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訴訟

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「訴訟を起こすそうだ」


 ライナーと一緒に帰ったその日、私はお父様に呼び出された。

「訴訟、ですか?」

「ああ。自分たちの息子と娘が付き合っているという、あられもない噂を立て、名誉を著しく傷つけたとして、な。これがその手紙だ」

「はあ」


 私はお父様から手紙を受け取る。

 イヴァンとジェシーの両親から、訴訟を起こすという旨の書簡が届いていた。


「まさか、こんなことになるとは……。あいつら、気でも狂ったのか」

 お父様は、頭を抱えている。

 随分と疲れているようだった。


 無理もない。

 親友だと思っていた人々の子どもたちが自分の子どもを裏切り、あまつさえその両親は自分たちの子どもに肩入れしようとしているのだ。


「すみません、お父様」

 私は謝罪した。


「いや、お前は何も気にしなくて良い。悪いのはお前ではないからな。それより、訴訟を起こされたとなると、お前も法廷に立たないといけなくなる。それは大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です」


 私は手紙をパラパラとめくり、はたと気づいた。

「これって、もしかして国王裁判ですか?」

「ああ……。どうやら、私たちのいざこざに、国王陛下まで巻き込もうとしているようだ」


 国王裁判とは、文字通り貴族たちの揉め事を国王自らが裁く審判のことだ。


「こんな男女の揉め事に、国王陛下を?」

「ああ。あいつら、よっぽど自分たちの子どもが可愛いんだろうな」


 お父様は嘆息した。

「それで、だ。グレース、他に証拠などはあるか?」

「証拠ですか?」

「ああ。もちろんあの音声だけでも、かなりの力がある。しかし、念には念を入れよう。私たちが勝つために、もっと証拠を集めなければならない」

「そうですねぇ」


 私は考え込んだ。

「日記も、証拠にはなるんですよね?」

「ああ」

「私、ずっとつけてた日記があります。あとは、何人かジェシーの被害にあっていたり、彼らが2人きりでいる様子を目撃した生徒たちもいるはずです」

「なるほど。では、彼らに証人として出てもらえるかどうか、頼んできてくれないか?」

「承知しました」


 私は頭を下げ、部屋から出て行こうとする。

「ちょっと待て」

 お父様は、背中越しに声をかけてきた。

「はい」


 お父様は咳払いして言った。

「……最近、仲の良い男友達がいると、オズワルドから聞いたぞ」

「ああ。ライナーのことですか?」

「今回の件について、大変世話になっているようだな。彼に、私がよろしくと言っていたと伝えてくれ」

「あっ、はい」


 さっきの頼もしさはどこへやら。

 お父様は、至極気まずそうにしていた。
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