95 / 135
逃亡 ~セシル視点~
しおりを挟む
俺は散々泣きはらした。
途中、看守から冷たい目で見られていることに気づいたが、それすらも俺の涙の材料となった。
俺は涙が枯れるまで泣き続け、高級な生地で出来た服の袖が濡れてしまった。
ここには鏡がないから確認は出来ないが、恐らく目も真っ赤に腫れていることだろう。
普段なら、泣くことは男の恥だと思っていたが。
皮肉にも今回の件で、俺は自分でその枷を外すことが出来た。
俺は俺を、許すべきだったのだ。
看守の冷酷な視線を感じながら、俺は脳内で次の行動について考えを巡らす。
出て行こう、ここから。
今すぐにでも。
俺は完全なる被害者で、こんな汚い牢獄に放り込まれるようなことはしていないはずだ。
それなのにも関わらず、両親は全部俺のせいにした挙句俺を捨てようとしている。
あんな両親の元で暮らす気はさらさらない。
第一王子だの、次期国王だの、もはやどうでも良い。
俺は俺のために生きよう。
だが、この状況でここから脱出するのは不可能に近い。
よほど俺を嫌っているのか、両親は交代制で四六時中俺に看守をつけている。
完全に特別扱いだ。
彼らが常に目を光らせているせいで、俺は脱出の糸口を掴めない。
そもそもこの牢獄は石壁で出来ており、窓もない。
つまり、出口は目の前にある鉄格子だけだ。
俺に鉄格子を破る力なんかはないから、当然出て行くには鍵が必要。
つまり、鍵を看守から奪わなければ、俺はここから出られずに公爵家の慰み者となるわけだ。
当然俺1人で出来る芸当ではない。
俺は自分の交友関係の中から、この逃亡計画を手伝ってくれる者を探した。
学園の友達は駄目だ。
あいつらにそんな人を思う気持ちがあるとは思えないし、そもそも身分的にここへ来れるような連中ではない。
レナもそうで、スカーレットに至っては俺をいたぶろうとしている連中のうちの1人だ。
誰も俺に協力してくれる者などいない――。
いや、1人だけいた。
1人、俺と長い付き合いのある友人がいたのを思い出す。
最近は学園の連中とつるんでいたせいでそこまで関わってこなかったが。
あいつなら、俺を助けてくれるはずだ。
「おい」
俺は看守に声をかけた。
看守は面倒くさそうな顔を隠そうともせず、俺の方に視線を向ける。
「なんですか?」
「ウォルターを、ウォルター公爵子息を読んでこい。あいつは俺の従者だ」
途中、看守から冷たい目で見られていることに気づいたが、それすらも俺の涙の材料となった。
俺は涙が枯れるまで泣き続け、高級な生地で出来た服の袖が濡れてしまった。
ここには鏡がないから確認は出来ないが、恐らく目も真っ赤に腫れていることだろう。
普段なら、泣くことは男の恥だと思っていたが。
皮肉にも今回の件で、俺は自分でその枷を外すことが出来た。
俺は俺を、許すべきだったのだ。
看守の冷酷な視線を感じながら、俺は脳内で次の行動について考えを巡らす。
出て行こう、ここから。
今すぐにでも。
俺は完全なる被害者で、こんな汚い牢獄に放り込まれるようなことはしていないはずだ。
それなのにも関わらず、両親は全部俺のせいにした挙句俺を捨てようとしている。
あんな両親の元で暮らす気はさらさらない。
第一王子だの、次期国王だの、もはやどうでも良い。
俺は俺のために生きよう。
だが、この状況でここから脱出するのは不可能に近い。
よほど俺を嫌っているのか、両親は交代制で四六時中俺に看守をつけている。
完全に特別扱いだ。
彼らが常に目を光らせているせいで、俺は脱出の糸口を掴めない。
そもそもこの牢獄は石壁で出来ており、窓もない。
つまり、出口は目の前にある鉄格子だけだ。
俺に鉄格子を破る力なんかはないから、当然出て行くには鍵が必要。
つまり、鍵を看守から奪わなければ、俺はここから出られずに公爵家の慰み者となるわけだ。
当然俺1人で出来る芸当ではない。
俺は自分の交友関係の中から、この逃亡計画を手伝ってくれる者を探した。
学園の友達は駄目だ。
あいつらにそんな人を思う気持ちがあるとは思えないし、そもそも身分的にここへ来れるような連中ではない。
レナもそうで、スカーレットに至っては俺をいたぶろうとしている連中のうちの1人だ。
誰も俺に協力してくれる者などいない――。
いや、1人だけいた。
1人、俺と長い付き合いのある友人がいたのを思い出す。
最近は学園の連中とつるんでいたせいでそこまで関わってこなかったが。
あいつなら、俺を助けてくれるはずだ。
「おい」
俺は看守に声をかけた。
看守は面倒くさそうな顔を隠そうともせず、俺の方に視線を向ける。
「なんですか?」
「ウォルターを、ウォルター公爵子息を読んでこい。あいつは俺の従者だ」
16
お気に入りに追加
7,089
あなたにおすすめの小説
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
みんなもやってるから浮気ですか?なら、みんながやってるので婚約破棄いたしますね
荷居人(にいと)
恋愛
私には愛する婚約者がいる。幼い頃から決まっている仲のいい婚約者が。
優しくて私だけをまっすぐ見てくれる誠実な人。嫌なことがあっても彼がいればそれだけで幸せな日となるほどに大切な人。
そんな婚約者は学園の高等部になってから変わってしまった。
「すまない!男ならみんながやってることだからと断りきれなくて……次からはしないよ!愛してるのは君だけなんだ!」
誠実から不誠実の称号を得た最初の彼の変化。浮気だった。気づいたのは周りの一部の令嬢が婚約者の浮気で落ち込むのが多くなり、まさか彼は違うわよね………と周りに流されながら彼を疑う罪悪感を拭うために調べたこと。
それがまさか彼の浮気を発覚させるなんて思いもしなかった。知ったとき彼を泣いて責めた。彼は申し訳なさそうに謝って私だけを愛していると何度も何度も私を慰めてくれた。
浮気をする理由は浮気で婚約者の愛を確かめるためなんて言われているのは噂でも知っていて、実際それで泣く令嬢は多くいた。そんな噂に彼も流されたのだろう。自分の愛は信用に足らなかったのだろうかと悲しい気持ちを抑えながらも、そう理解して、これからはもっと彼との時間を増やそうと決意した。
だけど………二度、三度と繰り返され、彼の態度もだんだん変わり、私はもう彼への愛が冷めるどころか、彼の愛を信じることなんてできるはずもなかった。
みんながやってるから許される?我慢ならなくなった令嬢たちが次々と婚約破棄をしてるのもみんながやってるから許されますよね?拒否は聞きません。だってみんながやってますもの。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる