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第56話 音楽の街メロディア
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俺達はクエストが発生する街へと向かう道中、メイからクエストの概要を聞いていた。
クエストが発生するのは、南方に位置するメロディアの街。そこは、アップデートによって追加されたばかりの新エリアにある街だ。本当なら、ドラゴン討伐の後にこの新エリアに行くつもりだったが、バグ騒動で身を隠していたため、この地に足を踏み入れるのは今回が初めてのことだった。
そして、メイの話によると、今回挑むクエストは少し変わった内容だという。
まず、ソロプレイではクエストを受けることができず、3~6人構成のパーティ限定のクエストになっている。
内容の方もまた独特で、メロディアの街で開催される「吟遊詩人総選挙」に出場する女の子を、プレイヤーがプロデュースするというものだ。もっとも、これだけなら、そこまで変わったクエストというわけではない。パーティ全員で依頼者の女の子が勝てるように支援する――それなら普通にあり得るクエストだ。だが、今回のクエストは、パーティメンバーがそれぞれ別々の女の子を選び、自分が選んだ女の子を勝たせるために競い合う形式だという。つまり、パーティメンバーがそのままライバルになってしまうのだ。
こういう形のクエストは俺達も初めてなので、メイから話を聞き、少々の不安と、大きな期待とを感じていた。
ちなみに、総選挙といっても、政治的な意味ではなく、単なる人気投票だ。しかし、選ばれた吟遊詩人は「ディーヴァ」としてメロディアの顔となり、街を象徴的する存在になるというのだ。ただのゲームイベントだとは割り切れない責任を感じてしまうクエストでもある。
なお、メイは「詳しい情報を得てしまうと自分だけが有利になってしまう」と、敢えてそれ以上のことは調べなかったらしい。
そういう律儀な性格はメイの良いところだ。
メイから概要を聞き終えた頃、俺達はメロディアへと到着した。
そこは、吟遊詩人総選挙を行うだけあり、まさに音楽の街だった。
広場に一歩足を踏み入れただけで、まるで空気がメロディーで彩られているかのように感じる。あちこちで吟遊詩人が楽器を奏で、歌声が響き、通りすがる住人達もそれに合わせて鼻歌を口ずさんでいる。まさに音楽が人々の生活に溶け込んでいる街だと言えた。
「話には聞いていたけど、まさに音楽の街だな! 街全体が音楽を奏でているみたいだ」
メイは耳を澄ませ、感嘆の声を漏らしている。
「そうですね。噂を聞きつけてか、プレイヤーの数も多いですし、楽しそうな街ですね」
周りを見回しているミコトさんに俺は頷いた。
新しい街ということでただでさえ注目度は高い。その上、街を歩いているだけで、色々な音楽が聞ける楽しい街だ。プレイヤー達が集まってこないはずがない。
そうやって、街にいるプレイヤーキャラクター達を見回していると――
「あのぅ、すみません」
見覚えのない二人組の女性に声をかけられた。
思わず、何かイベントが始まったのかと身構えたが、よく見ると二人ともNPCではなく、プレイヤーキャラクターだった。
「どうかしましたか?」
俺が応じると、茶髪ポニーテールの女の子が、恥ずかしそうに口を開く。
「もしかして、あのインフェルノ討伐動画のショウさんですか? 1stドラゴンスレイヤーで、料理人アタッカーの?」
「――――!」
その一言で、まるで時間が止まったかのように息を呑む。
自分の名前が、こんな形で呼ばれるとは思ってもいなかった。
あの討伐動画とバグ疑惑で名前が広まってしまったのは知っていたが、これまで身を隠していたこともあり、こんなふうに面と向かって話しかけられるのは、これが初めてだった。いきなりのことに加え、慣れないシチュエーションにどう対応していいのかわからず、ただドギマギしてしまう。
「……ええ、多分、そのショウです」
どうにか絞り出したその一言。
後になって思えば、もっとまともな返しができはずなのに、この時の俺にはその余裕がなかった。
しかし、目の前の女の子達にとっては、それで十分だったらしい。
「わぁ! やっぱり!」
「動画よりも格好いいですね!」
目の前の二人の女の子は、まるで街で芸能人にでも会ったかのような反応を見せた。
ゲームでのキャラクターなんだから動画と同じに決まってるじゃないか、とは思いつつも、正直可愛い女の子に格好いいと言われて悪い気はしない。
「いや、そんなことはないと思うけど……。えっと、二人とも動画を見てくれたんだ、ありがとう」
「私達、あの動画を見て、ショウさんのファンになったんです!」
茶髪ポニテの横の、赤髪ロングの女の子が、両手を合わせて、そんな嬉しいことを言ってくれた。
「え、そうなの? いやぁ、嬉しいなぁ」
この時の俺はきっとかなりにやけた顔をしていたのだろう。あとで、記録動画でこの時のことを見返すと、ミコトさん、メイ、クマサンが見たことのないような顔で、睨むように俺を見つめていた。その顔を見た瞬間、俺はたまらず記録動画の再生をやめたほどだ。
「ここで会ったのも、何かの御縁だと思うんですよ~」
「そうそう! なので、よかったら私達とフレンド登録してもらえませんか?」
「――――!」
こんな可愛い女の子達の方からフレンド登録をお願いされるなんて、俺にはほとんど経験のないことだった。もともとフレンド自体あまりいないけど、今までで女の子の方からフレンド登録を求めてきたのって、ミコトさんくらいじゃなかっただろうか?
