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恋人みたいに手を繋いだまま、うっすら白い雪が降り積もる道を歩いた
みぃちゃんが「こっちだよ」と言うように率先して歩き、時々ちゃんと付いて来ているのか確認するように振り返る
今日、マスクをしていなかったのをすごく後悔した
そばかすのある醜い顔を晒しているのを見られたくなかった
俯きがちに黒いアスファルトに降り積もる白い雪を見詰めながら歩く
速水君に握られた手が、冷え切って感覚がなくなっていた手が、彼の熱に解かされてジンジンする
「朱鳥に会えるなんて思ってなかったから驚いた。家、この近くだっけ?」
「朱鳥は合格祝いとかやった?」
「朱鳥とは学科は違うけど、同じ大学に行けて良かったぁ…共通の授業とかあんのかな?」
「朱鳥、朱鳥を見付けたのがオレで良かった…」
彼は帰り道、ずっと話し掛けてくれた
僕は何も答えることが出来なくて、ただ俯いて付いて行くしか出来なかったのに…
それでも、気にせずにずっと話し掛けてくれた
「ここだよ。朱鳥、身体冷たいから先にお風呂入って温まるといいよ」
着いたのは一軒家だった
αの人の家って、すっごい豪邸なイメージだったけどそんなことはない
普通の、一般的な家
「あらあら、お帰りなさい」
みぃちゃんが当然のように部屋に上がろうとするのを、小柄な優しい笑顔の女性が困った顔で窘めて、脚をタオルで拭いていた
「まずはお風呂かしら?ゆっくり入ってね」
雪で少し濡れた僕を笑顔で迎え入れてくれて…
速水君同様、お風呂に入って来るように促された
僕の家とは違う、本当に温かなぬくもりのある家
他人の家でお風呂を借りることなんて初めてで、どうすればいいのかわからない
ちょっと緊張気味にお風呂に入った
頸に薄っすら残る歯型
Ωじゃないのに、何度も何度も、血が滲むくらい強く噛まれたから薄っすら痕が残っている
数ヶ月、お父さんとはしていないけど、この痕だけは未だに消えていない
「……いつか、消えてくれるのかな…」
ポツリと呟いた声は、お風呂のお湯に消えた
誰にも聞かれない、誰にも聞こえない僕の望み
ホッカホカに温まってから、脱衣所に置かれていた着替えを拝借する
多分速水君の服なんだと思う
僕よりも身長も体格もいいから、僕には少し大きくて、ダボっとしてしまう
でも、Ωじゃないから少し大きいだけ
鏡に映るのは、儚げも華奢さも綺麗さもない、ただのβの男子学生なだけの僕
「Ωに生まれていれば、速水君の番にして貰えたのかな…」
鏡に映る僕自身に向かって呟く
「ふっ、あり得ないよね。Ωに生まれても、僕なんて選ばれないだろうし…」
おずおずリビングに入ると、暖かい空気が全身を包み込んでくる
「おかえり」
ソファーに寝そべり、みぃちゃんを膝に乗せて顎を撫でている彼
ゴロゴロ喉を鳴らして、満足そうにしているみぃちゃんが羨ましかった
「…お風呂、ありがと…」
小さな声でお礼を言うと、彼は満足気な笑みを浮かべて頷いていた
それから、何故か速水君のご両親に紹介されてしまった
速水君…、麟君のご両親は、お父さんがαでさっきの優しくて可愛い人はお母さんでβらしい
すっごく仲が良さそうで、幸せそうで……
昔の、僕が余計なことを言ってしまう前のお父さんとパパに似ていた
僕は、何故か麟君の膝の間に座らされて背後から抱き締められて身動きが取れない
膝の上にはみぃちゃんが寝ていて、麟君とみぃちゃんが僕を逃げない様にしているみたいだった
こんな状態で麟君のご両親に紹介されるのが恥ずかしくて、どうすれば良いのかわからなくて困惑してると、2人は微笑ましいと言わんばかりの温かな笑みを向けてくれて…
「朱鳥君のご両親には後で連絡するから、今は安心していいよ
それに、この家が気に入ったなら、ずっと居てくれてもいいんだよ」
麟君のお父さんが少し寂しげな笑みを浮かべて、僕の頭を撫でてくれた
何故か麟君が「父さん触んないで」って威嚇していて…
それをご両親が嬉しそうに笑っていて…
僕には、僕だけが…わけがわからなくて…
