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新しい母

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 えっ。


 頭が真っ白になる。


 えっ……?


 母親?

 母親って?


 ……イヴァンとヘレナ王子妃殿下の母親は、別にいるはずだけど。


「えっ」

 青白い顔の王子妃殿下が尋ねる。

「どういうこと、お父様? お母様は?」


「だから」

 ジェシーの母親は言う。

「私があなたの、新しいお母様よ」

「あなたには聞いていない」

 ヘレナ様はきっぱりと言い放った。


 普段は優しくて穏やかな彼女だが、こんな非常事態にまで他人を気遣う余裕はもちろんない。


「お父様、一体どういうことです?」

「一体どういうことと言われても」

 イヴァンの父親は、平然と彼女に告げる。

「この人の言う通りだ。お前の新しい母親だ。挨拶しろ」


「はぁ? だから、お母様は?」

「離婚した」

「はぁ? 何言って――」


「お、落ち着け。ヘレナ」


 どんどん声を荒げていく王子妃を、なんとか宥めようとするジョシュア殿下。


「とりあえず、お義父上の新しい妻がその者だということはわかった。では、その隣の女性は? 見たところ平民のようだが」


「私もぉ、この人の新しい妻です」


 秘書――新しい妻2は、じぇしーの母親以上に口に唾の残るような声を出した。


「「は?」」


 今度こそ、王子夫妻が固まる。


 は?

 えっ。

 マジでどういうこと?


 私は周囲を見渡し、他の貴族に助けを求めた。

 同じ事を考えていた者が何人かいて、その人たちとばっちり目が合う。


「我が公爵家は、これから一夫多妻制にしていこうと思ってな。彼女は側室で、正妻はこの人だ。ヘレナ、彼女たちに挨拶しろ」


 多分、この会場にいる全員の気持ちが一致したことだろう。


 何言ってんだ、こいつら、と。


 確かに、この国で一夫多妻制を選択している貴族もいる。

 と言うのも、例えば正妻が跡継ぎを産めなかった場合、その家が即刻お取り潰しになる危険性があるからだ。


 妻は政略結婚で相応しい相手を探し、子どもを産ませるのは丈夫な女性を選ぶ、という方法を取っている家も、あることはある。


 だが、この件は暗黙の了解と言った感じで、法的に認められている問題ではない。


 それどころか、妻の他に相手がいるのが周囲に知られるのは、その家にとってとんでもない恥だ。


「女好き」

 というレッテルが貼られてしまう。


 この国では、立場が上であればあるほど高潔でいることが求められる。

 私生活がめちゃくちゃな者は、まともな仕事が出来ないという価値観がそこにあった。


「……嘘」

「ヘレナ! 大丈夫か!」


 あまりのショックに、ヘレナ様はふらついてジョシュア殿下にもたれかかる。


 これはヤバい。

 化け物だわ。

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