こんなレアな機会、拒否する理由が俺にあろうはずがない。
「俺でいいの? 俺は全然構わないけど……」
「わぁ、やったぁ!」
「ありがとうございます!」
そうして、俺は新たにリン(茶髪ポニテ)とカエデ(赤髪ロング)という二人の女の子プレイヤー(リアルの性別は不明)をフレンドリストに加えることになった。もちろん、リアルの性別はわからないけど、そんなことは重要ではない。
「それじゃあ、ゲームを楽しんでね~」
去っていく二人を、俺は手を振って見送った。
そして、彼女達の姿が見えなくなった頃、俺はようやく、背後からの刺すような視線に気づく。
「あ……ごめん、みんな。余計な時間を取らせちゃったかな」
振り返って、みんなを足止めさせてしまったことを詫びた。だが、俺に向けられる三人の視線は冷ややかなままだった。
「いえ、別に時間はいいんです。時間は」
「そうだな。時間よりもショウの浮かれた態度の方が問題だな」
「ショウ、ああいうのはたいてい、ドラゴン戦とかで使えるアタッカーが欲しいだけなんだぞ。決して、ショウ自身の人柄に惚れてのことじゃないって理解しておけよ」
なぜだろう? 街に入ってきた時は、三人ともあんなにもにこやかだったのに……。
もしかして、俺がほかの女の子と仲良くしてたから、焼きもちとか?
…………。
頭の中で考えて、すくに否定する。
三人に世話になりっぱなしのこれまでの俺を振り返れば、万が一にもそんなことはありえない。
きっと、動画には4人とも登場していたのに、声をかけられたのが俺だけだったことが不満なのだろう。確かに、その気持ちは理解できる。
俺だって、動画公開当初、3人はそのプレイをコメントで絶賛されていたのに、俺だけ「バグ技野郎」などとバッシングされ、少なからず三人に嫉妬を感じていた。あの時の気持ちを思い出し、俺は再び三人に頭を下げる。
「すまない。みんなの気持ちを考えてなかった」
「……これは多分、まだわかってないですね」
「何しろショウだからな」
「ゲームでは勘が鋭いのに、こういう時は鈍いんだよな」
心を込めて謝罪したつもりなのに、三人の言葉は辛辣だった。
……俺ってそんなに悪いことしたっけ?
クエストが発生するのは、南方に位置するメロディアの街。そこは、アップデートによって追加されたばかりの新エリアにある街だ。本当なら、ドラゴン討伐の後にこの新エリアに行くつもりだったが、バグ騒動で身を隠していたため、この地に足を踏み入れるのは今回が初めてのことだった。
そして、メイの話によると、今回挑むクエストは少し変わった内容だという。
まず、ソロプレイではクエストを受けることができず、3~6人構成のパーティ限定のクエストになっている。
内容の方もまた独特で、メロディアの街で開催される「吟遊詩人総選挙」に出場する女の子を、プレイヤーがプロデュースするというものだ。もっとも、これだけなら、そこまで変わったクエストというわけではない。パーティ全員で依頼者の女の子が勝てるように支援する――それなら普通にあり得るクエストだ。だが、今回のクエストは、パーティメンバーがそれぞれ別々の女の子を選び、自分が選んだ女の子を勝たせるために競い合う形式だという。つまり、パーティメンバーがそのままライバルになってしまうのだ。
こういう形のクエストは俺達も初めてなので、メイから話を聞き、少々の不安と、大きな期待とを感じていた。
ちなみに、総選挙といっても、政治的な意味ではなく、単なる人気投票だ。しかし、選ばれた吟遊詩人は「ディーヴァ」としてメロディアの顔となり、街を象徴的する存在になるというのだ。ただのゲームイベントだとは割り切れない責任を感じてしまうクエストでもある。
なお、メイは「詳しい情報を得てしまうと自分だけが有利になってしまう」と、敢えてそれ以上のことは調べなかったらしい。
そういう律儀な性格はメイの良いところだ。
メイから概要を聞き終えた頃、俺達はメロディアへと到着した。
そこは、吟遊詩人総選挙を行うだけあり、まさに音楽の街だった。
広場に一歩足を踏み入れただけで、まるで空気がメロディーで彩られているかのように感じる。あちこちで吟遊詩人が楽器を奏で、歌声が響き、通りすがる住人達もそれに合わせて鼻歌を口ずさんでいる。まさに音楽が人々の生活に溶け込んでいる街だと言えた。
「話には聞いていたけど、まさに音楽の街だな! 街全体が音楽を奏でているみたいだ」
メイは耳を澄ませ、感嘆の声を漏らしている。
「そうですね。噂を聞きつけてか、プレイヤーの数も多いですし、楽しそうな街ですね」
周りを見回しているミコトさんに俺は頷いた。
新しい街ということでただでさえ注目度は高い。その上、街を歩いているだけで、色々な音楽が聞ける楽しい街だ。プレイヤー達が集まってこないはずがない。
そうやって、街にいるプレイヤーキャラクター達を見回していると――
