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話④
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「えっ?」
「私はね、フィルが使用人でも、貴族でも、ただのフィルでも。なんでも良いのよ」
フィルは目を丸くしていた。
「フィルはフィルじゃない。立場なんて関係ないと思ってるわ」
私はずっと、フィルが使用人として徹するのが不思議で仕方がなかった。
他のメイドや執事にはそう思わないというのに、なぜか。
一緒に育った関係だからなのかもしれない。
「私はね、フィルにはフィルらしく生きていてほしいと思ってたの。ずっと。使用人という立場としてではなく」
「それは……」
フィルの声は震えていた。
「俺を捨てる気なのか?」
「そういう意味じゃないわ。なんて言えば良いのかしら」
私は少し考える。
「私はね、フィルが使用人でも、例えば王様でも良いのよ。どんな立場であっても、私はフィルと一緒にいたいと思っている。だってフィルはフィルだから」
私はフィルに立場など気にせず、好きに生きてほしいと思っていた。
要するに、私はフィルに使用人としての立場を求めているわけじゃなかったのだ。
「あなたにはあなたでいてほしいの。フィルが使用人でいたいと心から願うなら私は別に止めやしないわ。だけど、そういう理由で使用人でいたいというなら、私は反対するわ」
「……」
「だって考えてみてちょうだい。あなた男爵なのよ? 爵位を持っているという点では、私よりも立場が上だわ」
「……お嬢様は、俺が使用人じゃなくても良いのか?」
「私、そんなこと一言も口にしたことないわよ」
私は苦笑した。
やっぱり頑固だなあ。
そう言ったところは殿下に似ている。
フィルは怒ると思うけど。
「フィルが一緒にいてくれるなら、別に使用人じゃなくても良いのよ。同級生でもなんでも。大袈裟に言えば、王族でも庶民でも良いの。恋人は――まだ考えられないけど」
「王族……」
フィルは呟いた。
「そうか。なんでも良かったのか」
「ええ、そうよ」
「わかった」
フィルは立ち上がった。
「ごめん、お嬢様。変なこと聞いて」
「いいえ。私の気持ち、わかってくれた?」
「ああ」
フィルは頷く。
「あんたの気持ちも。……俺がこれからどうするべきかも」
「私はね、フィルが使用人でも、貴族でも、ただのフィルでも。なんでも良いのよ」
フィルは目を丸くしていた。
「フィルはフィルじゃない。立場なんて関係ないと思ってるわ」
私はずっと、フィルが使用人として徹するのが不思議で仕方がなかった。
他のメイドや執事にはそう思わないというのに、なぜか。
一緒に育った関係だからなのかもしれない。
「私はね、フィルにはフィルらしく生きていてほしいと思ってたの。ずっと。使用人という立場としてではなく」
「それは……」
フィルの声は震えていた。
「俺を捨てる気なのか?」
「そういう意味じゃないわ。なんて言えば良いのかしら」
私は少し考える。
「私はね、フィルが使用人でも、例えば王様でも良いのよ。どんな立場であっても、私はフィルと一緒にいたいと思っている。だってフィルはフィルだから」
私はフィルに立場など気にせず、好きに生きてほしいと思っていた。
要するに、私はフィルに使用人としての立場を求めているわけじゃなかったのだ。
「あなたにはあなたでいてほしいの。フィルが使用人でいたいと心から願うなら私は別に止めやしないわ。だけど、そういう理由で使用人でいたいというなら、私は反対するわ」
「……」
「だって考えてみてちょうだい。あなた男爵なのよ? 爵位を持っているという点では、私よりも立場が上だわ」
「……お嬢様は、俺が使用人じゃなくても良いのか?」
「私、そんなこと一言も口にしたことないわよ」
私は苦笑した。
やっぱり頑固だなあ。
そう言ったところは殿下に似ている。
フィルは怒ると思うけど。
「フィルが一緒にいてくれるなら、別に使用人じゃなくても良いのよ。同級生でもなんでも。大袈裟に言えば、王族でも庶民でも良いの。恋人は――まだ考えられないけど」
「王族……」
フィルは呟いた。
「そうか。なんでも良かったのか」
「ええ、そうよ」
「わかった」
フィルは立ち上がった。
「ごめん、お嬢様。変なこと聞いて」
「いいえ。私の気持ち、わかってくれた?」
「ああ」
フィルは頷く。
「あんたの気持ちも。……俺がこれからどうするべきかも」
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