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「で、あの」


 私は尋ねた。

「ご用件は?」


「フン」

 殿下は鼻で笑うと、私の周りをぐるりと1周した。


「どうやら、1人のようだな」

「はあ」


 何を言ってるんだ、この人。

 どこからどう見ても、そうにしか見えないだろう。


「あの女はどうした?」

「あの女?」

「生徒会役員の女だ」

「ああ、ティファニーのことですか。彼女なら生徒会の仕事があるとかで、今はいませんけど」

「へえ、そうか」


 殿下はなぜかずっとニヤニヤしている。


「ふうん」

 隣にいる女性も、殿下と一緒にニヤついている。


「あの……」

 私は訝しく思って尋ねた。

「本当になんのご用なんです? 何もなければ、私教室に戻りたいのですけど」


 何がしたいのかまったくわからないが、私を馬鹿にしたいのだけはなんとなくわかる。

 馬鹿にしたいなら馬鹿にしたいで何か言ってくれないと、私もどういう反応をすれば良いのかわからない。


「お前はいつも1人だな」

 殿下は言った。

「1人寂しい人なのね」

 殿下の恋人も言う。


「はあ」

「俺にはもう相手がいるぞ」

「そうなんですね」

「こいつとは良い関係なんだ。次の王妃にしてやっても良いと思っている。スカーレット、お前と違ってこいつは王妃の素質もあるからな」

「良かったですね」


 なんともまあ、要領を得ない話だ。


「あなたは、どんな気持ちなんです?」

 女生徒は言った。

「え?」

「殿下に捨てられて、相手もおらず、ひとりぼっちで惨めに生きている気持ち、私には想像もつきませんわ」

「はあ」

「……」

「……」

「……」

「……」


 えっ、何?

 話ってそれだけ?


 私がよくよく観察すると、2人とも私の反応を心待ちにしているようだった。


「ええっと」


 私は困惑気味に答えた。


「婚約関係でもなんでもない女性に対して、『スカーレット』と呼び捨てにするのは無礼ですよ。親しい関係ならまだしも、を呼ぶ際は、下の名前ではなくファミリーネームを使ってください」
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