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呼び出し

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 次の日、私は殿下に言われた通り、城へ向かった。


 婚約者として相応しいシルクのドレスに、彼から誕生日にプレゼントしてもらったシルバーアクセサリー。

 手には、昨日の夜フィルが用意してくれた手土産を持っている。


 公爵家が所有する馬車に乗りながら、私はなぜ今日呼び出されたのかについて考えていた。


 ここしばらくは、王族が開く誕生日パーティなどの催し物も、国を挙げてのイベントもない。

 何か国に重大な問題が生じていたとしても、王子の婚約者でしかない私をわざわざ呼びつけて相談するはずもない。

 ただ殿下が私に会いたいだけと言うのなら、こんなふうな無礼なことはせず、きちんとした手順を踏んで手紙を送ってくれることだろう。


 わざわざ殿下が、あんな手紙を送ってまで至急私を城に呼んだ理由は、一体なんなのだろうか。


 ……多分、先日の話のことだろう。


 ティファニーに散々怒られて、「ダサい」と罵られたあの日。

 物凄くショックを受けていた殿下をフォローせず、私はあの場から彼女と一緒に立ち去ってしまった。


 その後少し後悔したが、ティファニーに、

「甘やかし過ぎ」

 と、言われてしまったことを思い出し、あえて殿下を放置していた。


 そのことについて、何か言われるのかもしれない。


 ゆっくりと、内臓が冷えていく心地がする。


 もしかすると、怒られるのかもしれない。

 婚約者としての責務を果たさなかったと、お前は酷いことをしたと言われるかもしれない。


 どうしよう。

 怖い。


 ……いえ、考えるのは止しましょう。


 私が殿下をフォローしなかったのは事実だし、もし叱られたら、甘んじてそれを受け入れる。

 そのうえで、殿下に改めて、第一王子としての自覚を持ってほしいと伝えよう。


 私が真摯に向き合えば。

 嫌がられるのを恐れずに、ちゃんと婚約者として意見を伝えれば。


 殿下もきっと、私の言葉に耳を貸してくれるだろう。


 私は深呼吸をし、背筋をまっすぐに伸ばした。




 城についた私を出迎えてくれたのは、殿下ではなく、彼の従者兼友人である公爵子息ウォルターだった。


 彼は既に学園を卒業しており、宰相を継ぐために城で日々下積みをしているそう。

 ウォルターは殿下の幼いころからの友人であり、学園の彼らとは違った紳士的な性格で、社交界のご令嬢たちから熱い視線をひと手に受けている貴公子である。


「ごきげんよう、スカーレット嬢」


 彼は美しい笑顔を浮かべ、優雅に一礼する。

「ごきげんよう、ウォルター様――殿下はどちらに?」

「……殿下は部屋でお待ちです。代わりに、私があなたのお出迎えを」

「……そう」


 婚約者を呼びつけておいて、迎えに来ないのか。

 今日のこれも、きっちり話をしておかなければ。


「ごめんなさい。お忙しいところなのに、迎えに来ていただいて」

「いえ、スカーレット嬢はお気になさらないでください。従者としての務めですから――では、殿下の部屋までご案内いたします。お手をどうぞ」


 ウォルターは、流れるような仕草で私に手を差し出す。

「ありがとうございます」


 私がその手を取ると、ウォルターは私を城内までエスコートしてくれた。

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