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第5章
魔族
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「瘴気……」
私は目をぱちくりさせて、自分の両手を見つめる。
魔王はそういうけれど、私は自身の身体に変化を感じられなかった。
このまま放置すれば、いずれ頭から角が入ってくるのだろうか。
「瘴気を浴びれば、魔族になるの?」
「色々話してやらねばならんな」
魔王は言う。
「結婚したからには、お前はもう我が魔族の一員だから」
そうだ。
真に魔族の仲間になったときに色々教えてやろうだのなんだの言われていたのを思い出す。
魔界と人間界の真の関係性、なぜ魔王は勇者を本気で倒そうとしないのかなど、聞きたいことは山ほどあった。
「しかし、まずはだな」
魔王はじっと私の顔を見る。
「お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「本来は、結婚式前に聞きたかったのだが――後悔はしていないか?」
魔王は私の手を取り、手の甲を優しく親指で撫でた。
「後悔って」
「余と結婚したことだ。お前はあくまで人間で、ここではなく向こうで生きていく資格がある。だが、お前は余と結婚することを選んだ。それを後悔はしていないか?」
「まさか」
私は大きく首を振って否定する。
「それはこっちのセリフよ。逆にあなたが、私と結婚したのを後悔してない?」
私はあの日、投げやりな気持ちで魔王に求婚した。
戸惑っている彼を無理やり迫り、ここまでこぎつけたのだ。
あの日あの瞬間、私の中で覚悟は決まっていたけれど。
でも、魔王はどうなのだろう。
私と結婚して、本当に後悔していないのだろうか。
「余もお前と同じだ」
魔王は言う。
「余も、覚悟は既に決めている。魔王には二言などない」
だが、と彼は私の手を強く握った。
「今までこうやってお前と過ごしてきて、やはり懸念点というものはある。お前が人間であることだ。余とお前は、生きる年数が違う」
「……」
そうか。
そうだった。
魔王はこの先何年も生き永らえるだろうけど、私は100年足らずで死んでしまうだろう。
1人残されるのは、彼だ。
「もし余と本当に生きていきたいと思うなら、ぜひ我らと同じ魔族になってはくれないか?」
「……魔王」
「余は、実に不本意だがな、お前を失うのが惜しいのだ。もしその覚悟があるなら、魔族になってくれ。頼む」
私は目をぱちくりさせて、自分の両手を見つめる。
魔王はそういうけれど、私は自身の身体に変化を感じられなかった。
このまま放置すれば、いずれ頭から角が入ってくるのだろうか。
「瘴気を浴びれば、魔族になるの?」
「色々話してやらねばならんな」
魔王は言う。
「結婚したからには、お前はもう我が魔族の一員だから」
そうだ。
真に魔族の仲間になったときに色々教えてやろうだのなんだの言われていたのを思い出す。
魔界と人間界の真の関係性、なぜ魔王は勇者を本気で倒そうとしないのかなど、聞きたいことは山ほどあった。
「しかし、まずはだな」
魔王はじっと私の顔を見る。
「お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「本来は、結婚式前に聞きたかったのだが――後悔はしていないか?」
魔王は私の手を取り、手の甲を優しく親指で撫でた。
「後悔って」
「余と結婚したことだ。お前はあくまで人間で、ここではなく向こうで生きていく資格がある。だが、お前は余と結婚することを選んだ。それを後悔はしていないか?」
「まさか」
私は大きく首を振って否定する。
「それはこっちのセリフよ。逆にあなたが、私と結婚したのを後悔してない?」
私はあの日、投げやりな気持ちで魔王に求婚した。
戸惑っている彼を無理やり迫り、ここまでこぎつけたのだ。
あの日あの瞬間、私の中で覚悟は決まっていたけれど。
でも、魔王はどうなのだろう。
私と結婚して、本当に後悔していないのだろうか。
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「余も、覚悟は既に決めている。魔王には二言などない」
だが、と彼は私の手を強く握った。
「今までこうやってお前と過ごしてきて、やはり懸念点というものはある。お前が人間であることだ。余とお前は、生きる年数が違う」
「……」
そうか。
そうだった。
魔王はこの先何年も生き永らえるだろうけど、私は100年足らずで死んでしまうだろう。
1人残されるのは、彼だ。
「もし余と本当に生きていきたいと思うなら、ぜひ我らと同じ魔族になってはくれないか?」
「……魔王」
「余は、実に不本意だがな、お前を失うのが惜しいのだ。もしその覚悟があるなら、魔族になってくれ。頼む」
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