どうすればいいのか、わからなかった
みぃちゃんが「こっちだよ」と言うように率先して歩き、時々ちゃんと付いて来ているのか確認するように振り返る
今日、マスクをしていなかったのをすごく後悔した
そばかすのある醜い顔を晒しているのを見られたくなかった
俯きがちに黒いアスファルトに降り積もる白い雪を見詰めながら歩く
速水君に握られた手が、冷え切って感覚がなくなっていた手が、彼の熱に解かされてジンジンする
「朱鳥に会えるなんて思ってなかったから驚いた。家、この近くだっけ?」
「朱鳥は合格祝いとかやった?」
「朱鳥とは学科は違うけど、同じ大学に行けて良かったぁ…共通の授業とかあんのかな?」
「朱鳥、朱鳥を見付けたのがオレで良かった…」
彼は帰り道、ずっと話し掛けてくれた
僕は何も答えることが出来なくて、ただ俯いて付いて行くしか出来なかったのに…
それでも、気にせずにずっと話し掛けてくれた
「ここだよ。朱鳥、身体冷たいから先にお風呂入って温まるといいよ」
着いたのは一軒家だった
αの人の家って、すっごい豪邸なイメージだったけどそんなことはない
普通の、一般的な家
「あらあら、お帰りなさい」
みぃちゃんが当然のように部屋に上がろうとするのを、小柄な優しい笑顔の女性が困った顔で窘めて、脚をタオルで拭いていた
「まずはお風呂かしら?ゆっくり入ってね」
雪で少し濡れた僕を笑顔で迎え入れてくれて…
速水君同様、お風呂に入って来るように促された
僕の家とは違う、本当に温かなぬくもりのある家
他人の家でお風呂を借りることなんて初めてで、どうすればいいのかわからない
ちょっと緊張気味にお風呂に入った
頸に薄っすら残る歯型
Ωじゃないのに、何度も何度も、血が滲むくらい強く噛まれたから薄っすら痕が残っている
数ヶ月、お父さんとはしていないけど、この痕だけは未だに消えていない
「……いつか、消えてくれるのかな…」
ポツリと呟いた声は、お風呂のお湯に消えた
誰にも聞かれない、誰にも聞こえない僕の望み
ホッカホカに温まってから、脱衣所に置かれていた着替えを拝借する
多分速水君の服なんだと思う
僕よりも身長も体格もいいから、僕には少し大きくて、ダボっとしてしまう
でも、Ωじゃないから少し大きいだけ
鏡に映るのは、儚げも華奢さも綺麗さもない、ただのβの男子学生なだけの僕
「Ωに生まれていれば、速水君の番にして貰えたのかな…」
鏡に映る僕自身に向かって呟く
「ふっ、あり得ないよね。Ωに生まれても、僕なんて選ばれないだろうし…」
おずおずリビングに入ると、暖かい空気が全身を包み込んでくる
「おかえり」
ソファーに寝そべり、みぃちゃんを膝に乗せて顎を撫でている彼
ゴロゴロ喉を鳴らして、満足そうにしているみぃちゃんが羨ましかった
「…お風呂、ありがと…」
小さな声でお礼を言うと、彼は満足気な笑みを浮かべて頷いていた
それから、何故か速水君のご両親に紹介されてしまった
速水君…、麟君のご両親は、お父さんがαでさっきの優しくて可愛い人はお母さんでβらしい
すっごく仲が良さそうで、幸せそうで……
昔の、僕が余計なことを言ってしまう前のお父さんとパパに似ていた
僕は、何故か麟君の膝の間に座らされて背後から抱き締められて身動きが取れない
膝の上にはみぃちゃんが寝ていて、麟君とみぃちゃんが僕を逃げない様にしているみたいだった
こんな状態で麟君のご両親に紹介されるのが恥ずかしくて、どうすれば良いのかわからなくて困惑してると、2人は微笑ましいと言わんばかりの温かな笑みを向けてくれて…
「朱鳥君のご両親には後で連絡するから、今は安心していいよ
それに、この家が気に入ったなら、ずっと居てくれてもいいんだよ」
麟君のお父さんが少し寂しげな笑みを浮かべて、僕の頭を撫でてくれた
何故か麟君が「父さん触んないで」って威嚇していて…
それをご両親が嬉しそうに笑っていて…
僕には、僕だけが…わけがわからなくて…
どうすればいいのか、わからなかった
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