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仕事には、無事に復帰することが出来た
落ちた時に切った傷跡がまだ残っているせいで、包帯はまだ外すことは出来ないが、普段の生活にも仕事にも影響はなかった
飲食店勤めで接客が必須の業務なのに、さすがに接客として表には出ることは憚れ、厨房メインで仕事をさせて貰えるのはありがたかった


「竹内さん、無理だけはしないでくださいね?体調悪くなったらすぐに休憩してくれていいんで」
スタッフのみんなが気遣ってくれるのをありがたいと思いつつも、少しずつ、罪悪感が募っていった

出張後、すぐに入院したせいで、1ヶ月半ほど店を空けていた
ヘルプは来てくれていたけど、やっぱり迷惑を掛けてしまっているのに変わりはなくて…
それなのに、みんなオレのことを気遣ってくれている
オレが居なくても、店は回るし、むしろ迷惑を掛けてしまっている…

そんな、嫌な思考ばかりがグルグルしてしまう




櫻井さくらいさんは、2日に一度くらいは顔を見せてくれる
食事に誘われたり、ちょっとした休憩を一緒にしたり…
一緒にいる時間は何だか安心すると同時に、わからないけど寂しさが募っていく

「竹内、くん。次の休みにちょっと出掛けないか?嫌じゃ、なければだが…」
困ったような笑みを浮かべながら話し掛けてくる彼に、どうしようかと悩むも、少し考えてから返事をし
「いいですよ。ただ、オレの休みになると平日になっちゃうんですが、それでもいいですか?」

彼のあの表情が何故か好きなんだよな…
少し眉を下げて困ったように笑う笑顔
なんか、あの顔を見ると断れなくなる

櫻井さくらいさん、忙しいはずなのにいつも気に掛けてくれてありがとうございます。
事件のあの人ももう会うこともないだろうし、オレのことばっかり気にしなくてもいいんですよ?」

彼と遅めのお昼を食べながら、いつもわざわざ来てくれることに対して礼を言う
忙しいはずなのに、なんでかずっと会いにきてくれる
こんな頻度で来られるのは、困るんだけど…と思いつつも、何だか嬉しいって気持ちもあって…
自分の気持ちがわからない
会いたいって思う気持ちと、これ以上一緒に居たらダメだって思う気持ち
誰かに言われたんじゃないのに、これ以上好きになるなって言われているようだった


「あさ…竹内、くんと俺が少しでも一緒に居たいだけだから…
迷惑なら、来る頻度を減らすようにするよ…」
先日、やっと包帯を外すことが出来た頭をそっと優しく撫でられる
まるで、恋人にでも向けるような優しい手付きと視線に胸が締め付けられる

「本当に、すまない…。あの時、あさひを守ってやれなくて…」
彼の苦しそうな表情に、寂しいと思ってしまう

オレに言ってるはずなのに、彼が謝っている相手はオレじゃない…
優しい手も、愛しいって言ってくる目も、この声も…

オレには手に入らないモノだと思ってしまう


櫻井さくらいさん、オレ、そろそろ戻りますね」
彼のあんな顔を見たくなくて、切り上げるように休憩を早めに終了する

櫻井さくらいさん、今日の夜、少しお時間貰えませんか?
櫻井さくらいさんにはちゃんと話しておきたいから…オレに時間を貰えませんか?」
彼に背を向けたままお願い事を言う
すぐに「いいよ」と優しい声が聞こえるのを罪悪感を抱えながら聞いた
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