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 いくら貴族である男爵家と言えども、持っている資産が無限であるはずがない。

 さらに、事前調査によるとあの家は給金を湯水のように使い、税や父祖が貯めた財産を食いつぶしているらしい。


 まあ、あの考えなしなレナの父親ならやりそうなことだが。


 慰謝料請求額は男爵家が一度にそれを支払えば確実に路頭に迷うレベルのものにし、万が一、

「レナは自分の娘ではないから支払い義務がない」

 という言葉で言い逃れ出来ないように、請求元は男爵家にした。


「払えなければ意味がないのでは?」

 と私が両親に尋ねると、

「払えない額にしているのだ」

 という答えが返ってきた。

「どうしてです?」

「はした金だけ渡されて謝罪もなしでは、怒りが収まらないだろう? あの者たちには、路頭に迷うほどの莫大な慰謝料を払ってまで男爵という形だけの爵位を守るか、それとも逃げて爵位を捨てるか。あのプライドの高い庶民を馬鹿にする連中にとって究極の選択を用意したわけだ」

「なるほど……」


 私は納得したと同時に、少々身震いした。

 我が父ながら恐ろしい。

 敵に回したくない人だ。


「王家には私たちに借りがあるからな。王子の件を引き換えにして、爵位剥奪の請求も問題なく通るだろう。ただもし我らの要求が一文字でも通らなければ」

 父はボソッと呟く。

「奥の手を使うまでだ」

「奥の手?」


 私は首を傾げる。

 それは先日のフィルの様子と何か関係があるのだろうか?


「お前にはまた後でとは思っているが……。まずは了承を得る段階だからな。そのときになったら、お前にもきちんと話そう」

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