「あのぅ、すみません」
見覚えのない二人組の女性に声をかけられた。
思わず、何かイベントが始まったのかと身構えたが、よく見ると二人ともNPCではなく、プレイヤーキャラクターだった。
「どうかしましたか?」
俺が応じると、茶髪ポニーテールの女の子が、恥ずかしそうに口を開く。
「もしかして、あのインフェルノ討伐動画のショウさんですか? 1stドラゴンスレイヤーで、料理人アタッカーの?」
「――――!」
その一言で、まるで時間が止まったかのように息を呑む。
自分の名前が、こんな形で呼ばれるとは思ってもいなかった。
あの討伐動画とバグ疑惑で名前が広まってしまったのは知っていたが、これまで身を隠していたこともあり、こんなふうに面と向かって話しかけられるのは、これが初めてだった。いきなりのことに加え、慣れないシチュエーションにどう対応していいのかわからず、ただドギマギしてしまう。
「……ええ、多分、そのショウです」
どうにか絞り出したその一言。
後になって思えば、もっとまともな返しができはずなのに、この時の俺にはその余裕がなかった。
しかし、目の前の女の子達にとっては、それで十分だったらしい。
「わぁ! やっぱり!」
「動画よりも格好いいですね!」
目の前の二人の女の子は、まるで街で芸能人にでも会ったかのような反応を見せた。
ゲームでのキャラクターなんだから動画と同じに決まってるじゃないか、とは思いつつも、正直可愛い女の子に格好いいと言われて悪い気はしない。
「いや、そんなことはないと思うけど……。えっと、二人とも動画を見てくれたんだ、ありがとう」
「私達、あの動画を見て、ショウさんのファンになったんです!」
茶髪ポニテの横の、赤髪ロングの女の子が、両手を合わせて、そんな嬉しいことを言ってくれた。
「え、そうなの? いやぁ、嬉しいなぁ」
この時の俺はきっとかなりにやけた顔をしていたのだろう。あとで、記録動画でこの時のことを見返すと、ミコトさん、メイ、クマサンが見たことのないような顔で、睨むように俺を見つめていた。その顔を見た瞬間、俺はたまらず記録動画の再生をやめたほどだ。
「ここで会ったのも、何かの御縁だと思うんですよ~」
「そうそう! なので、よかったら私達とフレンド登録してもらえませんか?」
「――――!」
こんな可愛い女の子達の方からフレンド登録をお願いされるなんて、俺にはほとんど経験のないことだった。もともとフレンド自体あまりいないけど、今までで女の子の方からフレンド登録を求めてきたのって、ミコトさんくらいじゃなかっただろうか?
こんなレアな機会、拒否する理由が俺にあろうはずがない。
「俺でいいの? 俺は全然構わないけど……」
「わぁ、やったぁ!」
「ありがとうございます!」
そうして、俺は新たにリン(茶髪ポニテ)とカエデ(赤髪ロング)という二人の女の子プレイヤー(リアルの性別は不明)をフレンドリストに加えることになった。もちろん、リアルの性別はわからないけど、そんなことは重要ではない。
「それじゃあ、ゲームを楽しんでね~」
去っていく二人を、俺は手を振って見送った。
そして、彼女達の姿が見えなくなった頃、俺はようやく、背後からの刺すような視線に気づく。
「あ……ごめん、みんな。余計な時間を取らせちゃったかな」
振り返って、みんなを足止めさせてしまったことを詫びた。だが、俺に向けられる三人の視線は冷ややかなままだった。
「いえ、別に時間はいいんです。時間は」
「そうだな。時間よりもショウの浮かれた態度の方が問題だな」
「ショウ、ああいうのはたいてい、ドラゴン戦とかで使えるアタッカーが欲しいだけなんだぞ。決して、ショウ自身の人柄に惚れてのことじゃないって理解しておけよ」
なぜだろう? 街に入ってきた時は、三人ともあんなにもにこやかだったのに……。
もしかして、俺がほかの女の子と仲良くしてたから、焼きもちとか?
…………。
頭の中で考えて、すくに否定する。
三人に世話になりっぱなしのこれまでの俺を振り返れば、万が一にもそんなことはありえない。
きっと、動画には4人とも登場していたのに、声をかけられたのが俺だけだったことが不満なのだろう。確かに、その気持ちは理解できる。
俺だって、動画公開当初、3人はそのプレイをコメントで絶賛されていたのに、俺だけ「バグ技野郎」などとバッシングされ、少なからず三人に嫉妬を感じていた。あの時の気持ちを思い出し、俺は再び三人に頭を下げる。
「すまない。みんなの気持ちを考えてなかった」
「……これは多分、まだわかってないですね」
「何しろショウだからな」
「ゲームでは勘が鋭いのに、こういう時は鈍いんだよな」
心を込めて謝罪したつもりなのに、三人の言葉は辛辣だった。
……俺ってそんなに悪いことしたっけ?
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