5 / 78
告白
しおりを挟む
私は驚いた気持ちを表に出さないように努めながら返事をした。
「そ、そうだったの……」
「ああ」
しばし、沈黙が流れる。
私は少し悲しくなった。
彼とは長い付き合いだ。
なのに、私は彼が失恋していたことにこれっぽっちも気づいていなかったのだ。
「その子は、」
ルークが話し始める。
「俺が告白をする前に、許嫁が出来てしまった」
「そ、そうなんだ……」
「もちろん、俺が悪いんだ。俺が先に告白しておけば、彼女はそっちに行かなかったのかもしれない。相手を好きにならなかったのかもしれない」
ルークは真剣な眼差しで、一つ一つ力強く言葉を重ねていった。
本気なのだ。
今も、彼女のことが好きなのだ。
「それで、その子は今どうしてるの?」
「その子は今、不幸な目にあっている」
「不幸?」
ルークは目を伏せる。
「ああ。とてつもない不幸だ。彼女は今ものすごく傷ついていると思う」
だから、力になりたいんだ。
ルークは、私の目を見つめながら言った。
「良いと思うわ」
私はなんと返せばいいかわからず、当たり障りないことでしか、彼への言葉は紡げなかった。
「凄く良いと思う。大変なその子のことを、ちゃんと支えてあげるのよ。婚約者なんて関係ないわ」
いいなあ。
眩しいなあ。
私はふと泣きたくなる。
私もルークがその子をずっと好きなように、殿下にそう想われたかった。
私のことを、ずっと好きでいてほしかった。
でも、時は戻らないのだ。
彼は私から離れ、愛らしいクロエ嬢のところへ行ってしまった。
殿下のことを愛していた私を置き去りにしてーー。
また後ろ向きなことを考えてしまい、慌ててそれを払拭するために私は話を続ける。
「それで、その子って私の知っている人?」
「……うん」
「そっか、誰なのかしら」
「ソフィア、君が一番良く知っている人だ」
「私が?」
私は自分の交友関係をリストアップする。
でも、彼と彼女たちが私抜きで会話しているのを見たことがなかった。
「私の友だち?」
「違う」
「じゃあ、私の親戚かしら?」
ルークは首を横に振る。
「違う」
「じゃあ、誰? 降参するわ。全然思いつかない」
「……」
「ルーク?」
ルークは何も言わず、じっと私の顔を見つめている。
「ルーク?」
「ソフィア……」
まさか。
反射的に立ち上がろうとした私の手を、ルークは強く握り締めた。
「逃げるな」
ルークの声はいつも以上に低く、私は身体を硬直させる。
「逃げるな、頼むから」
彼の声は、悲痛に彩られていた。
私はもう一度座り直す。
「ルーク」
「俺が好きなのは、君だ。ソフィア、ずっと前から。君がウィリアム王子と出会う前から。俺は君だけをずっと見てきたんだ」
「そ、そうだったの……」
「ああ」
しばし、沈黙が流れる。
私は少し悲しくなった。
彼とは長い付き合いだ。
なのに、私は彼が失恋していたことにこれっぽっちも気づいていなかったのだ。
「その子は、」
ルークが話し始める。
「俺が告白をする前に、許嫁が出来てしまった」
「そ、そうなんだ……」
「もちろん、俺が悪いんだ。俺が先に告白しておけば、彼女はそっちに行かなかったのかもしれない。相手を好きにならなかったのかもしれない」
ルークは真剣な眼差しで、一つ一つ力強く言葉を重ねていった。
本気なのだ。
今も、彼女のことが好きなのだ。
「それで、その子は今どうしてるの?」
「その子は今、不幸な目にあっている」
「不幸?」
ルークは目を伏せる。
「ああ。とてつもない不幸だ。彼女は今ものすごく傷ついていると思う」
だから、力になりたいんだ。
ルークは、私の目を見つめながら言った。
「良いと思うわ」
私はなんと返せばいいかわからず、当たり障りないことでしか、彼への言葉は紡げなかった。
「凄く良いと思う。大変なその子のことを、ちゃんと支えてあげるのよ。婚約者なんて関係ないわ」
いいなあ。
眩しいなあ。
私はふと泣きたくなる。
私もルークがその子をずっと好きなように、殿下にそう想われたかった。
私のことを、ずっと好きでいてほしかった。
でも、時は戻らないのだ。
彼は私から離れ、愛らしいクロエ嬢のところへ行ってしまった。
殿下のことを愛していた私を置き去りにしてーー。
また後ろ向きなことを考えてしまい、慌ててそれを払拭するために私は話を続ける。
「それで、その子って私の知っている人?」
「……うん」
「そっか、誰なのかしら」
「ソフィア、君が一番良く知っている人だ」
「私が?」
私は自分の交友関係をリストアップする。
でも、彼と彼女たちが私抜きで会話しているのを見たことがなかった。
「私の友だち?」
「違う」
「じゃあ、私の親戚かしら?」
ルークは首を横に振る。
「違う」
「じゃあ、誰? 降参するわ。全然思いつかない」
「……」
「ルーク?」
ルークは何も言わず、じっと私の顔を見つめている。
「ルーク?」
「ソフィア……」
まさか。
反射的に立ち上がろうとした私の手を、ルークは強く握り締めた。
「逃げるな」
ルークの声はいつも以上に低く、私は身体を硬直させる。
「逃げるな、頼むから」
彼の声は、悲痛に彩られていた。
私はもう一度座り直す。
「ルーク」
「俺が好きなのは、君だ。ソフィア、ずっと前から。君がウィリアム王子と出会う前から。俺は君だけをずっと見てきたんだ」
8
お気に入りに追加
6,735
あなたにおすすめの小説
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。
霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。
「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」
いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。
※こちらは更新ゆっくりかもです。
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる