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修羅場②
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それからはもう、まさに修羅場だった。
殿下とレナは、ここが公爵家の屋敷であることも忘れてひたすら相手を罵り続けていた。
信じられない言葉の数々。
聞いたこともない単語が飛び交っている。
「本当最低! 恋人を売ろうだなんて」
「売るとかじゃねぇっつってんだろ! お前だってその男と浮気してんじゃねぇか!」
「だから、浮気じゃないっつってんでしょうが! あんたが私に暴力振るうから、その相談してただけよ!」
「はぁ? キモ。どう考えても狙ってんじゃねぇかよ」
「あんたよりマシですからね」
「俺は第一王子だぞ!」
「知るか」
「だからお前なんかさっさと捨てれば良かったのに。こんなおぞましい女を一時的にでも抱かなくちゃいけなかったのは、俺の人生の最大の汚点だよ」
「うるさいわね! 下手くそのくせに。あんた3分も持たないじゃないの!」
「誰が下手くそだ! お前がマグロなんだろうが」
もっとも、汚点はたくさんあると思うけど。
そう、例えば。
ここが元婚約者の家で、その友人がしっかりと聞き耳を立てているところで痴話喧嘩をしている今の状況とか。
ティファニーはもっともらしい顔で、うんうんと頷きながら手元の紙に書きつけている。
彼女は生徒会の書記を任されているのだ。
「なるほど、マグロね……。3分しか持たない下手くそ、と」
ティファニーの声を聞いた瞬間、2人は目に見えて固まる。
まるで、初めて彼女がここにいるのを知ったかのような反応だ。
「マグロって何?」
私はフィルに聞いた。
「魚の話じゃないわよね?」
「お嬢様が耳に入れて良い言葉じゃねぇよ」
フィルは答えた。
「公爵令嬢がそんなはしたないことを知る必要はない」
「あら、そうなの」
私は肩を竦めた。
「ティファニー、そんな言葉口にしちゃいけないみたい」
「そうねー」
ティファニーは上の空で答える。
「まさか全く関係のない元婚約者の家で揉めている王子様が、そんな汚い言葉使っちゃうだなんてあっちゃならないものね」
「確かにそうね」
「い、いやちょっと待て」
殿下はティファニーにじりじりと近づこうとする。
「お前、それどうするつもりだ?」
「どうするって?」
ティファニーは可愛らしく小首を傾げた。
「ああ、この紙のことです?」
紙にはしっかりと、「生徒会役員報告書」と書かれている。
「お前、まさかそれ」
「うふふ」
彼女は不敵に微笑んだ。
だが、肝心なことは何も言わない。
「お前……。それを寄越せ!」
「きゃあ!」
殿下がティファニーに飛びかかった。
ティファニーは叫び、紙を抱きしめるようにして床に転がる。
「貴様……!」
殿下が彼女に馬乗りになろうという瞬間。
私は叫んだ。
「誰か、誰かぁ! 殿下がティファニーに乱暴を! 早く来て!」
殿下とレナは、ここが公爵家の屋敷であることも忘れてひたすら相手を罵り続けていた。
信じられない言葉の数々。
聞いたこともない単語が飛び交っている。
「本当最低! 恋人を売ろうだなんて」
「売るとかじゃねぇっつってんだろ! お前だってその男と浮気してんじゃねぇか!」
「だから、浮気じゃないっつってんでしょうが! あんたが私に暴力振るうから、その相談してただけよ!」
「はぁ? キモ。どう考えても狙ってんじゃねぇかよ」
「あんたよりマシですからね」
「俺は第一王子だぞ!」
「知るか」
「だからお前なんかさっさと捨てれば良かったのに。こんなおぞましい女を一時的にでも抱かなくちゃいけなかったのは、俺の人生の最大の汚点だよ」
「うるさいわね! 下手くそのくせに。あんた3分も持たないじゃないの!」
「誰が下手くそだ! お前がマグロなんだろうが」
もっとも、汚点はたくさんあると思うけど。
そう、例えば。
ここが元婚約者の家で、その友人がしっかりと聞き耳を立てているところで痴話喧嘩をしている今の状況とか。
ティファニーはもっともらしい顔で、うんうんと頷きながら手元の紙に書きつけている。
彼女は生徒会の書記を任されているのだ。
「なるほど、マグロね……。3分しか持たない下手くそ、と」
ティファニーの声を聞いた瞬間、2人は目に見えて固まる。
まるで、初めて彼女がここにいるのを知ったかのような反応だ。
「マグロって何?」
私はフィルに聞いた。
「魚の話じゃないわよね?」
「お嬢様が耳に入れて良い言葉じゃねぇよ」
フィルは答えた。
「公爵令嬢がそんなはしたないことを知る必要はない」
「あら、そうなの」
私は肩を竦めた。
「ティファニー、そんな言葉口にしちゃいけないみたい」
「そうねー」
ティファニーは上の空で答える。
「まさか全く関係のない元婚約者の家で揉めている王子様が、そんな汚い言葉使っちゃうだなんてあっちゃならないものね」
「確かにそうね」
「い、いやちょっと待て」
殿下はティファニーにじりじりと近づこうとする。
「お前、それどうするつもりだ?」
「どうするって?」
ティファニーは可愛らしく小首を傾げた。
「ああ、この紙のことです?」
紙にはしっかりと、「生徒会役員報告書」と書かれている。
「お前、まさかそれ」
「うふふ」
彼女は不敵に微笑んだ。
だが、肝心なことは何も言わない。
「お前……。それを寄越せ!」
「きゃあ!」
殿下がティファニーに飛びかかった。
ティファニーは叫び、紙を抱きしめるようにして床に転がる。
「貴様……!」
殿下が彼女に馬乗りになろうという瞬間。
私は叫んだ。
「誰か、誰かぁ! 殿下がティファニーに乱暴を! 早く来て!」
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