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第57話 メロディアの六姉妹
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三人のご機嫌を取りながら、俺達はクエスト開始地点の家へ向かった。
本来のゲームの楽しみ方としては、新しい街の中を巡り、色々なNPCと話をする中で、偶発的にイベントに遭遇するのが正しい在り方なんだろうが、今回はメイがすでにクエスト発生場所を知ってしまっているので、寄り道せずにその家へと向かった。
俺達がたどり着いたのは、海沿いの一軒家だった。窓を開ければ、きっと紺碧の海が一望でき、潮風が心地よく吹き込んでくることだろう。
「メイ、この家か?」
「ああ、ここのはずだ。ネットの情報では、ソロで来ると家の人が『3人以上で組んだ冒険者が来てくれればなぁ』みたいなことを言うらしいが、その条件を満たした状態で入ると、すぐにクエストが始まるらしい」
「なるほど。じゃあ、俺達はすでにパーティを組んでるし、準備は整っているというわけだ。行こうか、みんな」
三人が頷くのを確認し、俺は意を決して扉を開けた。
扉の音が響き、家の中へと足を踏み入れると、目の前にシステムメッセージが現れる。
【このクエストを受けるには、3~6人のパーティを組む必要があります】
【クエスト中、パーティメンバーが一人でもログアウトすると、全員のクエストが中断されます】
【クエスト開始後、パーティメンバーが一人でもクエストをキャンセルすると、全員のクエストがキャンセルされます】
【クエストを開始してもよろしいですか? はい/いいえ】
見たことのないタイプのメッセージだった。
だが、その意味はすぐにわかった。
パーティ内で競い合う形式だからこそ、全員が同じ条件でプレイする必要があるのだ。もし誰かがログアウトしたら、その間に進めてしまう者が有利になる。だからこそ、一人がログアウトすれば、全員の進行が強制的にストップする仕組みなのだ。
また、クエストキャンセルに関しては、誰かを勝たせるために他のメンバーが途中離脱することを防ぐためだろう。
だが、これは自分に勝ち目がないと、そこで諦めてクエスト自体をキャンセルすると、ほかのプレイヤーまで強制的にクエストをキャンセルさせることになってしまう。当たり前だが、そんなことをするプレイヤーは嫌われ、二度とパーティなど組んでもらえないだろう。つまり、このクエストは、そういうことをせず最後までクエストをやり抜く仲間とプレイすることが求められているというわけだ。
俺は仲間達へと視線を向ける。
どうやらみんなにも同じシステムメッセージが表示されているようだ。
三人ともメッセージの意図を理解し、不敵に笑ってやがる。
いいねぇ。この三人なら、途中で負けそうだからといってクエストキャンセルして逃げ出すようなことは万が一もないと確信できる。
もちろん、俺もそんなことはしない。
もっとも、勝つのは俺なんだけどな!
俺は、迷わず「はい」の選択肢を選んだ。
メッセージが消え、世界が再び動き出す。
家の中には6人の女の子がいた。そのうちの一人、一番背が高く、おっとりした顔立ちの青みがかった長い髪の女性が俺達に気づき、優雅な足取りで近づいてきた。
「旅の冒険者のかたがたですか? どうですか、この街は?」
彼女の声は、まるで囁きのように柔らかく響いた。
「『吟遊詩人総選挙』が間近に迫っていることもあり、街中が賑やかでしょう? 実は、私達は六姉妹も、その総選挙に出ようと思っているんです」
普通なら、いきなり他人の家に押し入るなんて、怪しまれるどころか通報されてもおかしくない。しかし、彼女はまるで何事もないかのように、穏やかな笑みを浮かべて、歓迎するかのように話しかけてくれた。
ゲームの世界特有の寛容さなのだろうが、このオープンな感じは好きだ。
俺は何か言葉を返そうと口を開きかけるたが、その前に、閉じたはずの扉が激しく開く音がした。
驚いて振り返ると、金髪縦ロールを揺らし、やや釣り目の女の子が立っていた。
「あなた達、まだ『吟遊詩人総選挙』に出ようだなんて考えているの?」
その女の子の声には、挑発的な色が含まれていた。一瞬、その言葉は俺に向けられたものかと思ったが、彼女の目は俺を見てはいなかった。その視線の先にいるのは、この家にいる6人の女の子達だ。
「確かに、あなた達の母親はかつて街でも有名な吟遊詩人だったかもしれない。でも、今のあなた達にはその才能は受け継がれていない。街で誰もあなた達の歌にも演奏にも耳を傾けないのが、その証拠よ! 総選挙の優勝者は、名門ブリジット家のキャサリン様、つまり私に決まっているのよ! あなた達は恥をかくだけなんだから、さっさと辞退しない!」
自らキャサリンと名乗ったその女の子は、言いたいことだけ言い放つと、嵐のように去っていってしまった。
「なんなんだ、今のは……」
俺は呆然と呟き、仲間達と顔を見合わせる。
ここまで露骨な高慢ちきなお嬢様キャラは、最近では珍しい。思わず呆気に取られてしまった。
「……彼女はキャサリン。若き天才吟遊詩人と呼ばれています。昔は、私達姉妹とも一緒に演奏するような仲だったのですが、いつの頃からかあんなふうになってしまって……」
青みがかった長い髪の女の子が、伏し目がちに説明してくれた。
