白い四葩に一途な愛を

ゆあ

文字の大きさ
上 下
2 / 27
【白い四葩に一途な愛を】

プロローグ

しおりを挟む
夜景が綺麗な場所とか、海沿いの綺麗なロッジとか、何処かの真っ白で綺麗な教会とか……
そんな女の子が憧れる場所とは程遠い場所。

ずっと母さんと2人で住んでいたボロアパートの取壊しが決まってから、天涯孤独のオレがひとりぼっちで住み続けている格安アパート。
オレが入居する直前に部屋のリフォームはしてくれていたけど、築50年の古いアパート。
6帖の一応洋室で、ユニットバスあり。
最寄りの駅へは徒歩20分。壁は薄いし、天井も薄いのかよく子どもが走り回っている足音も聞こえる。
市内で月3万円なんだから文句は言えないけど……
本当に古いちょっと曰く付きの部屋。


陽に焼けて少しベージュになってしまったカーテンを暖かな風が揺らす。
部屋にあるのは、貰い物のローテーブルとシングルの狭いベッド。
あとは、誕生日とかで買って貰ったクッションとか、就職祝いに買って貰ったお揃いのマグカップ。
本当に、最低限の生活用品しかない部屋。

そんな、何もない部屋。

彼がどこか緊張した面持ちで、オレの手を取ってジッと見詰めてくる。

紫苑しおん、愛してる。結婚しよう」

左手の薬指に嵌められたプラチナの細身のリング。
赤い糸が結ばれており、糸の端は彼の薬指に同じ光りが煌くリングに繋がっている。
「この糸が外れても、俺達はずっと繋がっている。もう、2度とこの手を離さない」
オレの手を取り、リング越しに彼の唇を感じる。


嬉しすぎて、涙が頬を伝って流れた。
嬉しすぎて、言葉を紡ごうにも何を言えばいいのかわからなかった。

ただ、幸せ過ぎて怖くなってしまう。
本当に、これは現実なのか? って……
本当は、オレの都合のいい夢なんじゃないか? って……


彼の真摯な目に見つめられ、くしゃりと顔を歪めながら頷く。
「オレ…も、愛してる。ずっと、ずっと…側に居たい」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、必死に言葉を紡いだ。
こんな汚い顔で返事するなんて本当は嫌だったけど、握られた手を離したくなくて……

眉を下げて困ったように微笑んでいた彼が、オレの返事を聞いただけで今まで見てきた中で、一番嬉しそうに笑って抱き締めてくれた。
紫苑しおんは本当に泣き虫だな……。あの雨の日もぐちゃぐちゃに泣いてたよな……。愛してる。絶対に、幸せにするって誓うから……」


世間ではまだこの関係を受け入れてくれる人は少ないけれど、それでも幸せだった。

ずっと憧れていた。
ずっと、片想いだと思っていた。
ずっと、叶わない想いだと思っていたから……


ただただ、一緒に居るだけで幸せだった。
彼の役に立てるならなんだってやろうと思った。

苦手だった勉強も、人付き合いも、彼の為に克服した。


「無理し過ぎ、紫苑しおんには紫苑しおんのペースがあるから。俺は、紫苑しおんが側に居てくれるだけで幸せだから」


必ず疲れた時はお互いギュッて抱き締め合おうって約束した。
嫌なことがあれば、溜め込まずに必ず話し合おうって約束した。
離れていても、1日1回は電話でもいいから声を聞いて話しをしようって約束した。

約束が増える度に幸せも増えた気がした。
些細なことだったけど、一つ一つが大切で……
どれも手放したくなんてなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜

浅大藍未
恋愛
国で唯一の公女、シオン・グレンジャーは国で最も有名な悪女。悪の化身とまで呼ばれるシオンは詳細のない闇魔法の使い手。 わかっているのは相手を意のままに操り、心を黒く染めるということだけ。 そんなシオンは家族から疎外され使用人からは陰湿な嫌がらせを受ける。 何を言ったところで「闇魔法で操られた」「公爵様の気を引こうとしている」などと信じてもらえず、それならば誰にも心を開かないと決めた。 誰も信用はしない。自分だけの世界で生きる。 ワガママで自己中。家のお金を使い宝石やドレスを買い漁る。 それがーーーー。 転生して二度目の人生を歩む私の存在。 優秀で自慢の兄に殺された私は乙女ゲーム『公女はあきらめない』の嫌われ者の悪役令嬢、シオン・グレンジャーになっていた。 「え、待って。ここでも死ぬしかないの……?」 攻略対象者はシオンを嫌う兄二人と婚約者。 ほぼ無理ゲーなんですけど。 シオンの断罪は一年後の卒業式。 それまでに生き残る方法を考えなければいけないのに、よりによって関わりを持ちたくない兄と暮らすなんて最悪!! 前世の記憶もあり兄には不快感しかない。 しかもヒロインが長男であるクローラーを攻略したら私は殺される。 次男のラエルなら国外追放。 婚約者のヘリオンなら幽閉。 どれも一巻の終わりじゃん!! 私はヒロインの邪魔はしない。 一年後には自分から出ていくから、それまでは旅立つ準備をさせて。 貴方達の幸せは致しません!! 悪役令嬢に転生した私が目指すのは平凡で静かな人生。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。 しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。 それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…

ケダモノのように愛して

星野しずく
恋愛
猪俣咲那は画家である叔父の桔平の裸婦モデルをしている。いつの頃からか、咲那は桔平に恋心を抱くようになっていた。ある日、いつものようにアトリエを訪れた咲那は桔平と身体の関係を持ってしまう。しかし、女性にだらしない桔平は決まった彼女は作らない主義だ。自分の気持ちは一方通行のままなのだろうか…。禁断の恋を描いた「おじさまシリーズ第二弾!」

処理中です...