くのしかかる。
『18位 ウェンディ』
続いては、クマサンの担当するウェンディの名前が挙がっていた。
これで、ワースト3をプレイヤーが担当する女の子達で占めることになってしまった。
しかし、こうなると、序盤はプレイヤーにとって厳しいところからスタートする仕様だと考えることもできる。それならそれで、そう悲観することもない。次の17位にメイの担当するイングリッドの名前が出てくれば、俺の推測通りということになるが――
『17位 オーロラ』
『16位 アリサ』
発表される名前は、同じ六姉妹だったが、イングリッドではなかった。
それでも、15位がイングリッドなら六姉妹でワースト6を占め、順位の違いは誤差と言えなくもない。
『15位 クローディア』
……あれ?
知らない名前が出てきて俺は戸惑う。
さらにその上の順位が発表されていくが、一向にイングリッドの名前は出てこなかった。
「……なぜイングリッドが出てこない? ……もしかしてメイが何かやらかして失格処分になったとか?」
「……おい。うちのイングリッドを馬鹿にすると、いくらショウでもただではおかないぞ」
俺は冗談のつもりで言ったが、メイの言葉には静かな怒気が孕んでいるかのようだった。
どうやら、みんな、自分がプロデュースしている女の子にだいぶ感情移入しているようだ。俺自身もそうだから、冗談を言うにも気をつける必要がありそうだ。
……しかし、それにしてもイングリッドの名前が出てこない。
10位まで発表されたが、そこにはまだイングリッドの名前はなかった。
そして、さらに順位発表は進み――
『6位 イングリッド』
「――――!?」
いきなりの上位獲得に、俺は声も出せずにただメイへと視線を向ける。
「よし。まずまずと言ったところだな」
言葉以上にメイは勝ち誇ったような顔をしていた。
計算通りだとでも言うのだろうか……。
順位発表はさらに進み、現時点での1位は――これは予想通りの結果だが――キャサリンだった。
「みんな、どうやら苦戦しているようだな。だが、安心してくれ。キャサリンは私のイングリッドが倒す。みんなは下位の方で、パートナーと楽しく音楽ごっこでもしててくれ」
カチーン
余裕ぶったメイの言動に、闘志が湧いてくる。
さすがのミコトさんとクマサンも、メイの今の言葉には思うところがあったのか、燃えるような瞳をメイへと向けていた。
とはいえ、吟遊詩人は芸能の世界、実力よりもとにかく名が知られていることの方が重要なのだろうか?
自分の育成方針に疑問を抱いてしまう。
だけど、今一度俺は冷静になる。
イングリッドのこの人気は、序盤から金を使ったメイのPR活動によるもの。つまり、メイは資金というリソースを序盤につぎ込むことにより、今のこの順位を得ただけだ。俺の計算では、すでにメイの資金は底をつきかけているはず。ここからアルバイト漬けになれば、イングリッドの人気は急降下するだろう。それに比べて、資金を温存している俺は、メイのようなPRをまだこれから仕掛けられる。競馬で言えば、メイは序盤からぶっ飛ばす大逃げの策をとったに過ぎない。俺の方は、仕掛けを遅らせた差し馬。俺の番はこれからだ。
「メイ、大口を叩いているが、俺は知っているぞ。今のイングリッドの人気が、資金を大量投入したPR活動によるものだということを。そして、初期の資金50万、その大半を今のメイはすでに使い果たしているはず。そんな状態で今の順位を維持できると思っているのか? むしろ、状況的に厳しいのはメイの方なんじゃないのか?」
椅子に座り直し、俺は情報収集から得た分析をメイにぶつけてやった。
もしかしたら、メイは序盤から自分がリードすることで、俺達に勝利を諦めさせ、キャサリンに勝つという共通目的を果たすため、俺達の資金をイングリッドのために利用するつもりなのかもしれない。それだったら、最序盤から後先考えない資金の使い方をしてきたことにも納得がいく。
だけど、残念だったなメイ。お前の懐事情はすでに見抜いている。
俺の鋭い指摘に、きっとメイは焦りの表情を浮かべるはずだ――そう思ってメイを見たが、彼女は余裕の態度を崩していなかった。
「私の状況が厳しいだって? ふふふ、ショウはまだまだ甘いな」
メイはにやりと笑ってみせていた。内心の焦りを隠しているのなら、たいした役者だ。それに、俺が想定した、キャサリンに勝つためにイングリッドへの支援を求める話なんて出してくる気配もない。
……何だ、このメイの余裕は?
