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映画
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私たちは約束通り、映画を見に行く手筈となっている。
――だが。
「そこ、映画館の方向じゃないわよ」
私はライナーに向かって言った。
ライナーは今、私たちが行くはずの映画館と真逆の方向を歩いている。
「こっちにもあるんだよ。映画館は」
「それは知っているけれど。少し遠いのよ」
「僕、ちょっと散歩したい気分なんだ。グレース、君も僕に付き合ってくれないか?」
「まあ、良いけど」
断る理由もないので、私は渋々ライナーについていく。
ここで、ふと気づいた。
私が行こうと思っていた映画館は、先日のデートで、イヴァンとジェシーのカップルに遭遇した場所なのだ。
私にその記憶を思い出させないように、気を遣って、わざと遠くの場所を選んでくれたのかもしれない。
私が前に行きたいと言っていたアクション映画は、かなり注目されている作品だ。
世界的に暗躍するスパイが主人公で、とある国が怪しげな武器を生産しているという噂を聞き、その国に潜入するという物語である。
ストーリー性やアクションの動きなんかはもちろんのこと、特に主演を務めるのが、最近注目され始めた市井出身の俳優で、その相手方が貴族出身の女優ということも、世間を賑わせているのだ。
「2人があまりにも仲良すぎて、デキているんじゃないかっていう噂もあるのよ」
「へぇ」
ライナーが目を丸くする。
「グレースって、映画が好きなの? それとも俳優?」
「映画の方。だけど、私は割とミーハーなのよ。流行りを追いかけているだけなの。あまり観に行く機会がないから、情報だけ頭の中に入れて、それで観た気になってた」
映画を観に行こうとすると、いつだってあの2人がついてくるのだ。
そうして、私の見たい映画ではなくゴテゴテのラブロマンスを一方的に選んでくる。
「だから久しぶりに、自分の興味のある映画を見に行けて嬉しいわ」
ライナーは目を細めて微笑んだ。
「それは良かった。僕は君のお役に立てたようで」
「ええ。本当に助かったわ」
私たちは受付に向かい、題名を告げる。
「2枚で」
「承知しました――はい、こちらになります」
受付をしているスタッフが、チケットを2枚渡した。
「ではこれで」
私が財布を取り出す間もなく、ライナーはスタッフが提示した金額を丁度トレイに乗せた。
「ライナー」
受付から一旦離れたのち、私は彼に言う。
「はい、これ。私の分のお金」
「ああ、良いよ別に」
「良いわけないでしょ」
私は無理やりお金を渡そうとするが、ライナーは受け取ってくれない。
ライナーの手を掴もうとするが、それを察知した彼は両腕を上げる。
ジャンプしてその手を取ろうとするが、身長差のせいで全然届かない。
「渡さないと、私が嫌なんだけど」
私は言った。
こういうところは、きっちりさせたい。
ライナーと、お金関係で揉めたくない。
「わかったよ」
仕方がないなあ、というふうにライナーは肩をすくめる。
「なら、次のデートでお礼してくれ。それでチャラにしよう」
「次?」
「そう。次は君が僕に奢ってくれれば――じゃ、もうすぐ始まるから行こうか」
ライナーは私の手を取り、この話は終わりとばかりにシアターへ向かう。
う、上手い。
次のデートへの約束の仕方が。
さすが、貴族随一のチャラ男。
――だが。
「そこ、映画館の方向じゃないわよ」
私はライナーに向かって言った。
ライナーは今、私たちが行くはずの映画館と真逆の方向を歩いている。
「こっちにもあるんだよ。映画館は」
「それは知っているけれど。少し遠いのよ」
「僕、ちょっと散歩したい気分なんだ。グレース、君も僕に付き合ってくれないか?」
「まあ、良いけど」
断る理由もないので、私は渋々ライナーについていく。
ここで、ふと気づいた。
私が行こうと思っていた映画館は、先日のデートで、イヴァンとジェシーのカップルに遭遇した場所なのだ。
私にその記憶を思い出させないように、気を遣って、わざと遠くの場所を選んでくれたのかもしれない。
私が前に行きたいと言っていたアクション映画は、かなり注目されている作品だ。
世界的に暗躍するスパイが主人公で、とある国が怪しげな武器を生産しているという噂を聞き、その国に潜入するという物語である。
ストーリー性やアクションの動きなんかはもちろんのこと、特に主演を務めるのが、最近注目され始めた市井出身の俳優で、その相手方が貴族出身の女優ということも、世間を賑わせているのだ。
「2人があまりにも仲良すぎて、デキているんじゃないかっていう噂もあるのよ」
「へぇ」
ライナーが目を丸くする。
「グレースって、映画が好きなの? それとも俳優?」
「映画の方。だけど、私は割とミーハーなのよ。流行りを追いかけているだけなの。あまり観に行く機会がないから、情報だけ頭の中に入れて、それで観た気になってた」
映画を観に行こうとすると、いつだってあの2人がついてくるのだ。
そうして、私の見たい映画ではなくゴテゴテのラブロマンスを一方的に選んでくる。
「だから久しぶりに、自分の興味のある映画を見に行けて嬉しいわ」
ライナーは目を細めて微笑んだ。
「それは良かった。僕は君のお役に立てたようで」
「ええ。本当に助かったわ」
私たちは受付に向かい、題名を告げる。
「2枚で」
「承知しました――はい、こちらになります」
受付をしているスタッフが、チケットを2枚渡した。
「ではこれで」
私が財布を取り出す間もなく、ライナーはスタッフが提示した金額を丁度トレイに乗せた。
「ライナー」
受付から一旦離れたのち、私は彼に言う。
「はい、これ。私の分のお金」
「ああ、良いよ別に」
「良いわけないでしょ」
私は無理やりお金を渡そうとするが、ライナーは受け取ってくれない。
ライナーの手を掴もうとするが、それを察知した彼は両腕を上げる。
ジャンプしてその手を取ろうとするが、身長差のせいで全然届かない。
「渡さないと、私が嫌なんだけど」
私は言った。
こういうところは、きっちりさせたい。
ライナーと、お金関係で揉めたくない。
「わかったよ」
仕方がないなあ、というふうにライナーは肩をすくめる。
「なら、次のデートでお礼してくれ。それでチャラにしよう」
「次?」
「そう。次は君が僕に奢ってくれれば――じゃ、もうすぐ始まるから行こうか」
ライナーは私の手を取り、この話は終わりとばかりにシアターへ向かう。
う、上手い。
次のデートへの約束の仕方が。
さすが、貴族随一のチャラ男。
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