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第2章

結婚 ~ゼノ視点~

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 俺は与えられた部屋の窓から、ぼんやりと外を眺めている。


 夕焼けが窓から差し込み、全てをオレンジ色に塗り替えていた。

 高級そうな城の調度品が、光に当てられてキラキラと輝いている。


「カーテン、閉めてくれない?」

 機嫌の悪そうなローザが、俺に向かって言った。


「眩しくて、イライラする」

「外の景色はすごく綺麗だ」


 俺は彼女の言葉に答えず、窓の外を指さした。

「ここから城の花園が見えるよ」

「あのさ、そんなことどうでも良いから」

 ローザは言う。

「閉めてっつってんのよ! お腹の子に障ったらどうするの!?」


 俺は肩をすくめて、カーテンを閉めた。

 どうやら、彼女の機嫌は今最高に悪いらしい。




 単刀直入に行って、俺たちは結婚することになった。

 勇者である俺と、聖女であるローザは、同じパーティのメンバーだ。


 俺は数年前、教会から自身が勇者であることの啓示を受けた。


 チャンスだと思った。


 俺はしがない庶民だ。

 貴族でも王族でもない。

 その俺が、彼らから敬われる「勇者」ーー。


 早速準備をして、元いた町に別れを告げた。

 その当時結婚の約束をしていたアイラも置いて、町から飛び出した。


 そうしてローザや他の仲間たちと出会い、パーティを組んで旅に出かけた。


 ローザと関係を持つようになったのは、いつからだろうか。

 少なくとも最初は、俺もアイラのことを思って、ローザに手を出すようなまねはしなかった。


 だが、旅をしてわかることがたくさんある。


 世界は広い。

 俺が思っていた以上に。


 だからこそ俺は、きっといつまでも俺の帰りを待ち続けているアイラのことを、だんだんと疎ましく思うようになった。

 世の中には、アイラ以外の女だっていっぱいいるんだ。

 それに、俺が勇者と知ってすぐに股を開くような連中も。


 第一、アイラは重かった。

 彼女は天涯孤独だから仕方がないという部分はあるだろうけど、それでも重い。


 感情が。

 愛が。

 何もかもが。


 俺は自由に遊びたかった。

 もっと軽い関係性が良かった。


 剣士や魔道士は、田舎出身の俺とは違い、かなりの遊び人だった。

 俺は時々彼らに連れられて、酒場や娼婦の元へ足を運んだ。


 だが、だんだん勇者としての名前が知られるようになり、おいそれと楽しく遊ぶことが出来なくなってしまった。

 だから、手っ取り早く処理出来そうな、身内であるローザを選んだのだ。


 幸運なことに、彼女は俺を好いているようだった。


 俺たちは勇者の仕事の合間を縫って肉体関係を持ち、そしてーー。


「妊娠したの」

 ローザは、ある日俺に向かってそう言った。

「は?」

「責任取りなさいよ。全部、あんたのせいなんだから」


 俺たちは結婚することになった。


 幸か不幸か、この国の王族は、俺とローザの結婚をかなり喜んでいるようだ。


 彼女が王族出身であることにも関わっているのだろうか。


 だからこそこうして良い部屋も与えられ、俺はのんびりと過ごすことが出来ている。


 正直、結婚なんて俺はしたくなかった。

 でも、周囲の人間たちに羨ましがられるうちに、考えが変わってきた。


 ローザは美人だ。

 絶世の美女と言われている彼女と結婚する俺は、ある意味勇者という称号以上に褒め讃えられた。


 確かに。


 俺は思った。


 この絶世の美女は、もはや俺のものだ。

 俺の好きなように出来る、俺だけの女なのだ。


 気軽に遊びに行けなくなるのは残念だが、妊娠した彼女はしばらくの間、城で休養しなければならない。

 その間に他のメンバーで度に出かけ、遊ぶことだって出来るし。

 しばらく、困ることはないだろう。


 だが1つ、俺の中に大きな懸念点があった。


 俺とローザの結婚は、全国各地から祝われている。


 しかし、あの町、俺が住んでいた町からは、なぜか一言も連絡が来ていないのだ。


 
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