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登校

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 私はルークと一緒に、馬車に乗って登校する。


 前学期とはあまり変わらない構図ではあるのだが、変わったのは私のルークの関係性だ。


 晴れて婚約者同士となった私たちは、正式に2人っきりになることを許された。


 私はぼんやりと窓の外を眺める。


 いつも通りの光景だ。

 久しぶりに見るそれは、学校始まることに対する少しの憂鬱さと友人に会える嬉しさが交じり合って、変にキラキラして見えた。


 憂鬱なのは、勉強することへの面倒くささから来るものだ。

 決して、前にあったような人間関係の揉め事に起因する感情ではない。


 そのことが、とても幸福に感じる。


 まだまだあの2人との間の問題は解決しないだろうけど、殿下は卒業し、クロエ嬢は殿下と結婚して学園から去った今、少なくとも学校で彼らに絡まれたり迷惑を被ったりすることはないはずだ。


 私は目の前のルークを盗み見る。

 彼は先ほどまでの私と同様、じっと外を見つめていた。


 その柔らかな表情を見て、私は胸が少しドキドキするのを感じた。


 恋、か。


 しみじみと思う。


 最近考えていることが1つ。


 私は殿下のことを好きではなかったのかもしれない。

 ルークに対するこの感情が恋なのであれば、私はこの気持ちを、ウィリアム殿下には一度も感じたことはなかった。


 もしかして、私が殿下に常日頃感じていたあの気持ちは、ただの親愛だったのかもしれない。


 確かに愛情はあった。

 でも、それは「婚約者」として、「第一王子」に対する尊敬の念だ。


 きっと私は、殿下を婚約者として愛していたのだろう。

 殿下を好きだったのではなく、殿下が私の婚約者だったから好きだったのだと思う。


 この両者は似ているようで、かけ離れた感情だ。


 私だって、殿下とそう変わらない。


 結局は、殿下も私も相手のことをただ1人の人間として見ていなかった。

 だから、こんな悲劇が起こったのだ。


 私は婚約者だったのに、彼の苦しみをわかってあげられなかった。

 だから、殿下は私ではなくクロエ嬢を選んだ。


 殿下もまた、私を私個人ではなく、自分を愛してくれる婚約者としてしか見ていない。


 今も昔も。


 彼はきっと私のこともクロエ嬢のことも好きではなく、自分が一番好きなのだ。

 自分のことを愛してくれる人が好きなんだ。


「どうした?」

 私の視線に気づいたのか、ルークは尋ねてきた。

「そんなに見ないでくれ。……恥ずかしい」


 彼は少し顔を赤らめる。


 私はそんな彼が愛おしく感じ、くすくすと笑った。

「なんでもないわ。考え事をしてただけなの」

「そうか」


 ルークは隣の席をポンポンと叩いた。

「おいで」

「うん」


 私は席を移動し、ルークの隣に座る。


 彼は私の腰に手を回し、引きつけた。

 そのまま唇を重ね合わせる。


 私は目を瞑った。

 暗闇の中で、ルークの体温だけが私の身体に染み渡る。


 少し唇を離して、ルークは言った。

「……早く結婚したい」

「今すぐ?」

「ああ」

「早くないかしら」

「早いことに越したことはない――ようやく、長年恋い焦がれていた君が俺の方を向いてくれたんだ。君の気持ちが変わらない前に」

「私は変わらないわよ」

「ああ、わかってる。でも不安なんだ」


 私はルークの頭を優しく撫でた。

「心配しないで、私はあなたの傍にいるわ。ずっとね」

「……ありがとう」


 私は微笑んだ。

「こちらこそありがとう。私を救ってくれて」


 私たちは、どちらかともなくもう一度唇を重ね合わせた。



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