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第15話 シーナ対ルフィーニ

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「この力……」

 想定以上だった椎名の戦闘力にルフィーニは言葉を失う。

「ルフィーニさん、ジョーはどこだ!?」

「こんな戦い、ジョー様が出るまでもないということだ!」

「高みの見物か!? あんたはジョーに利用されてるだけだぞ!」

「ジョー様はそんな方ではない! ……もっとも、たとえそうだとしても、ジョー様の駒となれるのならば私はそれで満足だがな」

「なっ……」

 今度は椎名が言葉を失う。
 失恋──と言えなくもない。片思いでしかなかったが。しかも、その原因となったのはまたも丈。この世界に来ても、向こうの世界と同じ悪夢の繰り返しだというのだ。

「何故だ! 何故ジョーなんだ!?」

 叫びと共にルフィーニのラブブレードを振り払う。

「なんのことだ? 何を言っている!?」

「ジョーと俺との間にどれほどの差があるんだ!?」

 ラブブレードとは刀身をピンクのラブ光で輝かせた剣。搭乗者のラブパワーの大きさによってその輝き具合は違うものの、ラブブレードとはそういうものである。
 だが、この時の椎名のラブブレードはそれとは違っていた。黒いのだ。黒光りする輝きをまとっているのだ。

「黒い剣!? 何だそれは? 初めて見るぞ!」

 ルフィーニが疑問を投げかける間もなく、黒い光が閃く。
 黒と光は相反するもの。だが、それはその矛盾をもってしか説明できないような輝きだった。
 ルフィーニにはその一瞬の閃光しか見えなかった。何がどうしたのかは全く視認できなかった。だが、呆然とする中で、目に入ったものもある。
 それは、真ん中で折れた剣を握ったラブリオンの腕と、折れた剣のもう半分の部分とが落下していく様子。

「な、なにっ!?」

 目の前には剣を振り下ろした姿勢でブラオヴィントが滞空している。
 この時になってルフィーニはようやく理解した。ラブブレードごとマシンの右腕をぶった斬られたことを。
 しかも、なんの抵抗感も感じさせずに、まるで豆腐でも切り裂くがごとく。

「違いすぎる……力が違いすぎる。今までの戦いでは、ここまでの力の差はなかったはずなのに……」

 ルフィーニは迷わず逃げを打った。
 臆したわけではない。冷静に戦力分析をして、今の片腕を失った自分では相手にならないことを実感したからだ。

「はあ、はあ、はあ」

 ルフィーニを追おうともせず荒い息をつく椎名。いつの間にか剣は元のピンクに輝く剣に戻っている。

「ルフィーニさん……どこだ?」

 ルフィーニがブラオヴィントのラブショットの有効射程から離れた頃になって、ようやく椎名は我に帰ったかのように顔を上げ、周囲を見回す。
 だが、当然その姿を見つけることなどかなわなかった。しかし、それはさしたる問題ではなかったといえる。ここに至って、椎名はようやく自分の周囲に起こっていることの重大さを理解したのだから。

「こ、これは!?」

 周りを飛び回る青のラブリオン達。青、青、青、青。すべてが同じカラーリングをされた青のラブリオンだった。敵も味方も同色のラブリオン!
 戦いはすでに敵味方入り乱れての乱戦となっていた。つまり、外見からは敵か味方か判別できないような状況になっているのだ。
 丈がルフィーニにこの三日間で外装の修復を中心にさせたのもこのためだった。戦う前から傷ついているマシンでは赤の国のラブリオンだと気づかれてしまう。

「どれが敵なんだ?」

 そんな疑問を抱いているのは椎名だけではなかった。全体を見ても、今戦闘を行っているラブリオンの数はそう多くない。椎名と同じようにどうしていいかわからず、手持ちぶさたで飛び回っていたり滞空しているラブリオンが半分以上を占めている。

「しかし、これでは向こうも敵味方の区別がつかないはず」

 そう思った時、椎名の側《そば》で止まっていたラブリオンが近距離からのラブショットを受けて爆発した。

「やったのか!? それとも、やられたのか!?」

 それは、椎名にはわからないことだった。
 条件は同じ。赤の国にとっても敵味方の区別がつかないのは同じこと。だが、数で劣る赤の国にとってそれは有利に働く。
 赤の国の目的は敵の攻撃をしのぐこと。敵の殲滅が目的ではない。それ故、互いに攻撃できない状況が続けば、軍を退かねばならないのはここまで出兵してきている青の国ということになる。
 また、敵味方構わず攻撃した場合、数の関係から、その相手が青の国である可能性が高くなる。同士討ちの確率も当然青の国の方が高い。味方の方にも無駄な損害が出ることは間違いないが、最終的な被害は数の多い青の国の方が多くなるのは道理である。
 だが、今後の戦い──他国への侵攻──を考えるとこの手段は有効ではない。

 そこで、丈は敵と味方を区別するための一つの手を与えておいた。
 それは「動き回ること」。止まっている敵を見たら敵と思えということだ。
 これもまた、あいまいで確実性に欠ける判断材料であることは確かだ。だが、周りすべてに攻撃をしかけているよりは、よほど同士討ちの確率は低い。

 敵味方の区別をつけるために、敵に気づかれにくいようにそれとなく印をつけておくという手もないわけではなかった。だが、自分達が判別に利用できるということは、敵もそれに気がつく可能性があるということだ。赤の軍と青の軍の戦力差は圧倒的。戦闘開始後まもなくそれに気づかれでもしたら、せっかくの策が意味のないものになってしまう。それ故、丈はカラーリングを青の国のラブリオンのままにさせておいたのだ。

「ジョーのやつ、これが狙いか!」

 丈の敵味方の区別方法までは理解できないが、丈がこちらを混乱させる作戦を用いてきたことくらいは椎名にも理解できる。

「ドナーが出ては一目で敵だとわかる。だから、出ないということか」

 考えながら、椎名は横から突然斬りかかってきたラブリオンの剣に対し、鬼の反応を見せ、自分のラブブレードで受け止める。

「ん? 妙だな。何故俺には躊躇なく攻撃してくる」

 自分からは攻撃していないのに、自分の方には執拗にラブショットが降り注ぎ、近くの敵が斬りかかってくる。条件反射的にそれらをかいくぐっていたが、冷静に考えてみれば何故こうも攻撃されるのか不思議に思う。だが、椎名はすぐにその理由に気づいた。
 それは自分の乗っているラブリオン──ブラオヴィントだ。
 ブラオヴィントはドナーと違って、青の国のイメージカラーである青の色をまとっている。
 だが、ブラオヴィントは一般の兵の乗るラブリオンとは違う。カスタマイズされた特別なマシンなのだ。フォルムはもちろん、その色にしても他のマシンよりも澄んだ青色をしており、白のラインも入っている。
 つまり、ドナーほどではないが、ブラオヴィントもまた一目で敵あるいは味方とわかるマシンなのだ。

「これじゃいい的《まと》じゃないか!」

 その通りであった。
 しかし、ブラオヴィントを攻撃してくるということは、すなわち敵であるということでもある。受け身的で不利な方法ではあったが、椎名には一つの敵味方の判別方法ができた。
 自分を狙ってきた敵に対してブラオヴィントのラブショットが火を吹く。とりあえず一機撃破。椎名のラブパワーを持ってすれば、ラブショットでも、並のラブリオンくらいなら余裕で貫くことができるのだ。

 孤軍奮闘する椎名。
 だが、青の軍の勢いは確実に落ちていた。
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