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いつの間に眠っていたのか、朝陽の眠るベッドに頭を預けるように寝落ちしてしまった
髪を漉くように撫でる手の感触が気持ち良くて、ずっと撫でて欲しくなる

ゆっくり顔を上げると、頭に包帯を巻いた朝陽が優しげな目で俺の顔を覗いていた

「あ、櫻井さくらいさん、おはようございます。お疲れだったみたいですね」
何事もなかったかのように言ってくる朝陽の顔をマジマジと見つめ、夢じゃないかと確認するように両手で朝陽の顔を包むように触れる

「ひよ…目覚めて…よかった。本当に、よかった」
朝陽がまた笑っている
夢ではなく、本当に…

嬉しさの余り涙が溢れ出すのを止めることができなかった

「も~、大袈裟ですよ。櫻井さくらいさんがそんな泣かないでくださいよ。なんか、誰かに階段から突き落とされた見たいですけど、櫻井さくらいさんが見付けてくれたんですよね?ありがとうございます」

いつも通りの明るい笑顔で、ペコリと軽く頭を下げてお礼を言ってくる朝陽に何故か違和感を感じる

2人しか居ないこの部屋で、こんな他人行儀な言い方をしてくるってことは、怒ってるんだろうな…

怒っていて当然だよな…
あんな酷いことを言ったんだから…


「ひよ、あの時は本当に悪かった。全部、全部ちゃんと思い出したから。
俺が愛しているのは、朝陽ただひとりだけだ」
彼の手を包むように握り、懺悔するように手に何度も口付けを落としながら謝罪する


何も言わない彼に不安になり、顔をおずおず上げると、真っ赤な顔で顔を逸らしていて

「あ、の……櫻井さくらいさん、恥ずかしいんですが…
えっと、オレ、貴方の恋人じゃないから…、そういう大事な事はご本人に言った方がいいと思います。ね、寝惚けて間違ったんですよね?」


朝陽の様子に違和感が拭えない
初々しい反応というか、他人行儀な言い方に、まるで俺とは面識が少ないような反応で

「あ、ってか、ひよってオレのことですか?オレ、そんなあだ名付いてるの初めて知ったからちょっとビックリですね
オレ、店舗の人間だから、会うことほとんどないのに…。櫻井さくらいさんって結構気さくな人だったんだ」
頬を人差し指でカリカリと掻きながら照れる仕草を見て呼吸が止まりそうになる
嘘を言ってるようには見えない
怒って他人のような反応をしている様子もない


はにかんだように笑う朝陽に何故か嫌な予感がする


「朝陽、俺のことは覚えてるんだよな?」
キョトンとした顔で俺を見上げる朝陽を不安げに見つめる
「もちろん覚えてますよ。櫻井さくらいさんとは何度かメニュー企画を一緒にしましたから」


絶望感が襲ってくる
きっと、朝陽もあの時は同じ気持ちだったんだろう
いや、あの時はもっと酷かったと思う
恋人を否定されて、ストーカー扱いしてしまったのだから


「朝陽、俺と恋人同士なのは、もう嫌なのか?」
鼻の奥がツーンと痛くなる
泣くのを我慢するように、絞り出した声は震えていた


「恋人って…オレ、誰とも付き合ったことないのに…」
恥ずかしそうにしている朝陽に目の前が暗くなっていく



朝陽は、俺との関係のみを記憶から消していた

つい先日の出張も、仕事も、名前も、何もかも覚えているのに…
俺と恋人同士だったことのみ、記憶から消えていた
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