ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

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第39話 レッドドラゴン「インフェルノ」

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 食事を終えた俺達は、最後にミコトさんから強化スキルを貰うと、通路の中、クマサンを先頭にドラゴンに向かって並んで立った。
 勇ましい掛け声をかけ先陣を切ってドラゴンのいる広い空間に飛び出していきたいところだが、残念ながらそれは俺の役目ではない。モンスターを相手にしたとき、最初に敵の目に映る者が真っ先に標的となる。真っ先に敵に向かう栄誉はクマサンに譲らなければならなかった。
 リアルとは違ってたくましいクマサンの背中を見つめながら、俺は静かに息を整えた。

「頼むぞ、クマサン」

 俺の言葉に、クマサンは前を見据えたまま頷く。

「行くぞ、みんな!」

 その声とともに、クマサンが走り出した
 クマサンが広い空間に飛び出した瞬間、静かに待ち構えていたインフェルノの瞳がクマサンを捉え、ゆっくりとその巨大な首が動き始める。
 その動きを確認し、俺もそのフィールドへと飛び出した。後ろには、メイとミコトさんも続いている。

「スキル、挑発!」

 インフェルノの燃えるような視線を集めていたクマサンが、スキルの効果範囲内に入るやいなや敵ヘイトを重ねるためのスキルを使用した。
 これで俺達も安心してドラゴンに近づけるというものだ。
 クマサンがインフェルノの正面に立ちながら、更にヘイトを積み上げるためにスキル「陽動」を使うのをシステムメッセージで確認しながら、俺はドラゴンの横を走り抜けていく。
 クマサンと一緒に敵正面に立っていれば、せっかくクマサンがターゲットを取ってくれていても、攻撃に巻き込まれかねない。タンクと同じ位置に立たないのは、戦闘における鉄則だ。

 通常、このゲームでは、敵へ攻撃は、正面、側面、背面の3種類に分類され、与えるダメージはこの順番で大きくなっている。現実なら、目や心臓といった急所を狙えば致命的な一撃となるが、残念ながらゲームの中では細かい部位を狙う意味はない。正面からの攻撃であれば、たとえ頭部に打ち込もうが胴体や腕に当てようが、すべて同じ「正面ダメージ」として処理される。
 しかし、今回のアップデートで戦闘に新たな要素が加わった。それは「部位ダメージ」だ。特定の敵に対してのみだが、攻撃する部位によってダメージ補正が変わるというシステムだ。アップデート情報を読んだ時、俺はどの敵がその対象になるのか疑問に思ったが、この巨大なドラゴンを目にした瞬間に確信した。このドラゴンこそ、新要素の対象であることに間違いない。
 人間サイズの敵相手では、細かい部位を狙うというのは困難だが、このドラゴンほどの巨体なら話は別だ。各部位の違いはわかりやすく、狙うのも容易だ。
 インフェルノに部位ダメージが適用されているとすれば、背後を取って攻撃するという単純な戦術は通用しない。どの部位を狙ってどう立ち回るのか、そういう頭を使った戦術が重要になってくる。

 インフェルノの太い後ろ脚にたどり着いた俺は、素早くスキルウィンドウを確認した。
 この瞬間にすべてかかっている。
 もし料理スキルが使用不可を示す灰色なら、俺達の挑戦はこれで終わりだ。撤退が可能なら撤退、それが無理なら無駄なアイテム消費をせずに全滅するための戦闘を続けるしかない。クマサンやミコトさん、それに資金力のあるメイには、ほかのプレイヤーと共に再戦する機会もあるだろうが、俺にとっては正真正銘の終戦となる。
 仲間達とここまで準備を整えながら、俺は常にその最悪のシナリオを頭に描いてきた。いざその時が来たときに、失望に押し潰されないよう、何度もその光景を想像し、自分を慣れさせてきた。それでも、もし本当に料理スキルが使えないとなれば、その現実は想像を超える衝撃だろう。
 ――だが、心の中で膨らんでいた不安は、一瞬にして霧散した。
 俺のスキルウィンドウには、料理スキルが鮮明な白色で表示されている。その文字が、まるで勝利のための光を放っているかのように見えるほどだ。
 俺の内の闘志がさらに燃え上がり、メイメッサーを握った右手に力がこもる。

「食らえ、インフェルノ! スキル、輪切り!」

【ショウの攻撃 インフェルノにダメージ182】

 俺は高らかに叫び、自慢の包丁をインフェルノの左後ろ脚に鋭く切りつけてやった。

「どうだ、インフェルノ! お前の長い歴史の中でも、包丁で攻撃されたのはこれが初めてだろう! その記憶の中に、俺の攻撃の記憶を刻んでおけよ!」
「ノリノリですね、ショウさん! でも、これで私達も全力で戦えます!」

