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イヴァンの父親
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イヴァンの父親は、遅刻の言い訳を補強するかのようにわざと肩を大きく上下させ、まるで急いでここまでやってきたかのような素振りを見せた。
そう、素振りだった。
はあ、はあと息を荒げてはいるものの、丸々と太った彼の身体には一筋も汗が垂れておらず、顔も上気していない。
至極普通の様相だ。
「何をしていた?」
イヴァンの父親の不敬過ぎる行動に神経が触ったのか、むっとした顔で国王陛下は尋ねる。
「だから」
はあ、はあとわざとらしく息をしながら、イヴァンの父親は言った。
「道に迷ってしまって」
「お前は公爵で、普段はこの城で働いているはずだ。この宰相と一緒にな。そんな人間が、なぜ道に迷う?」
イヴァンの父親は、国王陛下に向かって棘のある言い方をする。
「ご存じでしょう、陛下。私は方向音痴なのです。何度も言いました通り――それに、今回の件で心を痛めて少し動揺もしているのですよ」
ちらっと私の方を見る。
その気味悪い笑みを見て、私は困惑した。
この人とは何度も会ったことがある。
当然この人の息子は私の婚約者で、幼馴染だ。
婚約者のときは彼の家によく挨拶に行ったし、そうでなくても幼馴染の父親としてよく遊んでもらった記憶がある。
そのときはただの良い人だと思っていた。
こんなふうにマナーのない嫌味な人間だとはこれっぽっちも思っていなかった。
「お前な」
国王陛下は、これ以上責める気はないらしい。
言っても意味がないと踏んだのだろうか。
その代わりに、呆れたような顔で、
「そこに立て」
と、陛下の斜め右前を指して言った。
「はあ、失礼します」
イヴァンの父親は、国王陛下の指示通りに動いた。
私たちと向き合う姿勢になる。
彼が移動する間、お父様は私に、
「彼は数年前から、あんな調子なんだ」
と、耳打ちした。
「どういうことですか?」
「数年前に、イヴァンの姉が結婚したのを覚えているか?」
「ああ……」
私はなんとなく察した。
数年前、イヴァンがジェシーと2人で興奮していたのを思い出す。
イヴァンの父親は現在公爵であるといえども、最近までは下位貴族だった。
お父様はあまり身分の差異は気になされない人だから、学生時代から仲良くしていたのだけれど。
そんな彼が、公爵に昇進したきっかけというのが、イヴァンの姉――現第一王子妃の結婚だ。
この国の第一王子が彼の娘を見初め、大恋愛の末に結婚することになったのだ。
王子妃の父親の位が低いのは具合が悪いということで、数年前に結婚と同時に昇進した。
要は全部イヴァンの姉の功労なのだが、そのせいで彼は天狗になったのだろう。
思えば、イヴァンとジェシーの間で不穏な動きが見られるようになったのも、そのくらいの時期だ。
そういうことだったのか。
妙に納得した。
「もう1人はどうした?」
国王陛下は、またイヴァンの父親に尋ねた。
ここには原告側は、イヴァンとジェシーの両親のはずだ。
ジェシーの両親がまだ来ていない。
「今日来るはずのジェシーの母親はどうした?」
「そ、それがですね……」
イヴァンの父親は少しどもった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと体調不良だそうで」
「なぜそれを事前に連絡しないんだ」
「す、すみません。ですが」
「言い訳はもう良い。来ないんだな?」
「は、はい」
「仕方がないな」
陛下はため息交じりに続けた。
「それでは、只今より裁判を始める」
そう、素振りだった。
はあ、はあと息を荒げてはいるものの、丸々と太った彼の身体には一筋も汗が垂れておらず、顔も上気していない。
至極普通の様相だ。
「何をしていた?」
イヴァンの父親の不敬過ぎる行動に神経が触ったのか、むっとした顔で国王陛下は尋ねる。
「だから」
はあ、はあとわざとらしく息をしながら、イヴァンの父親は言った。
「道に迷ってしまって」
「お前は公爵で、普段はこの城で働いているはずだ。この宰相と一緒にな。そんな人間が、なぜ道に迷う?」
イヴァンの父親は、国王陛下に向かって棘のある言い方をする。
「ご存じでしょう、陛下。私は方向音痴なのです。何度も言いました通り――それに、今回の件で心を痛めて少し動揺もしているのですよ」
ちらっと私の方を見る。
その気味悪い笑みを見て、私は困惑した。
この人とは何度も会ったことがある。
当然この人の息子は私の婚約者で、幼馴染だ。
婚約者のときは彼の家によく挨拶に行ったし、そうでなくても幼馴染の父親としてよく遊んでもらった記憶がある。
そのときはただの良い人だと思っていた。
こんなふうにマナーのない嫌味な人間だとはこれっぽっちも思っていなかった。
「お前な」
国王陛下は、これ以上責める気はないらしい。
言っても意味がないと踏んだのだろうか。
その代わりに、呆れたような顔で、
「そこに立て」
と、陛下の斜め右前を指して言った。
「はあ、失礼します」
イヴァンの父親は、国王陛下の指示通りに動いた。
私たちと向き合う姿勢になる。
彼が移動する間、お父様は私に、
「彼は数年前から、あんな調子なんだ」
と、耳打ちした。
「どういうことですか?」
「数年前に、イヴァンの姉が結婚したのを覚えているか?」
「ああ……」
私はなんとなく察した。
数年前、イヴァンがジェシーと2人で興奮していたのを思い出す。
イヴァンの父親は現在公爵であるといえども、最近までは下位貴族だった。
お父様はあまり身分の差異は気になされない人だから、学生時代から仲良くしていたのだけれど。
そんな彼が、公爵に昇進したきっかけというのが、イヴァンの姉――現第一王子妃の結婚だ。
この国の第一王子が彼の娘を見初め、大恋愛の末に結婚することになったのだ。
王子妃の父親の位が低いのは具合が悪いということで、数年前に結婚と同時に昇進した。
要は全部イヴァンの姉の功労なのだが、そのせいで彼は天狗になったのだろう。
思えば、イヴァンとジェシーの間で不穏な動きが見られるようになったのも、そのくらいの時期だ。
そういうことだったのか。
妙に納得した。
「もう1人はどうした?」
国王陛下は、またイヴァンの父親に尋ねた。
ここには原告側は、イヴァンとジェシーの両親のはずだ。
ジェシーの両親がまだ来ていない。
「今日来るはずのジェシーの母親はどうした?」
「そ、それがですね……」
イヴァンの父親は少しどもった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと体調不良だそうで」
「なぜそれを事前に連絡しないんだ」
「す、すみません。ですが」
「言い訳はもう良い。来ないんだな?」
「は、はい」
「仕方がないな」
陛下はため息交じりに続けた。
「それでは、只今より裁判を始める」
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