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逃亡 ~セシル視点~

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 俺は散々泣きはらした。


 途中、看守から冷たい目で見られていることに気づいたが、それすらも俺の涙の材料となった。


 俺は涙が枯れるまで泣き続け、高級な生地で出来た服の袖が濡れてしまった。

 ここには鏡がないから確認は出来ないが、恐らく目も真っ赤に腫れていることだろう。


 普段なら、泣くことは男の恥だと思っていたが。

 皮肉にも今回の件で、俺は自分でその枷を外すことが出来た。


 俺は俺を、許すべきだったのだ。


 看守の冷酷な視線を感じながら、俺は脳内で次の行動について考えを巡らす。


 出て行こう、ここから。

 今すぐにでも。


 俺は完全なる被害者で、こんな汚い牢獄に放り込まれるようなことはしていないはずだ。

 それなのにも関わらず、両親は全部俺のせいにした挙句俺を捨てようとしている。


 あんな両親の元で暮らす気はさらさらない。

 第一王子だの、次期国王だの、もはやどうでも良い。


 俺は俺のために生きよう。


 だが、この状況でここから脱出するのは不可能に近い。

 よほど俺を嫌っているのか、両親は交代制で四六時中俺に看守をつけている。


 完全に特別扱いだ。


 彼らが常に目を光らせているせいで、俺は脱出の糸口を掴めない。


 そもそもこの牢獄は石壁で出来ており、窓もない。

 つまり、出口は目の前にある鉄格子だけだ。


 俺に鉄格子を破る力なんかはないから、当然出て行くには鍵が必要。

 つまり、鍵を看守から奪わなければ、俺はここから出られずに公爵家の慰み者となるわけだ。


 当然俺1人で出来る芸当ではない。


 俺は自分の交友関係の中から、この逃亡計画を手伝ってくれる者を探した。


 学園の友達は駄目だ。

 あいつらにそんな人を思う気持ちがあるとは思えないし、そもそも身分的にここへ来れるような連中ではない。

 レナもそうで、スカーレットに至っては俺をいたぶろうとしている連中のうちの1人だ。


 誰も俺に協力してくれる者などいない――。

 いや、1人だけいた。


 1人、俺と長い付き合いのある友人がいたのを思い出す。

 最近は学園の連中とつるんでいたせいでそこまで関わってこなかったが。


 あいつなら、俺を助けてくれるはずだ。


「おい」

 俺は看守に声をかけた。


 看守は面倒くさそうな顔を隠そうともせず、俺の方に視線を向ける。


「なんですか?」

「ウォルターを、ウォルター公爵子息を読んでこい。あいつは俺の従者だ」




 
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