うん、わかりやすくいていいね。要は彼女達に立ち塞がるライバル的なキャラということなんだろう。
とりあえず俺は、彼女に励ましの言葉をかけることにする。
「そうなんですか。でも、何もあんな言い方をしなくてもいいでしょうに……。負けないで、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。でも、彼女はただでさえ才能があるのに、名だたる先生がたに教わっていて、『吟遊詩人総選挙』の大本命と言われています。それに比べて、私達は早くに両親を亡くしており、ちゃんとした先生のもとで音楽を学ぶこともできません。せめて、経験豊富な冒険者のかたが協力してくだされば、可能性も出てくるのでしょうが……」
そう言いながら、彼女は上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
なんというわかりやすい展開だろうか。
音楽のことなんて全然わからないと言いたいところだが、彼女の方から、「音楽経験豊富な人」ではなく、「経験豊富な冒険者」を求められれば、音楽に無知であることは言い訳にできない。
俺は彼女に答える前に、一応仲間の顔を見て、確認を取る。三人とも力強く頷いてくれた。
「どこまで役に立てるかわかりませんが、俺達でよければ協力させてもらいますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
彼女は、目を潤ませ、胸の前で両手を合わせ感激してくれた。
ここで拒否すれば、恐らくクエストキャンセルになるだけだろう。このクエストに挑戦しにきた俺達に、拒否の選択肢はありえない。
「それでは、まずは私達の自己紹介をさせてもらいますね。私は長女のアリサです」
アリサが名前を名乗ると、後ろに控えていた5人の女の子達も俺達を見つめ、順に口を開いていく。
「次女のイングリッドです」
「三女のウェンディです」
「四女のエルシーです」
「五女のオーロラです」
「六女のカレンです」
6人の女性は、姉妹というわりに髪の色や個性などがバラバラに見えた
もしかして、それぞれ母親や父親が違うという複雑な事情があるのかもしれないと深読みしたが、恐らくそうではなく、ゲーム的なキャラ付けゆえのことだろう。
「冒険者のみなさん、お願いします。どうか、それぞれ、私も含めてこの6人の中から、最高の吟遊詩人――ディーヴァに選ばれるに相応しいと思える者を選んで、導いてください」
6人の女の子が俺達に真摯な瞳を向けてくる。
いよいよきたわけだ。自分が担当をする女の子を選ぶ、その時が。
本来のゲームの楽しみ方としては、新しい街の中を巡り、色々なNPCと話をする中で、偶発的にイベントに遭遇するのが正しい在り方なんだろうが、今回はメイがすでにクエスト発生場所を知ってしまっているので、寄り道せずにその家へと向かった。
俺達がたどり着いたのは、海沿いの一軒家だった。窓を開ければ、きっと紺碧の海が一望でき、潮風が心地よく吹き込んでくることだろう。
「メイ、この家か?」
「ああ、ここのはずだ。ネットの情報では、ソロで来ると家の人が『3人以上で組んだ冒険者が来てくれればなぁ』みたいなことを言うらしいが、その条件を満たした状態で入ると、すぐにクエストが始まるらしい」
「なるほど。じゃあ、俺達はすでにパーティを組んでるし、準備は整っているというわけだ。行こうか、みんな」
三人が頷くのを確認し、俺は意を決して扉を開けた。
扉の音が響き、家の中へと足を踏み入れると、目の前にシステムメッセージが現れる。
【このクエストを受けるには、3~6人のパーティを組む必要があります】
【クエスト中、パーティメンバーが一人でもログアウトすると、全員のクエストが中断されます】
【クエスト開始後、パーティメンバーが一人でもクエストをキャンセルすると、全員のクエストがキャンセルされます】
【クエストを開始してもよろしいですか? はい/いいえ】
見たことのないタイプのメッセージだった。
だが、その意味はすぐにわかった。
パーティ内で競い合う形式だからこそ、全員が同じ条件でプレイする必要があるのだ。もし誰かがログアウトしたら、その間に進めてしまう者が有利になる。だからこそ、一人がログアウトすれば、全員の進行が強制的にストップする仕組みなのだ。
また、クエストキャンセルに関しては、誰かを勝たせるために他のメンバーが途中離脱することを防ぐためだろう。
だが、これは自分に勝ち目がないと、そこで諦めてクエスト自体をキャンセルすると、ほかのプレイヤーまで強制的にクエストをキャンセルさせることになってしまう。当たり前だが、そんなことをするプレイヤーは嫌われ、二度とパーティなど組んでもらえないだろう。つまり、このクエストは、そういうことをせず最後までクエストをやり抜く仲間とプレイすることが求められているというわけだ。
俺は仲間達へと視線を向ける。
どうやらみんなにも同じシステムメッセージが表示されているようだ。
三人ともメッセージの意図を理解し、不敵に笑ってやがる。
いいねぇ。この三人なら、途中で負けそうだからといってクエストキャンセルして逃げ出すようなことは万が一もないと確信できる。
もちろん、俺もそんなことはしない。
もっとも、勝つのは俺なんだけどな!
