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突入
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「えっ、何? どういうこと?」
とフィルに尋ねる前に、事態は起こった。
「フィル?」
甘ったるい声で彼の名前を呼ぶ女が、教室に突入してきたのだ。
その生徒には見覚えがあった。
「……」
「……」
「……」
向こうも私たちに気づいたのか、一瞬顔を強張らせる。
気まずい沈黙がしばし続いた。
ティファニーが最初に口を開く。
「……ここ、私たちの教室だけど」
「あ、そう」
先ほどとは打って変わり、冷たい声色でそう言い放つ女子生徒――レナ。
「あんたたちの教室だろうがなんだろうが、勝手でしょ」
「よその教室に入るときは、きちんと挨拶してからって教わらなかったかしら?」
ティファニーとレナは、互いに睨み合う。
この2人、生徒会の忠告以来の再会だが。
多分物凄く相性が悪いのだろう。
「は? そんなルールどこにあるのよ。校則にでも書いてあるの?」
「マナーよ。この学園で過ごすうえで必須の項目」
「マナー? ……馬鹿馬鹿しい。あんたってマナー講師なの? そんな校則に書いてないこと私に押しつけないでよ」
「私、生徒会なんだけど」
「へぇ。生徒会って生徒の言動規制したりするんだー。こわーい(笑)」
「あら、ごめんなさい。怖かったかしら。やっぱり庶民の方には難しい話だったのね。どう指導すれば良いのか困っちゃうわねー」
「……は?」
「あら何? お気に召さなかったかしら?」
私はため息をついた。
これじゃ埒が明かない。
平穏な昼食の時間を守るためにも、ここは私が介入しなければ。
「それで、一体どうしたの? こんなところまで来て」
「あんたには関係ないでしょ?」
「関係なくはないでしょう。だって私のクラスメイトの名前を呼んでたもの」
「……」
レナは苦虫を噛み潰したような顔で、一瞬黙り込んだ。
私たちに話しても良いのか悩んでいるらしい。
「……男子生徒見なかった?」
「男子? 誰?」
「フィルっていう人よ。イケメンで、あんたたちが声すらかけられないような人」
実際は私に仕えている使用人だが、彼女は何も知らないらしい。
「ああ、フィルね。さっき戻ってきたわよ」
「えっ、本当!?」
「ええ。でもあなたと入れ違いね。教室に忘れ物したらしくて取りに戻ってきたんだけど、すぐに出て行ったわ。多分友達と合流してどこかに遊びに行くんじゃないかしら? 昼休みはよくテニスコートで見かけるし」
「あらそう」
彼女はお礼を言わないまま、扉を閉めることもないまま教室を出て行く。
その楽しそうな、今にもスキップしそうな軽い足取りを見送ったあと、私はゆっくりと教室の扉を閉じた。
「……で、フィル」
私は振り返る。
「何があったの?」
とフィルに尋ねる前に、事態は起こった。
「フィル?」
甘ったるい声で彼の名前を呼ぶ女が、教室に突入してきたのだ。
その生徒には見覚えがあった。
「……」
「……」
「……」
向こうも私たちに気づいたのか、一瞬顔を強張らせる。
気まずい沈黙がしばし続いた。
ティファニーが最初に口を開く。
「……ここ、私たちの教室だけど」
「あ、そう」
先ほどとは打って変わり、冷たい声色でそう言い放つ女子生徒――レナ。
「あんたたちの教室だろうがなんだろうが、勝手でしょ」
「よその教室に入るときは、きちんと挨拶してからって教わらなかったかしら?」
ティファニーとレナは、互いに睨み合う。
この2人、生徒会の忠告以来の再会だが。
多分物凄く相性が悪いのだろう。
「は? そんなルールどこにあるのよ。校則にでも書いてあるの?」
「マナーよ。この学園で過ごすうえで必須の項目」
「マナー? ……馬鹿馬鹿しい。あんたってマナー講師なの? そんな校則に書いてないこと私に押しつけないでよ」
「私、生徒会なんだけど」
「へぇ。生徒会って生徒の言動規制したりするんだー。こわーい(笑)」
「あら、ごめんなさい。怖かったかしら。やっぱり庶民の方には難しい話だったのね。どう指導すれば良いのか困っちゃうわねー」
「……は?」
「あら何? お気に召さなかったかしら?」
私はため息をついた。
これじゃ埒が明かない。
平穏な昼食の時間を守るためにも、ここは私が介入しなければ。
「それで、一体どうしたの? こんなところまで来て」
「あんたには関係ないでしょ?」
「関係なくはないでしょう。だって私のクラスメイトの名前を呼んでたもの」
「……」
レナは苦虫を噛み潰したような顔で、一瞬黙り込んだ。
私たちに話しても良いのか悩んでいるらしい。
「……男子生徒見なかった?」
「男子? 誰?」
「フィルっていう人よ。イケメンで、あんたたちが声すらかけられないような人」
実際は私に仕えている使用人だが、彼女は何も知らないらしい。
「ああ、フィルね。さっき戻ってきたわよ」
「えっ、本当!?」
「ええ。でもあなたと入れ違いね。教室に忘れ物したらしくて取りに戻ってきたんだけど、すぐに出て行ったわ。多分友達と合流してどこかに遊びに行くんじゃないかしら? 昼休みはよくテニスコートで見かけるし」
「あらそう」
彼女はお礼を言わないまま、扉を閉めることもないまま教室を出て行く。
その楽しそうな、今にもスキップしそうな軽い足取りを見送ったあと、私はゆっくりと教室の扉を閉じた。
「……で、フィル」
私は振り返る。
「何があったの?」
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