 冷静に指摘されると恥ずかしいぞ、ミコトさん!
 でも、彼女の声からは気合が感じられた。
 俺の料理スキルが通用するかどうかは、この戦いの要の部分だ。仲間達も不安に思っていたに違いない。でも、俺と同様、みんなももう憂いはなくなった。
 メイも、俺のスキルが発動したのを確認すると、すかさず魔法のスクロール「ブリザード」を使用する。彼女は俺のスキルをまだかまだかと待ちわびていたのだろう。もし料理スキルが使えなければ、この戦いに勝ち目はなく、メイがアイテムを使う必要もなくなっていた。

 それにしても、思ったよりダメージが出たものだ。
 輪切りは料理スキルの中でも、消費SPが少ない上、クールタイムも短く回転効率のいい攻撃だが、その分威力は控えめだ。猛き猪を相手にした時のダメージは120前後だった。あれから少しばかりレベルアップしたとはいえ、これほどのダメージ増加は武器の影響に違いない。

「凄い包丁だよ、こいつは」

 俺は右手に握ったメイメッサーに視線を落とした。
 メイが魂を込めて作り上げてくれたこの包丁は、俺の期待を大きく超えている。これほどの包丁は、少なくともこのサーバーにはこのメイメッサー以外には存在しないだろう。

「頼りにしてるぞ、相棒」

 顔の前に右手を持ち上げ、握ったメイメッサーにそっと囁くと、俺は再び駆け出した。
 俺の本当の狙いは、この後ろ脚ではない。本当の標的は、インフェルノの尻尾だ。
 トカゲなら尻尾は切り離して囮にする程度の部位だが、ゲームの世界ではドラゴンの尻尾は弱点部位に設定されていることが多い。このゲームでもそうだとは限らないが、試してみる価値はある。

「食らえ、インフェルノ! スキル、みじん切り!」

【ショウの攻撃 インフェルノにダメージ550】

 俺の魂の一撃はとんでもないダメージを叩き出した。
 みじん切りは俺の料理スキルの中でも現状最大ダメージの技だが、雑魚モンスターならともかく、最強種ドラゴン相手にここまでのダメージを出せるとは思わなかった。
 さすがに、このダメージは自分でも驚く。

「ショウ、凄いダメージだな! 私も負けていられない」

 俺に負けじとメイが、先ほどとは異なる種類の魔法スクロールを叩き込んでいく。
 俺が叩き出したダメージは、間違いなく仲間達に勇気を与えているはずだ。
 だが、今のダメージは強力なスキルによるもの。後ろ脚に比べて尻尾への攻撃が有効かどうかはまだ確定していない。確認するには、同じ技での比較が必要だった。
 最初から尻尾を狙いに行かず、後ろ脚にスキルを使ったのは、その検証のためだ。
 スキル輪切りのクールタイムが終われば、すぐに使用してダメージを比べる。もし後ろ脚のほうがダメージが通るなら、狙いを後ろ脚に戻さなければならない。
 ほかの料理スキルを使いながら、俺は輪切りの再使用を待つ。

 ――きたっ!

 スキルウィンドウ内で、色を失っていた「輪切り」の文字に、白い輝きが戻った。

「スキル、輪切り!」

【ショウの攻撃 インフェルノにダメージ205】

 後ろ脚へのダメージは182だった。尻尾への攻撃では、誤差を超える明確なダメージ差が出ている。
 尻尾が弱点――その予想は確信に変わった。

「みんな! 後ろ脚よりも尻尾の方が、ダメージが出る! 尻尾はこいつの弱点の一つだ!」

 俺は仲間に向けて、知り得た情報をすぐさま伝えた。
 俺のスキル使用やダメージのメッセージは全員に表示されているはずだが、これほどの敵が相手だと、すべての情報メッセージを把握して覚えておくことは困難だ。近接アタッカーが俺だけだとしても、得た情報はみんなで共有しておくことが肝要だった。

「了解。こっちもだいたいわかってきた。火の魔法はダメージゼロ。雷と土の魔法も効果は薄い。最も有効なのは氷、次いで水だ」

 メイからも有用な情報がもたらされた。彼女が一つの魔法に拘らず、様々な魔法スクロールを使用していたのは、どの属性が有効か探るためだった。無駄と思える行動も、最適解を導き出すためには必要なことであり、結果的に勝利への近道となることを俺達は知っている。

「インフェルノ、これが知恵で戦う人間のやり方だ! お前の能力、丸裸にしてやるぜ!」

 初見の相手とはいえ、戦いの中でウィークポイントを見つけていくことは可能だ。むしろ、それこそ戦いの醍醐味。
 俺達は確実にインフェルノの弱点を暴き、奴を追い詰めていた。
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