俺は、迷わず「はい」の選択肢を選んだ。
メッセージが消え、世界が再び動き出す。
家の中には6人の女の子がいた。そのうちの一人、一番背が高く、おっとりした顔立ちの青みがかった長い髪の女性が俺達に気づき、優雅な足取りで近づいてきた。
「旅の冒険者のかたがたですか? どうですか、この街は?」
彼女の声は、まるで囁きのように柔らかく響いた。
「『吟遊詩人総選挙』が間近に迫っていることもあり、街中が賑やかでしょう? 実は、私達は六姉妹も、その総選挙に出ようと思っているんです」
普通なら、いきなり他人の家に押し入るなんて、怪しまれるどころか通報されてもおかしくない。しかし、彼女はまるで何事もないかのように、穏やかな笑みを浮かべて、歓迎するかのように話しかけてくれた。
ゲームの世界特有の寛容さなのだろうが、このオープンな感じは好きだ。
俺は何か言葉を返そうと口を開きかけるたが、その前に、閉じたはずの扉が激しく開く音がした。
驚いて振り返ると、金髪縦ロールを揺らし、やや釣り目の女の子が立っていた。
「あなた達、まだ『吟遊詩人総選挙』に出ようだなんて考えているの?」
その女の子の声には、挑発的な色が含まれていた。一瞬、その言葉は俺に向けられたものかと思ったが、彼女の目は俺を見てはいなかった。その視線の先にいるのは、この家にいる6人の女の子達だ。
「確かに、あなた達の母親はかつて街でも有名な吟遊詩人だったかもしれない。でも、今のあなた達にはその才能は受け継がれていない。街で誰もあなた達の歌にも演奏にも耳を傾けないのが、その証拠よ! 総選挙の優勝者は、名門ブリジット家のキャサリン様、つまり私に決まっているのよ! あなた達は恥をかくだけなんだから、さっさと辞退しない!」
自らキャサリンと名乗ったその女の子は、言いたいことだけ言い放つと、嵐のように去っていってしまった。
「なんなんだ、今のは……」
俺は呆然と呟き、仲間達と顔を見合わせる。
ここまで露骨な高慢ちきなお嬢様キャラは、最近では珍しい。思わず呆気に取られてしまった。
「……彼女はキャサリン。若き天才吟遊詩人と呼ばれています。昔は、私達姉妹とも一緒に演奏するような仲だったのですが、いつの頃からかあんなふうになってしまって……」
青みがかった長い髪の女の子が、伏し目がちに説明してくれた。
うん、わかりやすくいていいね。要は彼女達に立ち塞がるライバル的なキャラということなんだろう。
とりあえず俺は、彼女に励ましの言葉をかけることにする。
「そうなんですか。でも、何もあんな言い方をしなくてもいいでしょうに……。負けないで、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。でも、彼女はただでさえ才能があるのに、名だたる先生がたに教わっていて、『吟遊詩人総選挙』の大本命と言われています。それに比べて、私達は早くに両親を亡くしており、ちゃんとした先生のもとで音楽を学ぶこともできません。せめて、経験豊富な冒険者のかたが協力してくだされば、可能性も出てくるのでしょうが……」
そう言いながら、彼女は上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。
なんというわかりやすい展開だろうか。
音楽のことなんて全然わからないと言いたいところだが、彼女の方から、「音楽経験豊富な人」ではなく、「経験豊富な冒険者」を求められれば、音楽に無知であることは言い訳にできない。
俺は彼女に答える前に、一応仲間の顔を見て、確認を取る。三人とも力強く頷いてくれた。
「どこまで役に立てるかわかりませんが、俺達でよければ協力させてもらいますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
彼女は、目を潤ませ、胸の前で両手を合わせ感激してくれた。
ここで拒否すれば、恐らくクエストキャンセルになるだけだろう。このクエストに挑戦しにきた俺達に、拒否の選択肢はありえない。
「それでは、まずは私達の自己紹介をさせてもらいますね。私は長女のアリサです」
アリサが名前を名乗ると、後ろに控えていた5人の女の子達も俺達を見つめ、順に口を開いていく。
「次女のイングリッドです」
「三女のウェンディです」
「四女のエルシーです」
「五女のオーロラです」
「六女のカレンです」
6人の女性は、姉妹というわりに髪の色や個性などがバラバラに見えた
もしかして、それぞれ母親や父親が違うという複雑な事情があるのかもしれないと深読みしたが、恐らくそうではなく、ゲーム的なキャラ付けゆえのことだろう。
「冒険者のみなさん、お願いします。どうか、それぞれ、私も含めてこの6人の中から、最高の吟遊詩人――ディーヴァに選ばれるに相応しいと思える者を選んで、導いてください」
6人の女の子が俺達に真摯な瞳を向けてくる。
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