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第4章

挨拶

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 私はゾーイさんに案内されて、魔王城をぐるぐると回る。


 初めに連れてこられたのは、魔王城の玄関口だ。

 数日ぶりにそこへ向かうと、先日と同じく4m以上の大男が門番として勤務している。


「ボロロ!」

 ゾーイさんは、彼の名前らしき単語を透明感のある声で発した。

「ん?」


 門番ーーボロロは振り返り、ゾーイさんを見下ろす。


「なんだ?」

「先日会ったでしょう。アイラ様がご挨拶に来たから、ちょっと時間をちょうだい」

「アイラ様……?」


 ボロロは私を認識すると、

「う、うわあ」

 と、何故か悲鳴をあげ、その場にへたりこんだ。

「あ、ああ。魔王様の奥様ですね」

「いえ、まだ結婚していませんよ」


 そんなにビビることないのに、と少しムッとする。

「すみません、踏み潰しそうになったものですから」


 ボロロは言い訳がましくそう言い、被っていた兜を脱ぐ。


 初めて彼の顔を見て、私は子どものころ読んだ図鑑を頭の中に蘇らせた。


 オークだ。

 
 緑色の肌に、屈強な身体。

 鋭い牙が、ギラッと光っている。


 オークは別に珍しい存在ではない。

 私の住んでいた町の外れに集落があったし、外へ出ればたまに見かけることもあった。

 オークは危ないから近づくなと、大人たちには耳にタコが出来るくらい言われ続けていたけれど。


 ともかく不思議だったのは、オークの身長は人間より少し高いくらいなのだ。


 だけど彼は、明らかに普通のオークの2倍は大きかった。


 私の驚きに気づいたゾーイさんは、丁寧に説明してくれた。

「ボロロはオークと巨人族の間に生まれた子どもなんです」

「巨人族、ですか?」

「ご存知ないですか?」

「いえ、そういうわけでは」


 もちろん知っている。

 しかし私の知っている巨人族は神話に登場する幻の種族で、数千年前に人間族の王に滅ぼされたはずだ。


「人間ごときに、体格も大きく力も強い巨人族が負けるわけないでしょう」


 ボロロは胸を張った。

「巨人族は穏やかな性質で、争いを好まないのです。ですから人間族の住む場所から離れ、魔族と共に生活するようになったんですよ」

「へえ」

「ボロロはその身長とオーク特有の筋肉を見込まれて門番に採用されました。例え勇者や悪い人間がここれ来たとしても、彼が守ってくれます」

「そうですとも。お任せください」


 なるほど、それは頼もしい。


 私は膝を折り、お辞儀をする。

「改めまして、アイラと申します。これからよろしくお願いしますね、ボロロさん」

「こちらこそ。本来は私がご挨拶に向かわねばいけなかったのですが。ご無礼をお許しください」
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