目は口より愛を語る

ゆあ

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真剣な眼差しで、真っ直ぐに僕を見詰めてくる
そんな彼の言葉が理解出来なかった

番?そんなのなれるわけないのに…

彼の視線から逃げるように俯くも、告白された言葉が何度も頭な中を巡って、心臓がバクバクする

番なんて…
僕が、彼の番なんて…なれるわけないのに……

僕はβだから…
でも、それを彼は知らない

「な、なれない…だめ、ちが……」
彼の真剣な目が頭から離れない

早く、早く…断らなきゃ…
違うって、ごめんなさい。って…
騙して……

僕は、彼を騙してる
彼は、僕をΩだと思ってるから…

僕がΩじゃないってわかったら、この告白は白紙に戻るのかな…
今まで優しかった彼は、もう僕なんて見てくれないんだろうな…

「……お、Ω…じゃ、ない…」
声が震えてしまう
膝の上でギュッと手を握り締め、意を決して消え入りそうな声で言った
「僕は、…β、だから…僕は速水はやみ君の番にも恋人にも、なれない…」

「………」
彼が息を飲む音が聞こえた
僕の言葉に目を見開き、信じられないという顔をしているのだろう
触れていた手がそっと離れ、自身の顎に手を添えて何か考え事をしている様子に自嘲的な笑みが溢れる


やっぱり、ね…
そうだよ、ね…
もっと早く、伝えておけば良かった…


無意識に涙が溢れ落ちそうになり、唇を噛み締めてなんとか堪える
パパのチョーカーに手を這わし、そっと撫で
「こんなモノ付けてるから、勘違いさせちゃったんだよね…
ごめん、なさい…。僕は、βです」
ベッドに腰掛けたまま、膝に額が付くくらい頭を下げて彼に謝る
許して貰えないと思うけど、僕に出来ることはこれくらいだから…
土下座しろって言われたら、言われるままにしよう
もう顔を見たくないって言われたら、これまで通り息を殺すように独りぼっちで過ごそう

全部、僕が悪いから…
僕がこんなのをしているから、勘違いさせてしまったから…

「……先週、休んでいたのは?」
どこか硬い声音で問われ、答えるべきか返答に困ってしまう
言ったところで、速水はやみ君に関係もなければ、迷惑でしかないことだから…
「……僕は、パパの代わりだから…パパが出て行ったのは、僕のせいだから」
顔を上げて、出来るだけ笑って言ったのに、彼はすっごく痛そうに顔を歪めていた

「…なんで、朱鳥あすかは笑えるんだ?」
力強く抱き締められ、身動きが取れない
どうして、彼の方が辛そうな顔をするんだろう…
どうして、彼は僕のかわりに怒ってくれるんだろう…

「……僕が、全部悪いから。だから、気にしないで」
何故だろう、今までずっと我慢してきたのに…
ずっと、平気なフリをしてきたのに…
いつの間にか、涙が溢れ出していた

泣いちゃいけないのに…
喋っちゃ、いけないのに…

彼が抱き締めてくれるから、涙を堪えられなくて…
ずっと、押し殺してきた気持ちが溢れ出してしまって…
彼にしがみ付くように抱き着いて、声を押し殺して泣いた

朱鳥あすか…」
僕の後頭部を優しく撫でながら名前を呼んでくれた
いつの間にか、彼も泣いていたけど、ずっと優しく僕の名前を呼んでくれた

でも、僕は彼の番にはなれない
僕はβで、βの中でも底辺だから


抱き締めてくれていた彼の肩をそっと押して離れ
「ありがとう。素敵な番が見つかるといいね」
涙でグチャグチャになってしまったマスクを外し、出来るだけ綺麗に見えるように、笑っているように表情を作る

「先に戻ってて…次の時間には、自分で戻るから…」
声が震えてしまうものの、なんとか笑顔のまま言うことができた

朱鳥あすか…オレは朱鳥あすかが好きだ」
涙で濡れた頬を手の甲で拭い、真剣な眼差しで再度告白の言葉を口にする彼
朱鳥あすか、初めて校舎裏で会った時から惹かれていたんだ
オレの運命は朱鳥あすかだよ。第二性ダイナミクスなんて関係ない」
覗き込んでくる彼の目が真剣で、目を離せなくて…
今にも触れそうなくらい顔を近づけられるとドキドキしてしまって…
頬を包み込んでくれる手が温かくて…
触れるようなキスがもどかしい
啄むような口付けで身体が熱い

朱鳥あすか…、好きだよ」
パパの代わりじゃなくて、僕自身を見てくれる彼の目から逃げることなんて出来なかった
熱い眼差しにドキドキして、いつの間にか自分からも求めるようにキスをした

「必ず助けるから…。朱鳥あすかのこと、オレが守るから」
誓いの様な口付けをし、強く抱き締めてくれた
何度も『好き』って言ってくれた
僕はまだ何も伝えられなかったけど、速水はやみ君は「急がなくていいから…。オレのこと、好きになって欲しい」って言ってくれた


お父さん…ごめんなさい
ごめんなさい
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