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ナンパ

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「今日はお1人なんですか?」


 とうとう、連中は本題に入りだした。

「もしそうであれば、ぜひ私と――」

「いやいや、この私と――」

「いえ。あなたに相応しいのは、この私です」


 私はこの不快さを伝えるかのごとく、思い切りため息をついた。


 あー、もう。

 いい加減にしてほしい。


 私、待ち合わせしてるんだけど。


「いや、あの……」

 私は顔をしかめてはっきりと断る。

「結構ですので」

「何をおっしゃいますやら!」


 だがこの連中が、それだけで引き下がるはずもない。


 彼らにとって、この状況は千載一遇のチャンスなのだ。

 ここで選んでもらえば、出世の可能性が飛躍的に高まる。


「相手がいないんでしょ?」

「行きましょうよ」


 質の悪いナンパかよ。


 私は心の中で毒つく。


 かつて、まだイヴァンと婚約していたころの話。

 イヴァンとジェシーが2人きりの世界に入ってしまい、町の中で1人取り残されてしまった私に、何度かこうして多人数で囲んで、ナンパしてくるような連中がいたのだ。


 あれはあれで、鬱陶しかったけど、

「貴族です」

 と言えば、向こうが察してスッと消えてくれるので、今回の方がよっぽど質が悪い。


 ていうか、

「相手いないんでしょ?」

 という発言はいただけない。


 私、一応公爵令嬢なんですが。

 失礼にも程があるでしょ。


「グレース嬢、ほら」

 そのうちの1人が、私の腕を掴んだ。


 ゾッとして、私はそれを振りほどこうともがく。

「ちょっと! 辞めてくださいってば!」


 しかし、ハハハと笑ってそれに取り合おうとしない貴族たち。

「良いじゃありませんか? ねえ」

「そうそう。今日はパーティだし、楽しみましょうよ。お互いに」


 気持ち悪っ。

 マジで気持ち悪い。


 身震いする私。

 すると突然、私をぐいっと後ろから抱き寄せる者が。


「おっと、遅くなってごめんね。グレース」

 よく知った声を聞いて、私は心底ホッとする。

「……遅いわよ」

「ごめんごめん」

 男――ライナーは笑ってそう言った。

「それより、君たち」


 彼は軽く貴族たちを睨む。

「僕の相手に、何か用かな?」
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