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王妃のお茶会①

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 結局、私は王妃様のお茶会に向かうことにした。


 もちろん、つい最近婚約破棄されたばかりなのに、元婚約者の母親の主催するお茶会になんのわだかまりもなく参加出来るほど、私は切り替えが良くなかった。

 しかし、どうしても王妃陛下の行動が不可思議で仕方なく、私はルークと連れ立って行くことにしたのだ。


「大丈夫か?」

 ルークは心配そうに、私に尋ねた。

「ええ。大丈夫よ」

 努めて明るく答える。

「まだ婚約破棄から時間もそんなに経っていないのに。王妃様のお考えが良くわからない」

「私もよーーだからこそ、行かなきゃいけないと思って」


 私たちは時間通りに屋敷を訪れた王族専用の馬車に乗る。


 昔、殿下に会いに良く宮廷へ遊びに行っていたことがあったが、そのときは自分の家の馬車を使っていたので、王族専用の馬車に乗ることは生まれて初めてだった。


「何かがおかしいな」

 ルークは、その端正な顔を歪ませて言った。

「俺も君も、宮廷へ向かう際は自分たちの馬車に乗っていた」

 私は頷く。

「ええーー王妃様は、よっぽど私たちに用があったのね」


 馬車は予定通りの時刻に、宮廷へ着いた。

 その間、私たちは幼馴染らしく、とめどないお喋りをしたーーというわけではなく。

 先だっての告白で、私はどうしてもルークに話題を振ることが出来なかった。


 どんな話をしたとしても、最終的にはあの告白の話に行き着いてしまいそうだったからだ。


 私はまだ彼への返事を決めかねていたし、それを判断するにはもっとたくさんルークのことをちゃんと見る必要があった。

 ルークもそれをわかってくれたのか、無理に私に対して話しかけようともせず、数時間ほど無言のまま、馬車に揺られていたのだ。


「着きました」

 馬車の業者が、扉を開けてそう言った。

「ありがとう」

 扉に一番近いところにいたルークが先に降り立ち、くるりと振り返って手を差し出す。

「さあ、お手をどうぞ」

 私は少し迷って、

「ありがとう、ルーク」

 と、その手を取った。


 宮廷は相変わらず美しかった。

 煉瓦造りの建物は、数百年ほど前に当時の国王が命じて建てさせたものだった。

 大理石の床、等間隔に並べられた細かな装飾の柱たち、無造作に飾られた絵画作品。


 私は今までずっと、ここに住むことを夢見てきたのだった。


 王妃が主催するお茶会は、中庭で行われるらしい。

 中庭に近づくにつれ、私の身体の中に、無意識のうちに緊張が走った。

 それを目ざとく見つけたルークは、何も言わずにそっと、私の手を握った。


 薔薇が咲き誇る中庭の中央に案内される。

 そこにはすでに、真っ白なガーデニングテーブルとチェアが置かれており、テーブルクロスの上には、高級なティーカップやケーキスタンドが置かれている。

 傍には、初老の美しい女性が、凛とした姿勢で立っているのが見えた。


 私は息を飲む。


 王妃様だ。
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