6 / 72
第1章
了承
しおりを挟む
魔王は困惑していた。
その整った目を大きく見開き、口をぽかりと開けていた。
それが面白くて、私は鼻で笑う。
「お、お前。余が誰なのか本当にちゃんと理解しているのか?」
「ええ。もちろんよ。魔王様なんでしょ? ゼノの敵」
「そうだ。だが、お前からは余に対する畏怖の念が全く感じられない」
私は口角を上げる。
「もう全部、どうでも良いのよ」
「どうでも良い?」
魔王は顔をしかめる。
「何がだ?」
「ゼノや聖女様のことも、この町のことも、私のことも、全部よ」
「そのような考え方はよした方がいいぞ」
魔王は諭す。
「お前はまだ若いのだ。一時の感情に身を任せてはならない」
私は爆笑した。
「何が面白いのだ?」
魔王は私の高らかな笑い声を聞いて、ムッとしたように口を固く結んだ。
「いや、悪の根源である魔王様が、私に説教するとは思えなくて」
私はすっかり自暴自棄に陥っていた。
私のすべてだった人に裏切られたのだ。
ゼノがいなくなり、私は私じゃなくなってしまった。
町の人だって、私を「アイラ」ではなく、「ゼノの婚約者」という目で見ていたのだ。
ゼノが私の元から去れば、私とこの世界を繋ぐものは、もう何もない。
私の居場所はどこにもない。
「つまらんな」
私の乾いた笑い声を不快に思ったのか、魔王はその端正な顔をゆがませた。
「ええ、そうよ。私はつまんない人間なのよ。だから、魔王様。私と結婚して」
「余はあの勇者の残飯処理係か」
残飯処理。
ええ、どうせ私は「残飯」よ。
「魔王様は仲間が欲しいんじゃなくって?」
「訂正しろ、手下だ。余が欲しいのは――しかし、お前は哀れだな」
魔王は私の腕を掴んだ手をぐっと引き寄せた。
私は立ち上がらざるを得なくなる。
「よほど小さいころから、あの勇者のために生きてきたのだろう。あの性悪のために生き、そして捨てられたわけだ」
「……だから、わかってることを何回も言わないでって言ってるじゃない。私はゼノの一番になれなかったのよ。私はゼノの残飯よ」
「いいや、お前は何もわかっていないぞ――まあ、無理もないが」
魔王のその含みのある言い回しに首をかしげると、魔王は子供っぽいいたずらな笑みを浮かべた。
「良いだろう。余はお前が気に入った。余にそこまで口答えする人間は初めてだ。望み通り、お前と結婚してやる。我が城に来い」
「えっ」
私が首を縦に振る前に、魔王は私の身体を抱き寄せ、軽々しく持ち上げる。
「ちょっと!」
「大人しくしろ。怪我をされてはかなわん」
魔王がそう言っている間に、彼の周りに青白い光が現れた。
魔法陣だ。
生まれて初めて見た。
「さあ、我が妻よ。魔王城へ行こうか」
青白い光はさらに強くなり、私は目を瞑って魔王の身体にしがみついた。
その整った目を大きく見開き、口をぽかりと開けていた。
それが面白くて、私は鼻で笑う。
「お、お前。余が誰なのか本当にちゃんと理解しているのか?」
「ええ。もちろんよ。魔王様なんでしょ? ゼノの敵」
「そうだ。だが、お前からは余に対する畏怖の念が全く感じられない」
私は口角を上げる。
「もう全部、どうでも良いのよ」
「どうでも良い?」
魔王は顔をしかめる。
「何がだ?」
「ゼノや聖女様のことも、この町のことも、私のことも、全部よ」
「そのような考え方はよした方がいいぞ」
魔王は諭す。
「お前はまだ若いのだ。一時の感情に身を任せてはならない」
私は爆笑した。
「何が面白いのだ?」
魔王は私の高らかな笑い声を聞いて、ムッとしたように口を固く結んだ。
「いや、悪の根源である魔王様が、私に説教するとは思えなくて」
私はすっかり自暴自棄に陥っていた。
私のすべてだった人に裏切られたのだ。
ゼノがいなくなり、私は私じゃなくなってしまった。
町の人だって、私を「アイラ」ではなく、「ゼノの婚約者」という目で見ていたのだ。
ゼノが私の元から去れば、私とこの世界を繋ぐものは、もう何もない。
私の居場所はどこにもない。
「つまらんな」
私の乾いた笑い声を不快に思ったのか、魔王はその端正な顔をゆがませた。
「ええ、そうよ。私はつまんない人間なのよ。だから、魔王様。私と結婚して」
「余はあの勇者の残飯処理係か」
残飯処理。
ええ、どうせ私は「残飯」よ。
「魔王様は仲間が欲しいんじゃなくって?」
「訂正しろ、手下だ。余が欲しいのは――しかし、お前は哀れだな」
魔王は私の腕を掴んだ手をぐっと引き寄せた。
私は立ち上がらざるを得なくなる。
「よほど小さいころから、あの勇者のために生きてきたのだろう。あの性悪のために生き、そして捨てられたわけだ」
「……だから、わかってることを何回も言わないでって言ってるじゃない。私はゼノの一番になれなかったのよ。私はゼノの残飯よ」
「いいや、お前は何もわかっていないぞ――まあ、無理もないが」
魔王のその含みのある言い回しに首をかしげると、魔王は子供っぽいいたずらな笑みを浮かべた。
「良いだろう。余はお前が気に入った。余にそこまで口答えする人間は初めてだ。望み通り、お前と結婚してやる。我が城に来い」
「えっ」
私が首を縦に振る前に、魔王は私の身体を抱き寄せ、軽々しく持ち上げる。
「ちょっと!」
「大人しくしろ。怪我をされてはかなわん」
魔王がそう言っている間に、彼の周りに青白い光が現れた。
魔法陣だ。
生まれて初めて見た。
「さあ、我が妻よ。魔王城へ行こうか」
青白い光はさらに強くなり、私は目を瞑って魔王の身体にしがみついた。
0
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる