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お菓子作り

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「なるほど……」


 料理長の提案に、思わず唸る。

 確かにその考えは私になかった。


 手作りであれば、より感謝の気持ちも伝わりやすくなるだろう。


 ただ。

「……私、菓子作りはおろか、料理だってしたことないわよ?」


 私は公爵令嬢。

 求められていたのは、未来の王妃としての教養だけであった。


 料理は料理人がするものだという認識から、それが趣味でもない限り料理をする貴族令嬢など、ティファニーを含め周りには誰もいない。


「お菓子作りって普通の料理よりはハードルが高いって聞くし……。私でも出来るかしら?」

「もちろん、お店で売られているような装飾の凝ったものは難しいです。ただ、混ぜて型に入れて焼くだけの簡単なパウンドケーキなら、初心者のお嬢様でも出来ませすよ」

「そうかしら……」

「私も当然お手伝いしますし、アドバイスもさせていただきます。やりましょう! 是非に。きっと、いや確実にフィルは大喜びしますよ!」


 なぜこんなにも料理長が積極的なのかはわからないが、私は彼に影響されてどんどん作ってみる気になっていった。

「材料とかは……」

「小麦粉とバター、砂糖、卵、牛乳ですが、全部厨房にあるので大丈夫ですよ。ささ、どうぞ中に入ってください」




 料理長の指示は、至極簡潔でわかりやすかった。

 そのおかげで、完全未経験者である私でも、それらしき物体を作ることは出来た。


 ……あくまでではあるが。


「うーん」

 私はあまりの完成度に納得がいかず、ケーキから顔を背けてしまう。

「なんというか、その……。素朴な味ね」


 パウンドケーキの端を切って味見してみた結果は、微妙だった。


「まあ材料が少ないですからね」


 うーん……。

 困った。


 これなら、外で買ってきた方が良かったかしら?
 
 料理長には悪いけれど。


「ですが、十分想いの詰まったケーキであることは確かです!」

 
 依然として変わらない料理長のテンションに気圧される。

「そ、そう……?」

「はい! 料理は愛情ですよ、お嬢様。手作りはそれだけ愛が詰まっているんです。お嬢様も、フィルにこれで愛を伝えてください!」


 ……なんか、だんだん話が変な方向に行ってしまっている気もするが。

 私はただ、疲れている様子のフィルを労いたいだけだ。


 料理長は手早くケーキをさらに盛りつけ、私に手渡した。


「お嬢様、くれぐれもご自分でお運びくださいませ。恥ずかしいからって使用人にお願いしては駄目ですよ」

「わ、わかりました……」

「お嬢様、頑張ってくださいね」


 キラリと光る笑顔でサムズアップをしてきた料理長は、やっぱり何か勘違いをしているのかもしれない。

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