そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

話

「それで」


　私はセシル殿下に顔を向ける。

「一体なんのご用でしょうか？」


「わかってるだろ」

　セシル殿下は吐き捨てるように言った。

「前の話だ」


　やっぱり。


　ヌルッとした何かが、じわじわと私の身体を侵食していくような感じがする。


　やっぱり、あの話だったか。


「お前、マジで何様のつもり？」


　セシル殿下は、非常にご立腹だった。

「俺が誰と仲良くなろうが勝手だろ」

「でも」

「でもじゃねぇよ。しかも何が悪いってお前、自分の友達に言わせてんのかよ」

「それは……」


　それは、ティファニーが言ってくれるって。

　というのは、言い訳にしか聞こえないだろう。


「俺に何も言えないからって、ビビって友達にそれ押しつけるとか。恥ずかしくねぇの？」

「……」

「俺は恥ずかしいよ。お前のせいで恥をかかされて」


　ここでふと、頭に疑問が浮かぶ。


　恥？

　恥ってどういうこと？


　私が殿下に恥をかかせてるって？


　それは違う気がするんだけど。


「お前がちゃんとしないから、ティファニーとかいう令嬢に恥をかかされたんだろうが」


　一度何かに引っかかると、そこからどんどんと疑問点が生じてくる。


　恥をかかされたのが、なんで私のせいになっているんだろうか。


「あーあ。最悪。なんでちゃんとしないお前が俺の婚約者なんだろ」


　ちゃんとしない？


　私は頑張ってる。

　昔から、殿下のために血のにじむような努力をしてきたのに。


「お前、本当に婚約者としての自覚ある？」

「……」

「俺は俺の意思で生きていきたい。婚約者であるお前は、それを応援する義務がある」

「……」

「それなのにお前は、自分の友達に頼んでまで俺を矯正させようとしてくる。言いたいことがあるなら、面と向かって言えよ」

「……」

「何？　だんまりか？　……お前さあ。ずっとそういうガキみたいなことすんなら」


　とうとう、殿下は言い放った。


「別れるぞ」


　その瞬間、頭の中で何かがブチッと切れる音がした。