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新しい王 ~フィル視点~

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「は?」


 先ほど俺は、

「お2人には軽口を叩くことが出来ない」

「気をつけなければいけないことが沢山ある」

 と言った気もするが、そんなことを忘れて口をついたのはこの失礼極まりない2文字だった。


「あ、あの……。今なんと?」

「お前が王となって、この国を新しく作り変えてほしいのだ」

「あの、すみません……」

 
 困惑した俺は、

「俺のことでお間違いないのですか?」

 と、まず根本的なことを尋ねた。

「俺は使用人のフィルですが」

「もちろんお前に言っているんだ」


 旦那様は、崩した口調の俺に対して苛立ちを見せることなく、丁寧に答えた。


「フィルが適切だと私たちは考えている」

「ちょ、ちょっと待ってください。俺はただの使用人で、そんな王族なんかに」

「実は昔、お前について調べたことがあるんだ」

「……えっ」


 俺の顔が強張る。


「何を、当たり前のことだろう」

 旦那様は言った。

「お前が貴族の子息であったというのは、お前の口から聞いたことだ」

「それをむやみやたらに信じられるほど、私たちは純粋じゃないわ」

 と、奥様。


 そりゃそうだ。

 貴族だのなんだのは、子どもの戯言に過ぎない。

 それをまるっきり信じたスカーレットお嬢様は大馬鹿だっただけだ。


「いくらスカーレットが懐いているからとはいえ、得体の知れない者を近くに置くわけにはいかない。それはわかるだろう?」

「……はい」

「それにもしあなたが貴族の子息だったとして、それを我が家で使用人として受け入れたとして。それがあなたの両親と我が家の揉め事になる可能性は捨てきれないわよね?」

「ええ」


 ちっとも念頭に置いていなかったわけではない。

 そのことは。


 ある程度成長するにつれ、簡単に俺を使用人として雇ってくれるなんてそんな虫の良い話はないと気づきはじめた。

 当然、俺を雇うまでにそれなりの考えはお2人にはあったのだろうと。


 だが俺は見ないふりをして、ずっとお嬢様に仕えてきた。

 そこに関して触れないでいれば、きっといつもと同じように。


 俺は、お嬢様に仕えるただの使用人として。

 お嬢様だけを想って生きていけると。


「現状の貴族には、フィルと同じ年の子どもがいる家系はなかった」

 と、旦那様。

「そこまでなら良かった――まあ、子どもの戯言で済む話だろうと」

「はい」

「しかし興味深い噂話が耳に入ったのだ」

「……」

「現国王陛下に、実は隠し子がいたらしい。ちょうどセシル殿下とスカーレットの1つ上の御子息が」


 
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