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side-琥太郎

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今朝、記憶がまだ戻っていないことを装って家を出た

アイツは昨晩出て行ったっきり、戻っては来なかった
当たり前のように家の合鍵を持っていて、俺の周りを彷徨いていることを考えると嫌悪感が募る


「あさひ、そろそろ戻って来ているんだろな…」


スマホを何度見ても着信履歴もメールの連絡もないことに、溜息ぐ洩れてしまう
データが消えてしまったとはいえ、朝陽の連絡先は当然のように覚えている
自分から連絡すれば良かったのだが、アイツに聞かれるのだけはマズいと思い連絡出来ないままでいた



福岡の新店舗オープンに向けて、応援として行く事になった朝陽
戻って来たら、同棲と同時にプロポーズもする予定だった

ただ、その為にもずっと付き纏われているストーカー野郎を今のうちに対処するつもりで、会いたくはなかったが、アイツを呼び出した




琥太郎こたろうさん!やっと僕の気持ちを受け入れてくれるんですね!」
キラキラと目を輝かせながらこちらに駆けて来て、当然のように抱き着いてくるストーカー野郎を押し退ける

「何度も言うが、俺はキミに興味もなければ付き合うつもりもない。
何度告白されようと、この気持ちは変わらない。
むしろ、付き纏われてキミへの嫌悪感の方が増しているくらいだ」
嫌悪感を露わにして睨み付け、冷たく言い放つ

「な、なんで…僕じゃダメなの?こんなに愛してるのに…
あんなのより、僕の方が可愛いのに!アレがいるからなの?アレが居なくなれば、僕のモノになってくれるの!?」
人気のない小高い丘の上にある公園で、ヒステリックな声が響き渡る

仕事帰りに待ち伏せされるように後を付けられ、わざとこの公園に誘い込んだ
昼間と違って人通りは少ないし、住宅地からは少し離れている為にコイツが何か叫んでいても迷惑にはならないだろうと思って


「アレが居なくなればいいんだ!アレが、アイツが居るせいで僕のモノになれないんでしょ?
アイツを消せば、僕のモノになって貰えるんでしょ!」


先程から癇癪を起こした様に騒いでいるのを無視していたが、いきなり物騒なことを言い出す彼に背筋に嫌なものが流れる
アレとかアイツって、まさか朝陽のことを言ってるんじやないだろうな?

まさか、朝陽の家まで調べてるんじゃ…


今まで、彼が俺を知る為に色々やらかして来たことを思い出す

さまざまな隠し撮りや、今日のような尾行など当たり前
ポストが荒らされたり、ゴミを漁られた形跡もあった

流石に家に入られた形跡はなかったものの、俺の周りを調べていてもおかしくはない…



「俺の大切な恋人に指一本でも触れてみろ、お前を絶対に許さないからな」
怒りで握っていた拳が震えるも、出来るだけ静かな声で牽制する

「ッ!?な、なんでっ!?なんでわかってくれないの?琥太郎こたろうさんは僕の恋人になる運命なのに!なんでっ!?
………僕のになってくれないなら…」
甲高い不快な声で喚く彼に嫌気が差す
「これ以上、俺達に関わらないでくれ。何かするようなら、警察を呼ぶ」

これ以上一緒に居ることも、関わることも嫌になり、警告のみをして階段を降り始めた瞬間、背中に何かが打つかってくる衝撃にバランスを崩す


一瞬目に入ったのは、先程警告をしたストーカーの彼の歪な笑顔
まさか、自分ごと階段から転落するように抱き着いて来るとは思ってもみなかった


フワリと浮いた浮遊感


次の瞬間にはドタドタドタドタッと音を立てて階段から落ちたのか全身に鈍い痛みが生じ、意識が遠くなっていく


「あ、さひ…」
愛しい恋人の顔が一瞬浮かぶも、なぜか霞がかかったように全てが白く消えて行く
薄れていく意識のなか

「僕のモノにならないなら、一緒に死んじゃえ…」





次に目覚めた時、そこは病院のベッドの上だった


一緒に運ばれた病院で、あのストーカー野郎は、俺の記憶が曖昧なことをいいことに、自分が恋人だと言い張った
抱き付くように倒れていたことから、救急車を呼んだ人も俺達が恋人同士で、痴話喧嘩の後に足を踏み外しての事故だろうと推測されたらしい



知り合いが居ないのをいい事に、アイツの言い分を間に受けてしまった



だが、そんなことを理由に朝陽を傷付けてしまって良いはずがない
傷付け、泣かせたのは俺だ


俺が、最初からこのストーカーを対処出来ていれば
朝陽にアイツのことを少しでも相談していれば
一人で対処せず、警察に協力を仰げば…


今更後悔しても仕方ないことが次から次へと思い浮かんでいく
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