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戦地 ~ウィリアム視点~

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 早急に準備させ、私も自分の馬を用意する。


「殿下」

 先ほど、私にテントで待機しろと言った部下が近づいてきた。

「なんだ?」

「殿下は後列で、指示出しをお願いいたします」

「なんだと?」


 私は奴を睨みつけた。

「恐れながら申し上げます。殿下には前線に出ないでいただきたいのです」

「お前、誰にものを言っているのかわかってるのか!?」


 私の剣幕に驚く部下。

「で、ですが。殿下は大事な――」

「良いか」

 私ははっきりと言う。

「私は私の責任を取る。この戦争を起こしたのは私だ。だから、私が先陣を切るべきなのだ」

「「「おおー」」」

 感嘆の声を漏らす兵士たち。


 私は胸を張る。


 これが私の本心だ。


 前線に立ち、私は華々しい勝利を飾る。

 そうすれば、意気揚々と私はソフィアを奪還し、かつ私の元から去った連中を見返すことが出来るのだ。


「さすが殿下だ」

「素晴らしい!」


 などというふうに、士気が上がる軍隊。

「……」


 苦言を申し立てた部下は、不服そうな顔をしているが、私はそれを無視した。

「よし!」


 私は馬に乗り、みんなに命令する。

「私は先に行く! お前たちは後に続け!」




 私たちは、相手方の兵士たちが集う最前線の基地にまで、一気に押し寄せた。

 私は剣と盾を装備し、ほかの者は銃を抱えている。


 このまま乗り込めば、すぐに公爵領を占領出来る。

 そう思っていた。


 ――しかし。

「な、なんだあれは?」

 騒めく我が軍。

「おい!」


 私は部下を呼び止めた。

「あんなもの、報告にはなかったぞ」

「は、はい!」


 みなと同じく、部下も焦りの表情を見せる。

「さ、先ほど確認したときにはなく」


 一体どういうことなのだろうか。


 私は、目の前の光景を見て途方に暮れる。


 眼前にそびえ立つのは、巨大な山だった。

 領地を取り囲むようにして、馬さえ登れないほどの急な山が作られていたのだ。

 まさに、絶壁。


 その山から顔を出すのは、大砲の先である。

 無数にある砲身が、すべて我々に向けられていた。


「ひっ」

 私の口から、悲鳴が零れる。

「殿下!」


 兵士が叫んだ。

「ご指示を!」

「わ、わかった……」


 私は咳払いをする。

「攻撃はじ――」


 ドゴォォォオオオオオオン!


 轟音が響き渡る。


 突風が正面から吹いた。


 肝がサーッと冷たくなる。


 あっ。

 これは……。


 ゆっくりと私は後ろを振り返った。


「ひぃっ」


 少し離れた場所に、大穴が空いていたのだ。

 砲弾がシューッと音を立てて蒸気を発する。


 先ほどまでなんの音沙汰もなかった恐怖が、どっと押し寄せてきた。


 心がぽっきりと折れる。


 あっ、これ。

 無理だ。
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