そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

事件

　国王夫妻に報告もしたし、あの方々も婚約破棄を許可してくれた。


　これでおしまい。

　後処理が終わったあとは、正式な発表を待ちながら新しい婚約者でも探そうかしら。


　なんてぼんやり考えていたのだが。


「なんで父上と母上に話したんだ！？」

「えっ」

「なぜそんなことをする！？　お前は相変わらずだな」

「はぁ……」


　何が気に食わなかったのだろうか。


　なぜか私は、元婚約者であるセシル殿下に怒られてしまった。




　その事件が起こったのは、学園内でのことだった。


「スカーレットはいるか」


　突然教室に入ってきた殿下は、ティファニーの、

「婚約者でもない女性を気軽に呼ぶのは失礼じゃありませんか？」

　という言葉を無視して、私の腕を掴んだ。


「ひっ」

「来い」


「ちょっと！」


　ティファニーが止めようとするが、当然女性2人でも男性1人の力に勝つことは出来ない。


　私はあれよあれよという間に、人気の少ない廊下の角に連れて行かれてしまった。


「なぜそんなことをするんだ？」


　私は困惑した。


　そんなことって言われても。

　殿下の言う意味がわからない。


「婚約者同士の、俺たち同士の揉め事だろう。それをわざわざ父上に話すだなんて、お前は本当に卑怯だな」


「そう言われましても……」


　私が悪いのか？

　いや、そんなことはない。

　絶対に。


「婚約破棄は陛下に許可をいただく必要がありますし。それに、陛下や王妃様にはいつもお世話になっておりましたから。報告するのは当然では？」

「やり過ぎだろう」

「何がですか？」

「たかが喧嘩くらいで、なぜそういう話になるんだ？」


　……は？

　何を言っているんだ、この人は。


「あの、たかが喧嘩とは？　確かにあの日、殿下は私に、

『別れてくれ』

　と言いましたよね」


「あれは冗談に決まってるだろ。お前は馬鹿か？」


　私は絶句した。


　頭が痛くなった。


　この人の思考回路が、全く読めない。

　何をしたいんだろうか。


「ともかく、父上と母上には誤解だと伝えておいたからな」

　殿下は憤慨しながら言った。

「これからは、こんな意地の張った行いをするんじゃないぞ」


　唖然としている私を他所に、殿下はその場を立ち去って行った。