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「えっ?」
私は驚愕した。
「なんて?」
「ウィリアム殿下が、あなたにお会いしたいと」
「私に? どうして?」
「……さあ」
私は殿下に何かしでかしたのだろうか。
だが、一切私にそんな覚えなどなかった。
そもそも、今は春休みだ。
もう彼の婚約者ではない私が、殿下と関わる機会なんてない。
「お父様とお母様は?」
「出かけておられます」
と、ジェーン。
「そう……」
「もしお嫌でございましたら、お断りすることも可能ですが」
「いいえ、駄目よ。それは」
私は立ち上がった。
「彼は第一王子なのよ。そんな人を、お父様とお母様のご了承なしに追い出すことは出来ない」
それを不快に思われてしまえば、私たちの家が取り潰しになるかもしれない。
「少し待っていてと伝えて。着替えるわ」
「承知いたしました」
私はすぐさまドレスに着替え、下に降りる。
殿下がいるのは、1階の応接間だ。
殿下は1人で来られているようで、見たところ彼の世話係さえいない。
向こうは既に既婚者で、私には婚約者がいる。
2人きりで会うのは危険なので、ジェーンに同席してもらうことにする。
「ようこそ」
私は殿下に声をかけた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
私は殿下の前のソファに座る。
指を組んで座っていた殿下は、顔を上げて私の方を見た。
「久しぶりだな」
「お久しぶりでございます」
私は軽く礼をする。
「本日はどのようなご用件で?」
私はもう一度訪ねた。
殿下はふっと笑う。
「せっかく私が来たというのに、話を手短に済ませたいようだな」
「失礼に思われたら、申し訳ございません。ですが、殿下はもう結婚なされている身でございますし、私はルークと昨日婚約いたしました。こうやって気軽に屋敷にお越しいただかれても、正直困ってしまいます」
私が苦言を申し入れても、殿下はそれに特に反応することはなく、屋敷をキョロキョロと見渡した。
「久しいな。私が君の婚約者だった半年前に、来たきりだ」
「そうでございますね」
私は相槌を打つ。
「あの頃は、君と結婚するとばかり思っていた」
「そうですか」
「君はどう思っていたんだ?」
何が言いたいのだろう、この人は。
私は顔をしかめる。
彼がなぜそのような話をするのか、まったく意図が読めない。
「確かに、当時は私もそう思っておりました」
私は、「当時」という言葉を強調する。
「そうか」
殿下は言った。
「今はどうだ?」
「は?」
私は困惑する。
「今ですか?」
「ああそうだ。今だ。君は今、私のことをどう思っているんだ?」
私は助けを求めて、ジェーンに視線を向ける。
だが彼女も、殿下のおっしゃる意味を良くわかっていないようで、困ったような表情を浮かべていた。
「今、ですか……?」
私は答える。
「殿下は、第一王子です。この国を引っ張っていただける存在かと」
「そういうことではない。私のことを、どう思っているのかと聞いているんだ」
「……どういう意味でしょうか?」
殿下はため息をついた。
「君がそこまで鈍感だとは思っていなかったよ」
仕方がない、と、殿下は私の手を取った。
「殿下、お辞めください」
私は彼の手を振り払おうとするが、力の差のせいで出来ない。
「ソフィア」
殿下は、まっすぐ私の顔を見つめた。
「もう一度、私とやり直そう」
私は驚愕した。
「なんて?」
「ウィリアム殿下が、あなたにお会いしたいと」
「私に? どうして?」
「……さあ」
私は殿下に何かしでかしたのだろうか。
だが、一切私にそんな覚えなどなかった。
そもそも、今は春休みだ。
もう彼の婚約者ではない私が、殿下と関わる機会なんてない。
「お父様とお母様は?」
「出かけておられます」
と、ジェーン。
「そう……」
「もしお嫌でございましたら、お断りすることも可能ですが」
「いいえ、駄目よ。それは」
私は立ち上がった。
「彼は第一王子なのよ。そんな人を、お父様とお母様のご了承なしに追い出すことは出来ない」
それを不快に思われてしまえば、私たちの家が取り潰しになるかもしれない。
「少し待っていてと伝えて。着替えるわ」
「承知いたしました」
私はすぐさまドレスに着替え、下に降りる。
殿下がいるのは、1階の応接間だ。
殿下は1人で来られているようで、見たところ彼の世話係さえいない。
向こうは既に既婚者で、私には婚約者がいる。
2人きりで会うのは危険なので、ジェーンに同席してもらうことにする。
「ようこそ」
私は殿下に声をかけた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
私は殿下の前のソファに座る。
指を組んで座っていた殿下は、顔を上げて私の方を見た。
「久しぶりだな」
「お久しぶりでございます」
私は軽く礼をする。
「本日はどのようなご用件で?」
私はもう一度訪ねた。
殿下はふっと笑う。
「せっかく私が来たというのに、話を手短に済ませたいようだな」
「失礼に思われたら、申し訳ございません。ですが、殿下はもう結婚なされている身でございますし、私はルークと昨日婚約いたしました。こうやって気軽に屋敷にお越しいただかれても、正直困ってしまいます」
私が苦言を申し入れても、殿下はそれに特に反応することはなく、屋敷をキョロキョロと見渡した。
「久しいな。私が君の婚約者だった半年前に、来たきりだ」
「そうでございますね」
私は相槌を打つ。
「あの頃は、君と結婚するとばかり思っていた」
「そうですか」
「君はどう思っていたんだ?」
何が言いたいのだろう、この人は。
私は顔をしかめる。
彼がなぜそのような話をするのか、まったく意図が読めない。
「確かに、当時は私もそう思っておりました」
私は、「当時」という言葉を強調する。
「そうか」
殿下は言った。
「今はどうだ?」
「は?」
私は困惑する。
「今ですか?」
「ああそうだ。今だ。君は今、私のことをどう思っているんだ?」
私は助けを求めて、ジェーンに視線を向ける。
だが彼女も、殿下のおっしゃる意味を良くわかっていないようで、困ったような表情を浮かべていた。
「今、ですか……?」
私は答える。
「殿下は、第一王子です。この国を引っ張っていただける存在かと」
「そういうことではない。私のことを、どう思っているのかと聞いているんだ」
「……どういう意味でしょうか?」
殿下はため息をついた。
「君がそこまで鈍感だとは思っていなかったよ」
仕方がない、と、殿下は私の手を取った。
「殿下、お辞めください」
私は彼の手を振り払おうとするが、力の差のせいで出来ない。
「ソフィア」
殿下は、まっすぐ私の顔を見つめた。
「もう一度、私とやり直そう」
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