誤魔化しているだけか? それとも、何か秘策を持っているとでもいうのか?
疑問を残したまま、俺達の戦いは序盤戦から中盤戦へと向かって進んでいく。
メイは相変わらず、序盤から金を惜しみなく投入してイングリッドのPR活動に力を入れているようだ。いくら実力があっても知られていなかったら意味がないという考えなのだろうか? それは理解できるが、どうにも金を使いすぎな気がする。これでは早々に息切れするだろう。
一方で、ミコトさんは、カレンに音楽学校で練習させつつ、アルバイトもさせていた。食堂で元気よく働くカレンの姿を何度か見かけている。働きながら学校へ通うその様は、苦学生のようでちょっと応援したくなるが、カレンもまたエルシーのライバルだということを忘れてはいけない。
クマサンとウェンディの姿は、初日以降も幾度となく公園で見かけた。物語の朗読だけでなく、歌や楽器の演奏を披露していることもあった。だが、人は集まっているものの、大半が子供達であり、資金を使わないですむが、儲けにもならないだろう。クマサン達の善意や心優しさは尊敬するが、悲しいかなこの総選挙で有利に働くとは思えない。
そして、時は過ぎ、5日目の行動を終えた俺達は、六姉妹の屋敷の応接室へ集まり、吟遊詩人総選挙の予想順位が発表される瞬間を待っていた。このクエストでは、5日ごとに、吟遊詩人総選挙へ出場登録している女の子達の、現時点での人気順位が発表される。
「みんなに会うの、なんだか久しぶりに感じるな。実際にはそんなに経っていないはずなのに」
メイがソファに座りながら、どこか懐かしそうにほかの顔ぶれを見回していた。
「そうですね。でも、ショウさんとは街で何回も顔を合わせてますけどね」
「俺も、ショウが覗きに来てるのを何度も見た」
ミコトさんとクマサンが俺へと視線を向けてくる。どうやら、パートナーのもとを離れて情報収集に回っているのは俺だけのようだ。
「ほほう。ショウは私達の動きを探って回っているというわけか」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。ギルドマスターとして、みんなのことが心配になっただけだ」
メイの言葉に俺は肩をすくめてみせた。
事実はメイの言う通りなのだが、正直に答える必要もない。このやりとりも駆け引きの一つだ。堂々と認めては、今後警戒される恐れがある。
「そんなことより二人とも、そろそろ順位が出ますよ」
ミコトさんの言葉に、俺達は自然と姿勢を正した。
クエスト内の設定では、運営が独自調査した人気順位が、文書で渡されることになっているが、俺達にはわかりやすくシステムメッセージとして表示されることになっている。心の奥底に緊張が走り、息を呑む瞬間だ。
しばし緊張してその時を待っていると、メッセージウィンドウが開き、「5日目終了時点の吟遊詩人総選挙予想順位」という文字が表示された。
俺は生唾を飲んで、その続きを見守る。
総選挙への出場者は全部で20人。トップから発表されるのか、最下位から発表されるのか、初めてなのでそれすらわからず、なおさら緊張感が増す。
俺はこの5日間をほぼ練習にあててきた。評価基準がどうなっているのかわからないが、能力値を重視した順位付けなら、そこそこの順位に入っていてもいいはずだ。
『20位 エルシー』
その表示を見た瞬間、俺は頭が真っ白になり、思わずソファからずり落ちる。
はあぁぁぁぁ!?
最下位だって!?
まじかよ!?
序盤はプレイヤーがプロデュースする女の子達の順位が高くはならないだろうとは思っていたが、ここまでシビアなのか!?
俺の動揺をよそに、順位発表は続いていく。
『19位 カレン』
ずり落ちた姿勢のまま、俺はミコトさんを見上げた。彼女の表情は固く、驚愕と失望が入り混じったような険しい顔つきだ。
自室か学校か、方法は違えど、ミコトさんの方針は俺と似ていて、まずはとにかく能力を上げようというものだ。俺が20位なら彼女も似たところにいて不思議ではない。
だが、この結果は、自分達の行動が間違っていたと言われるようで、心に重くのしかかる。
『18位 ウェンディ』
続いては、クマサンの担当するウェンディの名前が挙がっていた。
これで、ワースト3をプレイヤーが担当する女の子達で占めることになってしまった。
しかし、こうなると、序盤はプレイヤーにとって厳しいところからスタートする仕様だと考えることもできる。それならそれで、そう悲観することもない。次の17位にメイの担当するイングリッドの名前が出てくれば、俺の推測通りということになるが――
『17位 オーロラ』
『16位 アリサ』
発表される名前は、同じ六姉妹だったが、イングリッドではなかった。
それでも、15位がイングリッドなら六姉妹でワースト6を占め、順位の違いは誤差と言えなくもない。
『15位 クローディア』
……あれ?
