身に覚えのない浮気が原因で婚約破棄されました

浮気

「……待て待て待て待て」


　ユージーンは片手で私を制し、もう片方の手で頭を抱えた。

「どういうことだ？」

「だから」


　私は先ほどと同じ言葉を伝える。

「あんたと私が浮気してるって、今言い触らしてんのよ。殿下とリリオーネが」

「は？　な、なんで？」

「私が邪魔だからじゃないの？」


　完全に手持ち無沙汰になっている教師。

　私は彼に、

「すみません、変なことに巻き込んじゃって」

　と、声をかけた。

「い、いや……。大丈夫だ」


　教師は、先ほどの私の本性を知ってしまったせいか、酷く怯えていた。


「邪魔だからって、そんな馬鹿みたいな理由で？」

「そういう馬鹿みたいな理由で行動するのが、あの人たちなのよ」


　いい加減立ちっぱなしは疲れたので、私はその辺にあった椅子に腰かけた。


「……で」


　なぜか、ユージーンは顔が赤い。

「き、君はなんて答えたんだ？」

「もちろん、

『なわけないでしょ』

　よ。だって私、あなたのこと腹立つ以外にどうも思ってないし」

「そ、そうか。そりゃそうだよな……」


　ユージーンは目を伏せた。

「えっ、何？　何か文句でもあるわけ？」

「い、いや、なんでもない……。それにしても、2人の発言はいささかひど過ぎるな」


　ユージーンは話を元に戻した。

「友人でもない僕らが浮気しているだなんて」

「ええ、本当にそうよ」


　私は同意する。

「でね、信じていない人が大半だけど。いです信じちゃってる人がいるから、それをどうにかしたいわけ」

「経歴に傷がつくから？」

「ええそう。別にあなたとの噂が広がるはどうでも良いけど、私は一応あの馬鹿王子の婚約者なの。あなただって、噂が広まったら困るでしょ？」

「い、いや……。僕は別に」

「えっ？　なんて？」

「困るね」

「でしょ！？」


　私は彼の机を両手で叩いた。

「だから、協力しましょう。私とあなたは付き合ってないってことを証明するのよ」

「……停戦ってことかい？」

「ええ。癪だけどね」

「そうだな。癪だが、今回は仕方がない」


　私たちは頷き合い、協定の証として握手を交わした。