知らない名前が出てきて俺は戸惑う。
さらにその上の順位が発表されていくが、一向にイングリッドの名前は出てこなかった。
「……なぜイングリッドが出てこない? ……もしかしてメイが何かやらかして失格処分になったとか?」
「……おい。うちのイングリッドを馬鹿にすると、いくらショウでもただではおかないぞ」
俺は冗談のつもりで言ったが、メイの言葉には静かな怒気が孕んでいるかのようだった。
どうやら、みんな、自分がプロデュースしている女の子にだいぶ感情移入しているようだ。俺自身もそうだから、冗談を言うにも気をつける必要がありそうだ。
……しかし、それにしてもイングリッドの名前が出てこない。
10位まで発表されたが、そこにはまだイングリッドの名前はなかった。
そして、さらに順位発表は進み――
『6位 イングリッド』
「――――!?」
いきなりの上位獲得に、俺は声も出せずにただメイへと視線を向ける。
「よし。まずまずと言ったところだな」
言葉以上にメイは勝ち誇ったような顔をしていた。
計算通りだとでも言うのだろうか……。
順位発表はさらに進み、現時点での1位は――これは予想通りの結果だが――キャサリンだった。
「みんな、どうやら苦戦しているようだな。だが、安心してくれ。キャサリンは私のイングリッドが倒す。みんなは下位の方で、パートナーと楽しく音楽ごっこでもしててくれ」
カチーン
余裕ぶったメイの言動に、闘志が湧いてくる。
さすがのミコトさんとクマサンも、メイの今の言葉には思うところがあったのか、燃えるような瞳をメイへと向けていた。
とはいえ、吟遊詩人は芸能の世界、実力よりもとにかく名が知られていることの方が重要なのだろうか?
自分の育成方針に疑問を抱いてしまう。
だけど、今一度俺は冷静になる。
イングリッドのこの人気は、序盤から金を使ったメイのPR活動によるもの。つまり、メイは資金というリソースを序盤につぎ込むことにより、今のこの順位を得ただけだ。俺の計算では、すでにメイの資金は底をつきかけているはず。ここからアルバイト漬けになれば、イングリッドの人気は急降下するだろう。それに比べて、資金を温存している俺は、メイのようなPRをまだこれから仕掛けられる。競馬で言えば、メイは序盤からぶっ飛ばす大逃げの策をとったに過ぎない。俺の方は、仕掛けを遅らせた差し馬。俺の番はこれからだ。
「メイ、大口を叩いているが、俺は知っているぞ。今のイングリッドの人気が、資金を大量投入したPR活動によるものだということを。そして、初期の資金50万、その大半を今のメイはすでに使い果たしているはず。そんな状態で今の順位を維持できると思っているのか? むしろ、状況的に厳しいのはメイの方なんじゃないのか?」
椅子に座り直し、俺は情報収集から得た分析をメイにぶつけてやった。
もしかしたら、メイは序盤から自分がリードすることで、俺達に勝利を諦めさせ、キャサリンに勝つという共通目的を果たすため、俺達の資金をイングリッドのために利用するつもりなのかもしれない。それだったら、最序盤から後先考えない資金の使い方をしてきたことにも納得がいく。
だけど、残念だったなメイ。お前の懐事情はすでに見抜いている。
俺の鋭い指摘に、きっとメイは焦りの表情を浮かべるはずだ――そう思ってメイを見たが、彼女は余裕の態度を崩していなかった。
「私の状況が厳しいだって? ふふふ、ショウはまだまだ甘いな」
メイはにやりと笑ってみせていた。内心の焦りを隠しているのなら、たいした役者だ。それに、俺が想定した、キャサリンに勝つためにイングリッドへの支援を求める話なんて出してくる気配もない。
……何だ、このメイの余裕は?
誤魔化しているだけか? それとも、何か秘策を持っているとでもいうのか?
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